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神様がいない異世界新生活  作者: 出佐由乃
ユズ市の道具屋 編
27/42

27 閑話 お姉ちゃんがいない世界の新生活

「お姉ちゃん」

「……何?」

「大丈夫!」

「…………しょうがないなぁ」


 お姉ちゃんが地底湖に入った。

 私はロープの端をお姉ちゃんに渡し、親指をグッ!

 それを見たお姉ちゃんも少し呆れた顔をしながらも親指を立てた。


(いってらっしゃい!)


 心の中でそう言って送り出したお姉ちゃんは、ついに帰ってこなかった。





 あれから一週間、両親とお姉ちゃんの通う大学からの事情聴取に明け暮れ、忙しくてお姉ちゃんのことを考える余裕がなかった。お姉ちゃんのことで忙しかったのに。

 ひとまずお姉ちゃんは海外に留学していて、それを私だけに告げて行ってしまった、ということにした。ちなみに行き先はマレーシア。お姉ちゃんが興味を持ってるのはみんな知っていたので多少信憑性は……ある、と思う。

 両親はずっと疑っていて今も信じていないようだけど、とりあえず拘束から逃れることができた。思い付きで海外に行くような性格してないもんなー、お姉ちゃんは。

 大学の方は一年休学という処理になるらしい。大学からの追及はすぐに止んだ。一人の学生だけに時間を取られるわけにはいかないのだろう。学生数も高校とは桁違いだろーし。

 そんなこんなで、私は連日の質問攻め、電話対応に追われて大変多忙を極めたのだ。


 そんな私は今、お姉ちゃんが一人暮らししてたアパートの部屋にいる。

 学校は、もう始まっている。でも行ってない。親には友達の家に泊めてもらっていることにしている。

 なんで行かないのかって?それはもちろん、異世界に行く準備をするためだ。

 お姉ちゃんが帰ってこなかった。もちろん事故の可能性もある。でも私は確信している。

 あの地底湖は異世界に繋がっている。そう確信している。

 だから私は、ここで次なる計画を、計画を……


「お姉ちゃん……」


 ふと部屋に響いた自分の声に驚く。雨音にもかき消されそうな、小さな声だった。

 私は独り言はしない。お姉ちゃんがブツブツ言ってるのを見てきたから、私はしないようにしていた。それなのに、それなのに……


「……お姉ちゃん、楽しんでるかなー?」


 お姉ちゃんは私のわがままに、文句を言いながらもなんだかんだで付き合ってくれた。

 私は思い付きで行動するタイプなのだ。休日に予定がないと、暇そうにしてるお姉ちゃんを誘って散歩したり、買い物に行ったり、美術館に行ったり……

 しょうがないなぁと言いながら、一番楽しそうにしてるのがお姉ちゃんだ。


「魔法使って無双してるかなー?それとも使えなくて苦労してるかなー?」


 お姉ちゃんが大学に行くために一人暮らしをすることになったとき、私は寂しいとは思わなかった。会いに行こうと思えば会いに行けるし、SNSもあるし通話もできる。行ったことのない場所だったから、長期休みに会いに行くのを楽しみにしてたくらいだ。


 お姉ちゃんが家を出て最初の休日、私はふいに動物園に行きたくなった。動物園が好きなお姉ちゃんを誘って、お姉ちゃんの動物解説コーナーにでも参加しよーっと思って、家の中でお姉ちゃんを探した。

 親にお姉ちゃんの居場所を聞く、すんでのところで気づいた。そうだった、お姉ちゃんはもうここにはいない。

 寂しい、というよりは虚無感。一か月前にお姉ちゃんと行った美術館が急に懐かしく感じる、そんな感じ。ぽっかり、が上手く当てはまりそうだった。


「使えても使えなくても新しい生活を楽しんでるのは間違いないねー。羨ましいなー」


 今は、今は会いに行こうと思っても難しい。SNSも通話もできない。お姉ちゃんを振り回して困らせることも、できない。


「現在進行形で困ってるって?……そうかなー?」


 寂しい?……そっか、寂しいんだね。


「お姉ちゃん……」


 スマホのSNSアプリのお姉ちゃんのチャットルームを開く。最後の返信はスタンプで『了解!』となっている。コンビニでお茶を買うのを頼んだときのだ。

 こんな小さい会話も、今はもうできないんだ。


「ふう」


 一旦落ち着こう。気分を上向けることに集中。とりあえず上を向いて……


 つぅ


 頬を水滴が撫でる。くずぐったい。

 ああ、これ涙かー。いつの間にこんなに溜まってたんだろう。


「あ、はは……はあ」


 お姉ちゃんのベッドにドサッと寝転び、枕に顔を埋める。

 そのままその日は眠りについた。





 コンコンコン


「郵便です。お荷物です」


 コンコン


「お荷物です。お届けに参りました」

「ん、はーい……」


 目を擦りながら明るさに目を慣らすのに数十秒。ふらふらしながら玄関に足を向ける。


 ガチャ


「どうも、郵便です。ここにサインください」

「はーい……」

「すいませんね、寝起きですか?」

「はーい、そんな感じですねー」

「アハハ。はい、ありがとうございます。では、失礼しました」

「はーい」


 ガチャン


 玄関に置かれた大きな箱を見て、首をふるふるして目を覚ます。気分が高揚し感覚が冴え渡る。拳をグッと握る。


「お姉ちゃん、待ってて!私は諦めないよー!」

大丈夫かと思い行きや、大丈夫じゃなくて、でも大丈夫だった妹の咲ちゃんです。


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