19 寝てる人のお腹の上には乗らないでください
「えみ、大丈夫か!?」
「え、あ、うん。それにしてもせんせい、それを先に言ってくださいよぉ……」
「あらあら~ごめんなさいね~?」
次の生徒の募集が1年後ということは、今年の募集は最近終わったのだろう。1年単位で募集をかけるあたりは日本の学校と同じだ。暦はどうなってるかわからないけど、今の季節は初春ってところだから、入学する時期も日本の学校と同じくらいになるかな。桜が満開の入学式とか、新たな出会いを予感させていいよね!
「えみは変なところだけ詳しいの。学校の周りには多くの桜が植わっておっての、学校に入るころには満開になっているはずじゃ!」
「まじか。こっちの学校も桜があるんだ。やっぱり学校にある木と言えば桜なんだね」
沖縄とかだと違うかもだけど。ガジュマルが校庭にあるのはどこだったっけ?
「学校に桜があるのはこの国だけだと思うわ~?」
「そうなんですか?」
「ほら、なんたってこの国の名前は『山櫻共和国』ですもの~」
「ああ、なるほど。国の花が桜なんですね」
「国が共和制になった時に国の名前が変わってね、審査学校もその時に新設されたのよ~。それで、新たな国の名前にある山櫻を国の施設に植えたのよ~」
「ヤマザクラ?」
ソメイヨシノじゃないのか。まあ、吉野の桜はソメイヨシノじゃなくてヤマザクラだし。ソメイヨシノは元々、ソメイさん家のヨシノ桜だし。
「そめいよしの?なんじゃそれは。魔法か?」
「とある国の桜の名前よ。……火憐ってそればっかよね」
「わしは魔法の勉強をしたいのじゃ!」
「審査学校では魔法も教えてくれるんですか?」
「魔法を勉強したい人は少ないから専門に教えてくれる人はいないと思うけれど、魔法に関する本ならあるんじゃないかしら~?」
「楽しみじゃ!」
「楽しみなのはいいけど、その前にお金を貯めないと」
「そうじゃった……」
「火憐は今いくら貯まってるの?」
「わしか?わしはな、百二十文貯まっておるのじゃ!」
「それ、貯まってるって言わんわ!私の日給より少ないじゃんか!」
「むむむ……」
「二人とも~?もう遅いから、今日は寝なさい?えみちゃんは明日はお店について覚えることが沢山あるんだから」
「そうじゃな!それではえみ、行くぞ!せんせい、おやすみなさいなのじゃ!」
「お、ちょっと、引っ張らないでっ!せんせい、おや、おやすみなさい!」
「あらあら~おやすみなさい~」
火憐は私の袖をがっちり掴んで引っ張る。私も目的地は同じだから逆らわずついて行く。
階段を上がり、布団の前まで火憐に引っ張られてきた。子供かっ!
「えみ、えみ」
「なに?」
やけに興奮した様子の火憐。これから寝るんですけど。……そんなキラキラした目で見つめられても、私は寝るんですけど。一体何を期待しているの?
「えみの故郷の話を聞かせてほしいのじゃ!」
「ええ?今から?私、明日の為に早く寝たいんだけど」
「少しでいいんじゃ!わしの知らないこと、色々聞かせてほしいのじゃ!」
「……はぁ、しょうがないなぁ。少しだけだよ?」
「ありがとうなのじゃ!」
私は前の世界のことを色々思い返していたら、ふとリニアモーターカーのことが頭に浮かんだのでその話をしてあげた。外見や性能、動く仕組みと原理、どんな場所を走るのかなどなど、知っている限り話した。まだ完成していないけど実験線を見に行ったことはある。意外と走行音がでかいのよね。っていうか、走り抜けたときの風圧がかなり怖い。ホームに列車が来る度あの風が襲うなら私は乗りたくないわ。まあ、その辺は上手いことやってるんでしょうけど。
「……というわけなのよ」
「ぐぅ……」
……寝てるし。私がせっかく懇切丁寧に解説してやったというのに。温度を下げると電気抵抗が少なくなって、ある温度に達すると抵抗がゼロになる超電導の話とか、面白いでしょ?
……異世界の人に話すことではないわな。ましてや火憐に。
時計が無いから時間がわからないけど、長いこと喋っていた気がする。喋ってると時間忘れるよね。本日二敗。
……寝よう、私も。
火憐のすやすや寝息と寝顔を最後に見て、私は目を閉じた。
……………………
…………
……私は燃え盛る炎の中にいた。
……場所は木造の建物。よく燃えてる。
……目の前には建物の折れた梁が斜めに落っこちてる。
……上を見上げると天井にも火が燃え移っているのが見える。
……高い天井だ。ここまで燃えたらもうこの建物は諦めるしかない。
……天井がゆっくりと私に近づいてくる。
(……みっ!)
……誰かの声が聞こえた。炎を纏った天井が私の目の前まで来ている。
(ぇみ……!)
……私の名前を呼ぶのは誰だ?
(えみっ!)
……いや、まじで誰だよ!?
ガバッ
「おまだれ、あだッ!?」
「ぇんじゃ、ぶべっ!?」
イッタァ……ぃ……
頭を何かに勢いよくぶつけたぁ。ぐわんぐわんするぅ。
火憐が涙目で頭を押さえているのが見える。ぶつかったものが判明した。
「えみぃ、痛いのじゃぁ……」
「火憐んんん……あんた、なんで私のお腹の上に乗ってるの?おかげで酷い夢見たわよ」
「どんな夢じゃ?……ぃたたた」
「えぇっと、確か………………」
なんだっけ?こういうのってすぐ忘れるよねぇ。悪い夢を見たってことだけ覚えてるんだ。
「なんじゃ、忘れたのか」
「あ、いや、待って。……確かね、火憐に呼ばれた気がする」
「そりゃ、呼んでおったからじゃ」
「そうなの?」
「もう朝じゃからな!」
「え、あ、そうね」
小さな窓から白い光が差し込んでいる。床に反射して私の目を刺激する。思わず目を細める。
「うむ。では行くぞ!」
「うん。……いや、どこに?」
「どこって、外じゃ外!」
「外?店は?」
「店はまだまだ先じゃ。せんせいはあと数時間は起きんじゃろう」
「えぇ……それなら私、もうちょい寝る……すぅ……」
「だめじゃ!えみはわしと一緒にいるとせんせいと約束しておったのじゃ。わしは外に行きたいのじゃ!じゃから、ついてくるのじゃ!」
「えぇぇぇぇ……やだぁ…………火憐、おいで」
「なんじゃ?」
「我儘な火憐はこうだっ!」
がばぁ
近づいてきた無警戒の哀れな火憐を布団で捕獲した。まるで食虫植物。私はさすがに虫は食べないけど。
「ぬううううう!」
「ほれほれ火憐よ、布団の温もりの魔力に魅せられるがいい……」
「なんじゃと!?布団が温かいのは魔法じゃったか!」
「あ、いや……いや、そう。そうだよ!そして、火憐は布団に入ったが最後、その魔力によって布団の外に出ることが叶わなくなるのだ!」
「ぬおおおおお!だめじゃ!わしは外でやらねばならぬことがっ!」
「ふっふっふっ無駄だ、火憐よ。一度布団に入ってしまえばもう抗えないっ!」
「ぐわあああああ!おのれえええ!」
ノリノリだなぁ。
ってか、こんなことやってたら私も目が覚めちゃったよ、まったく。
「んで、えみも外行くじゃろ?」
「なんだ、まだ諦めてなかったのね」
「わしは毎日、朝にやっていることがあるのじゃ」
「それは絶対やらなきゃいけないの?」
「絶対やるのじゃ」
「……しょうがない、なっ!」
私は手を振り上げて勢いよく立ち上がった。布団で遊んでいたから、窓から入った光でふわふわしたのが宙を舞っているのが見える。今日はちょっと暖かい。
私は箪笥の二段目、洋服の段からブラウスとカーディガンとカーキのパンツを出した。サイズは大きめ。早速着てみると、やはりちょっと大きい。でもこれしかないから落ちてた紐状の布で適当に結んで調整する。落ちなきゃなんでもいいや。
裾も袖も余っているので折って合わせる。とりあえず動けるようにはなった。
「よし、おけ」
「では、行くのじゃ!」
「はいはい」
階段を二人でドタドタと下りた。もうこの階段も慣れたもんだ。
こうして、異世界における私の新生活の二日目が幕を開けた。




