26 せんせいは何者でしょう
「議員って、あの議員ですよね?」
「あの議員がどの議員かわかりませんが、国の最高機関である共和国議会において法案の議決を行う役職である議員です」
「それはわかってます。その、せんせいが議員ってのは」
「仙丈星夏さんは有州市の選挙区から選出された議員です」
「は、はぁ」
「疑ってらっしゃるのですか?無理もありません。身近な方がまさか政府関係者だとは思いもしないでしょうから」
「あ、いや。疑ってるわけではないんですけど……はぁ」
おどろき桃の木山椒の木、柿の木栗の木かきくけこ。……びっくりだわ。
「せんせいが議員さんなのは本当よ。その肩書をすすんで名乗ることはないけれど」
「はぁ、まじかぁ……なんで秘密にしてたんだろ」
「実はせんせいは立候補してないのよ。でもこの有州市からは候補者がいなかったから、選挙によって推薦されたせんせいが議員になったの」
「選ばれたら強制で議員やらされるのか……」
「それがこの山櫻共和国の法ですから。議会に空席を作るわけにはいかないのですよ。でも星夏さんの場合は、政府からも要請があって議員をやっていただいているのです」
「政府から?なぜ?」
「それはもちろん、せんせいはこの国の……」
ガララ、ピシャンッ!
「ただいま~!」
「せ、せんせい!?」
「星夏さんっ!」
頼むからその引き戸はゆっくり開けてほしい。けっこう音がでかいんだよ。
……じゃなかった。
「せんせい、帰り早いですね?」
「来城さんがこっち来たって聞いたからね~」
「星夏さん、急ぎの件がありまして、百花王国からの要求が……」
「はいはい、行きますよ~」
「それではお食事中のところ、大変失礼いたしました」
「それじゃ行ってくるわね~」
「いってらっしゃいなのじゃ!」
「お、お気をつけてぇ……」
あわただしいなぁ。
……そういえばお昼ごはんの途中だった。火憐は私たちが話してる間も絶えず食べてたけど。関心のないことにはとことん関心を持たないなぁ、火憐は。
「で、菜々さん。国から求められるほどのせんせいって一体何者?」
「あ、そっか。えみちゃんはこの国の人じゃなかったわね」
「この国の人は知ってて当たり前のことなんですか?」
「せんせい本人に会ったことがなくても、名前を聞けば何をした人なのかはみんなわかると思うわ」
「なんですか、それ。英雄か何かですか……?」
「そう、英雄。この国の英雄よ」
「……は?」
英雄?英雄ってあの英雄?国を救ったとか、国民を守ったとか、戦争に勝利したとか、その英雄?
「えみちゃん、それ好きね。英雄は英雄よ」
「え、えええ……。一体何をしたんですか?」
「えみちゃんはこの国で起きた革命って知ってる?」
「え、ええ。せんせいからちょろっと聞かされました」
「その革命の立役者なのよ、せんせいは」
「……え、あの、どゆこと?」
「そのまんまよ。革命はせんせいが起こし、せんせいが鎮めたと言っても過言じゃないわ」
「せんせいが起こし、鎮めた……?革命を?」
「そうよ」
待て待て待て。わからん。全くもってわからん。なんじゃそりゃ。革命を自力で起こし、腐敗した王制を終わらせ、その混乱を自ら鎮める……まるで英雄じゃん!
「だからせんせいは英雄なのよ」
「えええ……。そんなすごいことができる人には見えなかったけど。いいとこ道具マニアでしょ?」
「私も実際この目で見たわけではないから、お父に言われるまで信じられなかったわ。そんな人には見えないもの」
「そ、そうですよねぇ……」
「でも革命を実際に見た人や、政府の人たちがそう言うんだから本当なのよ」
「まじかぁ……」
人は見かけによらないとはまさにこのこと。雇用主が国の英雄だったとは。
……ってか革命の英雄ってことは、せんせい何歳だよ!?
「えみちゃん、それは口にしてはいけない」
怖えよ英雄様。……歳を隠す必要ある?
お昼ご飯の片づけをして、お菓子をつまみながら優雅なお茶会in道具屋。
火憐は話についていけないからか、いや、興味がないからいつもの本を読んでいる。引き続き、私と菜々さんでお送りいたします。
「それじゃ、本当に知らなかったんですねぇ」
「そうなのよ。せんせいは英雄ってこと隠すのよ。向かいに住んでるのに知らなかったんだから、親に教えてもらうまで」
「この国の英雄なら、姿を一目見たいって人がたくさん押し寄せてきそうですけどね」
「昔はあったみたいよ?でも英雄を困らせるなってことで、政府が手をまわしたみたいよ」
「そういえば、英雄になったせんせいはなんでこんなところで道具屋やってるんですか?議員やってる今でも続けてるし、意味があるんですかねぇ?」
「さあ?せんせいが考えてることは全くわかんないから。私たちの考えてることはすぐ当てられるのにね」
「たしかに」
「でもえみちゃんの考えてることは私でもわかるわよ?」
「ええ!?ど、どうやって!」
「だって、声に出てるんだもの」
「んぐぅっ」
そんなに私、声にしてる?傍目から見たらやばいやつじゃんっ!
「今、まさに声にしてたわよ」
「ぎゃあっ!」
「ふふふ」
「えみちゃん、お店頑張ってね」
「はい、もちろんです」
「火憐ちゃんも、お手伝い頑張ってね」
「もちろんなのじゃ!」
「また明日ね」
ガララ……シャン
……火憐の方が店員としては先輩なのに、火憐の仕事が私のお手伝いになってるのはいいのか?
「えみ、風呂一緒に入るのじゃ!」
「その前に閉店作業したら、ね」
「わかったのじゃ!」
こうして私の店長生活、一日目が終わったのだった。濃いようで薄いようで濃い、ドリンクバーのカル○スみたいな一日だった。
「かるいす?それは新しい魔法か?」
「火憐はそればっかりね」
「星夏さん、もう時間遅いですよ?何を探してらっしゃるのですか?百花王国の資料ですか?」
「いいえ~?百花王国のことなら資料を見なくてもわかるわよ~」
「では、何を探してらっしゃるのですか?」
「そうね~?あの結界……」
「あの結界?」
「『神性結界』について、かしらね~?」




