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神様がいない異世界新生活  作者: 出佐由乃
プロローグ
2/42

2 春休みのある日のこと

 私の名前は伊勢(いせ)(えみ)

 21歳。都会から離れた地方の大学の2年生。

 いちおう理系だったりする。


 高校までは都会に住んでいたけど、一人暮らしがしたかったのと、都会の人混みが嫌いだったから地方に来た。

 都会は便利なんだけど、20年ほど住んでも慣れないんだからしょうがない。

 実際、今の環境はとても気に入っている。

 山がいつも視界に入るし、大学は徒歩で行けるし、何より人が少なくて静かだ。


 家はアパート。

 可もなく不可もなく、よくある安アパート。

 大学が近いから、他の部屋もみんな同じ大学の学生。

 廊下で鉢合わせても挨拶すら交わさないけど。

 部屋には勉強机しかない。テレビすらない。


 大学は静かだ。

 みんな、ただ『大学卒業』という肩書きが欲しいだけって感じ。

 私も特に何かしたくて大学に入ったわけじゃないから、みんなと同じ。

 たまに単位を落とすくらいで優秀でもないし、おバカちゃんでもない。

 一浪して入った割にはボケーっとした普通の大学生だ。


 部活にはいちおう在籍はしていたけど、ほとんど顔を出してない。

 ワンダーフォーゲル部っていう大層な名前のサークルで、外で何か活動しているみたいけど、私は行ったことない。

 未だに『ワンダーフォーゲル』の意味がわからなかったりする。

 部室にヘルメットとかロープとか置いてあったから、岩山とかに行くのかな。


 友達はいる。

 1年の最初のガイダンスで友達になって、部活に誘われて、カラオケとか一緒に行ったりした。

 でも2年になって講義が被らなくなると、あんまり喋らなくなった。

 最近はもっぱら一人でいることが多い。


 環境はいいけど、今の進路にはちょっと不満がある、普通のJD(女子大生)

 こんな大学生活も3年目を迎えようとしていた。



 期末試験が終わって、受験生たちはラストスパートをかける頃、私は長い春休みに突入していた。

 バイトもやってないし特にやることのない私は、わざわざ都会の実家から来た妹の(さき)と家でだらだらしていた。


「お姉ちゃん」

「……うん?」

「お姉ちゃんは大学で何やってるの?」


 咲は高校3年生。

 本当なら受験戦争の真っ只中のはずだが、早々に諦めて専門学校に入学を決めていた。


「何って、そりゃ勉強してるよ」

「いや、それはわかってるよ。なんの勉強してるの?専攻とかあるんでしょ?」

「まだ専攻ってところまで行ってないよ。高校の範囲の延長みたいな感じ」


 ぶっちゃけ講義は面白くない。

 この頃になると、みんな口を揃えて「なんで入ったんだろ」って言う。

 思ってたのと違う、って感じる人が多いみたい。

 私も元々勉強したくて入ったわけじゃないから、浪人時代の自分に「もっと深く考えろ」って言いたい。


「ふーん」


 興味がない、ということを身体全体で表現するように、床に寝っ転がってスマホでパズルゲームをしている咲。

 私も専門学校に入ればよかった。その方がまだ将来の為になりそうだ。

 ベルヌーイの定理とか、いったい何処で役に立つんだか。

 その方面に興味はないし。


 そんなことを考えながら、私はベッドの上でノーパソをいじっていた。

 テレビがないから、世間の話題は全てインターネットから取得している。


 ノーパソの、マウスの代わりの、名前がわかんない。タッチパネル?を二本指でスライドさせながらニュース記事を見ていく。

 ふと、見出しに洞窟の画像がある記事が目に留まった。


『あの行方不明事故から5年 彼らのゆくえは』


 5年も前の事故なんて覚えてないけど、最近も洞窟に取り残されたとかいう事故があったばっかりだから、少し興味が湧いて記事をクリックした。


 その行方不明事故とは、私の今住んでいる場所の近くにある、山の斜面に建てられた小さな神社の裏にある洞窟、その中の地底湖で起きた事故だ。

 あるテレビ局の特番で、調査に赴いた潜水士二人とカメラマン一人が潜水中に行方不明になったのだ。

 当時は、機材に不備があったとか、洞窟の管理をしている神社の許可を得ていなかったとかで話題になった。


 その地底湖は深さが3メートルほど。透明度が高く、事故当時洞窟内にいた地上スタッフ達は潜水士達が地底湖の底に着いても彼らの姿を確認できたという。

 しかし、潜水士達が底の方に横穴を発見し、その穴に彼らが入った途端、連絡が途絶えたらしい。

 最初は、狭い穴だから電波が届かないのだろう、と地上スタッフ達は考えていた。

 ところが、潜水士達は空気タンクが空になるとされる時間になっても出てこなかった。

 ここですぐに警察や消防を呼んでいたら、っていうのがネタにされていたけど、この記事は異なった視点で書かれていた。


 『潜水士達は異世界に転移した』


 これはネットの掲示板なんかで盛り上がっていた話題。

 事故後に、カメラを積んだ無人機で地底湖の調査が行われたけど、潜水士達の遺体も機材も、カメラマンの持っていたテレビカメラさえも見つからなかったのだ。

 当時はエレベーターや地下鉄で異世界へ行く方法を検証した動画なんかが多く投稿されていた時期でもあり、事故があった洞窟に行ってみたという動画が再生数を稼いでいた。

 これはこれで炎上して問題視されて、それ以降はそういった動画は少なくなったけど。


 あれから5年。多方面からの視点で書かれた記事は、未だ潜水士達は姿を見せない、と記事を締めくくった。


「咲」

「なーにー?」

「あんた洞窟の事故覚えてる?」

「このまえの?助かったやつでしょ?」

「違う違う。それより前の、見つからなかったやつ」

「えー、それは知らない。っていうかいつの話?」

「5年前」


 さすがに覚えてないか……


「あー。3人いなくなったやつでしょ?そういえばこの辺だよね、あの洞窟」

「覚えてんの?」

「そりゃ、結構盛り上がったからね。別の世界に繋がってるとか、妖怪が潜んでるとか」

「そうなんだ」


 随分詳しいな……


「あの時は結構ネットにどっぷりだったからね。お姉ちゃんは部活で忙しそうだったし」

「そういえば、そうだった」


 咲は、今は仲の良い友達と遊んで楽しそうだけど、中学の時は引き籠りになっていて一日中パソコンをいじってた。

 私は逆に、高校の時は部活で友達と忙しくしてたけど、今は一人暮らしでパソコンとにらめっこだ。

 ゲームが終わったらしい咲は、スマホの電源を切ってこちらに向いた。


「ねえ、その洞窟、行こうよ」

「え?」

「春休み、暇だし。せっかくだから」


 あんたは受験諦めたから暇なんでしょうが。本来まだ春休みじゃないでしょ?


「しょうがないなぁ。私も暇だし。行くかー」





 スマホの地図を頼りに原付を走らせて、30分ほどで目的の洞窟のある神社の前にたどり着いた。

 神社の前、といっても長い長い階段の前だけど。


「うえー、まじかー」

「あんたが来たいって言ったんだからね」

「そうだけど……うわー、まじかー」


 無言で階段を上り続け、やっとこさ神社の拝殿?の前に着いた。


「はぁ、はぁ」

「お姉ちゃん、息、あがり過ぎ。運動、しないから、だよ」

「そういう、あんたも、結構、あがってるじゃん。どうした、現役JK(女子高生)

「もうすぐ現役じゃなくなるし」


 来る途中のコンビニで買った緑茶をグイっと飲んで、いちおうお参りだけしておく。


「……ねぇ、洞窟ってどこにあんの?」


 聞かれた咲はスマホを見る。


「こ、ここからもっと登ったところ……」

「まだ登んの!?」


 それからまた細い階段を上り続け、階段が階段と呼べないような、石段が枯れ葉に覆われた道を上り続け、草木に覆われて視界も悪くなった道をひたすら登り続けて……


「ねえ! まだなの?」

「もう少しのはず……あ!見えた!」


 そこにあったのは工事現場にあるような黄色い金網のフェンスで塞がれた洞窟の入口だった。

 金網にはツタが絡まってるし、錆びて穴だらけだし、もうボロボロだ。


「うわー。長いこと人は誰も入ってないみたいだね」

「ヘビとかクマとかいそう……」


 木の札に立ち入り禁止と書かれているし、これ以上は……


「帰ろっ「入ってみようよ!」か。……え?」

「どうせ誰もいないし、ね。ちょっと見るだけ!」

「そうは言っても、金網があるし」

「ここ! ここからなら入れる!」


 そう言って咲は、金網と岩肌の隙間から身体をねじ込んで洞窟内に入ってしまった。


「ほら、入れる!」

「はぁ。しょうがないなぁ……」


 私も咲が通った隙間をくぐって洞窟内へと足を踏み入れた。

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


……これ、入れてみたかったんだー

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