15 風呂はいいけどのぼせちゃだめ (挿絵付き)
「あじゃっ!?えみ!大きな声を上げるでないのじゃ!」
「い、いや、いやいやいやいやいやいやいや!」
「あら~?どうしたのかしら~?」
「えみがわしの耳になにか……」
「いや、ケモ耳よ?けもっ娘よ!?これ見て驚かない方がおかしいでしょ!?」
「あら、もしかしてえみちゃんは魔族排斥論者?」
「ま、まぞく?」
火憐はぽかんとしているが、排斥という言葉が良い意味で使われてるとは思えない。
魔族、よく物語では悪役として書かれることが多い人類よりも魔術に長けた種族のことだ。
もしや、火憐が魔族?魔族は差別される対象?だから帽子を……?
「あら、その感じだと知らなかったようね。魔族を見るのは初めて?意外とたくさんいるのよ~?魔族であることは隠す人が多いからわからなかったのかしら~」
「え、あ、あの。私は別に差別することはしないですよ?たしかに初めて見ました。でもむしろ、その、好き……かも?」
「おお!そうかそうか!わしもせんせいに言われて隠しておったから知らなかったが、えみはこの耳が好きか!」
「え、あ、うん……」
勢いで好きとか言っちゃったけど、火憐は照れもしない。
それにしても魔族がいるのか、この世界には。でも、魔族というより獣人?その辺の分類がよくわからない。
それに隠さなきゃいけないってことは、人種差別のようなものがあるのだろうか。
「えみちゃんは偏見がないみたいだからよかったわ~。魔族というのは、昔は魔法を使える者を蔑視する言葉だったのよ~。今はその意識も大分薄らいだけれど、それでも一部には未だに魔法を軽蔑したり、禁忌とする国もあるわ。魔族を奴隷にする国も、あるわ。」
「まさか、火憐の足の枷も……」
「それは違うわ~。それは私が火憐ちゃんを見つけたときからついてたのよ」
火憐の足枷は、先程は風呂が心地よいものだから気づいていなかったけど、風呂桶かが鎖が伸びて床に金属球が転がっている。火憐があまりにも普通にしているもんだから、足枷がついているのをつい忘れてしまう。
火憐が奴隷……それは許されない。許さない。
「ふふ。えみちゃんは優しいわね~。火憐ちゃんをこれからよろしく頼むわ~」
「え?は、はぁ……」
「魔法はとても便利なものなのじゃ!偉大なのじゃ!それを使わないなどもったいないのじゃ!」
なんかすごいお願いを簡単に受けてしまった気がするけど、火憐はいつも通り魔法のことで頭がいっぱいなようなのでもういいや。見ず知らずの私に魔法を見せた火憐が何も考えていないことがよくわかった。
魔法が禁忌、かぁ。異世界といえば魔法無双なことが多いけど、まさかだねぇ。
「わしはもっと魔法が広まってほしいのじゃ。みんなが便利に魔法を使えれば、町ももっと良くなると思うのじゃ」
「あんたは魔法をもっと使いたいだけでしょ」
「そうじゃな!」
「あんたねぇ……」
「でも、えみちゃんは本当に魔族のこと、知らないのね~?他の大陸から来たのかしら~」
「えぇっと、まぁ、そんなとこ……なのかな」
「見かけない道具もえみちゃんの故郷の物なのね~?ふふふ。まだまだ私もやらなきゃいけないことが沢山あるようね~!」
「やること?」
カチッ
何かのスイッチが入った音がした、気がした。
「私は世界中の道具をかき集めてるのよ~。一目見ただけでは用途のわからないもの、長い年月の中で使用法が失われてもの、歴史的な価値のあるもの、日常の生活を便利にするもの。道具とは沢山の技術と、歴史と、思い出が刻まれているの。そこに魅力を感じて、それを共有したい。私はそんな思いで道具屋を営んでいるってわけ!」
「は、はぁ……」
よくわからないけど、道具マニアってことか。道具って言っても中々幅が広いと思うけど、何かしらの基準があるのだろう。人形とぬいぐるみとフィギアみたいなところだろうか。
私はぬいぐるみが好きだったけど。ゲーセンで大きなぬいぐるみを取った時のあの喜びと感動は今も
「えみぃ……熱いのじゃぁ…………」
「え、あ。あんた、顔真っ赤!早く上がりなさい!」
「それが、足が引っ掛かってあがれないのじゃ……えみ、ちょっと立ち上がってほしいのじゃぁ……」
「うわ、わかった!よ、いっしょ」
ざばぁぁぁ……
おぉぅ……立ち上がったら急にクラッときた。私も上がるかぁ。
「これがえみの服じゃ」
「ありがと。悪いわね、火憐の服借りちゃって」
「大丈夫なのじゃ!わしはいつもあの魔法を行使する者の正装を着ておるからの」
「いつもあれなんかい」
「そうじゃ!いつもあれじゃ!」
「えみちゃん、この服はまた着るのかしら~?」
せんせいが脱衣所に転がっている丸まったかたまりを指差している。その目はもう溢れんばかりに涙を蓄え、うるうるしていた。しかしその奥にギラギラした欲望が覗いていて……っていうか、あなたの歳でやることじゃないわっ!
「えみちゃん」
「え?はい」
すぅっと目から光を失っていくせんせい。あれ?
「えみちゃん、歳はいくつ?」
「え、えと、21ですけど……」
「はあぁぁぁ……」
「え、あのぉ」
「若いっていいわよねぇ……?」
「あ」
やべ、聞こえていたのか……!
せんせいがゆらぁっと姿を消し、めのまえがまっくらになった。




