21 『魔法』ってなんだ? (挿絵付き)
ガシュッゲインッズズウゥゥン……
私はぼけっと火憐のシュートを観戦していた。
ジャリララララ……
たまに眠気がフッとやってきて頭をカクンとして帰っていく。
ゲシュッガインッッズウゥゥン……
背中に受ける朝日が暖かくて気持ちがいい。
ジャラリラララ……
私、異世界にいるんだよなぁ。
ガンシュッガキンッドズゥゥゥン……
実感が全くないわぁ。景色が和風なんだよね。生き物も今のところは見たことのあるやつばかりだし。
ジャラララララ……スッ
食べ物も和食なんだもの。新鮮味がないよねぇ。
なんか、こう。元の世界には絶対にない、とんでもないこと、起きないかなぁ。
「えみ?」
実感の湧かない一番の原因は、私に何の変化も無いことだろうね。チート能力を手にしたわけでも、新たな身体を得たわけでも、神様に出会ったわけでもないし。
「えみ!」
「え?あ、はい」
「えみ、どうした?大丈夫か?」
「え?あぁ、うん。ぼけっとしてただけ」
「そうか」
「終わったの?」
「ん?いや、な。えみが暇そうにしておったから、魔法を見せてやろうと思ったのじゃ」
「あぁ、そういえば、魔法があったなぁ」
「さっきから使っておるのじゃが……」
「そっか、あれも魔法だったね」
「そうじゃが……大丈夫か?」
「あによ?大丈夫よ」
「……そうか。それで、えみはどんな魔法が見たいのじゃ?」
「んんっと、私、魔法について全然知らないのよね」
「そうじゃったか」
何度も言ってる気がするけど……
「魔法にはな、『属性』というものが存在するのじゃ。大きく分けると『風』『火』『水』『地』の四属性が存在するのじゃ」
「ほうほう。四大元素ってやつだね」
「自力で新たな属性魔法を構築する者もおる。例えば『氷』『光』『結界』といった属性が知られておる。四属性の応用という位置づけじゃ」
「なるほど。氷は水の応用かな……」
「そしてそれらの属性の根底にあるのが『念力』じゃ!」
「ちょっとよくわかんない」
「んじゃ!?」
「『念力』が、どう四属性と結びつくのかがわかんない」
「むう……そ、そうじゃな。見たらわかるかもしれんのじゃ!」
そう言って火憐が腕を向こうに伸ばした。
ん?ちょっと地面が揺れてる?地震?
ガッドォォォンン
火憐が腕を伸ばした先3メートルの地面が、2メートル程飛び出した。
なんて言えばいいだろうか、幅1メートルの土の柱が地面から生えた。
私は驚いて座ってた倒木から後ろに転げ落ちた。イタイ。
……まさに魔法だ。……これだよ、こういうのだよ!
「このように『念力』で地面を……えみ?」
「大丈夫ぅ……ちょっと吃驚しただけぇ」
「そ、そうか。えと、『念力』でな、地面を持ち上げたのじゃ。これが『地属性』の魔法じゃ」
……それは本当に『地属性』なの?『属性』とは言うけど、動かす対象が異なるだけでそれはただの『念力』なのでは?
ただの、はおかしいか。『念力』も十分すごい。だけど、それは『魔法』ですか?
「もしかして風も念力で?」
「そうじゃ」
思ってたんとちゃう……
私の魔法のイメージは、魔力を火や水といった魔法の現象に変換するというものだった。だから、何もない場所から炎が発生したり、晴れてるのに雷が落ちたり、そういうのを想像してた。
この世界の魔法は念力によって、そこに存在する物質に作用することで現象を起こすようだ。
……『火属性』の魔法が難しいと言われている理由はそのせいなのでは?
火を起こす、という行為は『燃料』と燃料を反応させるための『エネルギー』が必要だ。具体的に言うと『可燃物』と『酸素』と『熱』だ。
酸素は空気中にあるから問題ない。しかし魔法のように、何もないところには火を生み出すには『可燃物』と『熱』をどこかから持ってこなければならない、この世界では。
念力で熱を生み出すことは可能だろう。対象を振動させたり摩擦したり、ミクロな視点から言えば、対象を構成する分子や原子を動かせば熱は生まれる。
その代わり、可燃物の生成はかなり難しいだろう。空気中の水分を電気分解して水素を生み出し、酸素と混ぜて……なんてアホすぎる。二酸化炭素と水から可燃性ガスを……もばかばかしい。
逆に、可燃物がすでにそこに存在するなら、火を起こすのは簡単だ。原始人みたいに、木をこすり合わせるやつを念力でやればいい。油があるなら、油の温度を上げれば自然に発火する。
ぱちぱち……
攻撃手段に使うなら、敵を『可燃物』にすればいいのだ。敵の身体を構成する分子・原子を振動させ熱を発生させて燃やす。これでおけ。……燃える前に高温で絶命するか。
大体、わざわざ燃やさなくても念力があるなら、対象の動きを封じるだけで勝てるだろう。宙に浮かすだけでもいい。私がされたみたいに。
なんだか暑くなってきた。頭を使い過ぎたか……って、ええ!?
「えみ、木が燃えたのじゃ!」
「火憐、どこから火を……!?」
私が座ってた倒木の端が燃えている。そりゃ熱いわ。
……いやいやいやいやいや!
「あぶなっ!?なにしてんの!?」
「え、えみが言ってた、ものを振動させるというのをやってみたのじゃ。そしたら……」
「燃えたのね。……なんでそこでやったし」
火は小さくなっている。この倒木もかなり水分を含んでいたし、火の周りは土がむき出しになっているので燃え広がることはないだろう。でもねぇ……
「あのねぇ、火は危ないのよ?林の中で火遊びなんて自殺行為だわ。枯れ葉に燃え移ったらやばかったよ?」
「……」
「ねえ、ちょっと?聞いてる?どしたの、口をぽかんと開けて。虫が入るわよ?」
「えみ」
「なに?」
「火を起こせたのじゃ」
「そりゃ、起きるでしょうよ。起こしたんだから」
そうだ。照葉樹林の樹木の種類の覚え方の最後は、~でしょうよ、だった気がする。
ってか、火憐は大丈夫かな。火災を起こしてしまったかもしれないことが衝撃的だったかな。
「えみ、『火属性』じゃぞ?『火属性』……」
「ん?あぁ、これ『火属性』の魔法の扱いになるんだ」
「そうじゃ。最も難度の高い『火属性』じゃ。わしが……」
「そういえば言ってたね。世の理を全て解き明かした者が、とかなんとか」
「……えみが、『世の理を全て解き明かした者』じゃったか」
「……はぁ?」
「やっぱりえみは神様じゃったか」
「い、いや、ちょい待ち」
「えみは神じゃぁ!」
「違うわっ!」
なんとか火憐を落ち着かせ、もう一度私が神様じゃないことを言い聞かせた。それでも火憐は火属性魔法が使えたことが余程嬉しかったのか、息を荒げたままだった。
「ふんすふんす」
「落ち着けチョップ」
「あだっ!?」
……まずいな。
まるで隠してあったライターを見つけた子供だ。絶対にこの『新しいおもちゃ』で遊ぶに違いない。火事になる前に火の危険性についてしっかり教えなくてはいけないなぁ。
これも火憐のお世話役としての仕事の内だろう。
「火憐、火はとても危ないのよ?だからまずは、その燃やした場所に水をしっかりかけておきなさい?」
「わかったのじゃ!」
ドッパァァァンン
ガボゴボボボ……




