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神様がいない異世界新生活  作者: 出佐由乃
ユズ市の道具屋 編
13/42

13 お母さんせんせい

 なんとも裏切られた感覚になりながら、町の入口、もとい石柱の間を抜け、私たちは町に入った。

 時間も遅いためか、人の姿は全く見当たらない。

 しばらく進むと、木製の建物が立ち並ぶ区画に入った。

 むむ!?これは……


「時代劇で見る街並みだ!」

「じだいげき?なんじゃそれは?新しい地属性魔法か?」


 江戸の街並みの縮小版みたいな光景が目の前に広がる。

 明かりが無いからよく見えないけど、道の両側に少なくとも10の瓦屋根の建物が軒を連ねている。鐘はないけど小江戸にそっくり。

 西洋風の街並みも憧れてたけど、日本の原風景というか、古い町並みがけっこう好みなのだ。

 日本の文化の中心も、もう一度行っておけばよかったなぁ。あとは、どこだっけ、温泉で有名な……


「えみ?何をぶつぶつ言っておるのじゃ。着いたのじゃ」

「えぁ、はい。ここが『せんせい』の道具屋?」

「そうじゃ。もう閉まっておるがの」


 その道具屋は二階建てで、他の建物と同じように瓦葺きだ。

 しかし、他の建物と違うのが、建物の幅だ。明らかに幅が狭い。

 何と言うか、こじんまりしている。


「帰ったのじゃ!」

 そう言って火憐は引き戸を開いた。開くんかい。セキュリティもなにもないねぇ。


「お邪魔します」


 私も一言口にして敷居を超える。文字通り超えた。まだ浮いてるし。

 もう浮いてるのがデフォと化している。ラクなんだもの。


 店内は想像していた和風の商店ではなく、かなり洋風なテイストだった。

 古民家カフェと言えばわかるだろうか。一時期流行ったよね。

 土間?っていうのか、地面と同じ高さの板張りの床が奥まで続いている。

 壁には棚が設けてあって、用途がわからない物体から何かの鉱石、乾燥した植物の葉の入った木箱などなどが陳列されている。おそらくこれが商品なのだろう。

 なに屋と言われれば道具屋と答えざるを得ないね、これは。


 店のど真ん中に鎮座する丸いテーブルとそれを囲む四脚のイス。その一つに火憐が座る。

 私は火憐の頭上を浮いたまま。


「ねぇ、火憐?」

「ん?あ、すまなかったのじゃ」

「いいよ」


 私はゆっくりと空中から下ろしてもらうと、久々に地に足をつける。あれ、なんか変な感じ。足がガクガクする。

 慌てて私も火憐の隣の椅子に座った。

 一度落ち着いてからもう一度店内を見渡す。この視点で見ると小さな喫茶店のような印象だ。

 規則性のない混沌とした場面に存在する美。それっぽいこと言ってるけど、とにかくこういう雰囲気が好きだってことだ。


「火憐」

「ん?なんじゃ?」

「あんた、いつもぼーっとしてるわね」

「なんじゃ?ばかにしとるのか?」

「そうじゃないけど、いや、そうなのかな」

「なんじゃと?」

「まあまあ。それより、火憐の言ってた『せんせい』はどこに……」

「いらっしゃ~い!」


 ビクゥッ

 火憐が大袈裟にビビるもんだからこっちまで吃驚してしまった。

 店の奥から暖簾を潜って出てきたエプロン姿の金髪の女性。こちらを見てにこにこしているこの女性が……


()()()()!帰ったのじゃ!」

「おかえりなさ~い。遅かったわね?もうご飯できてるわよ?」

「さっそくいただくのじゃ!」

「待ちなさい、一体何をしてきたの?服に枯れ葉がいっぱい付いてるわよ?先にお風呂に入ってらっしゃい」

「わかったのじゃ!」


 やはりこの方が『せんせい』のようだ。まるで火憐の母親だ。まさか、本当に母親だったり?そうだとしたらかなり若い時に……


「火憐ちゃんは私の子どもじゃないわよ~?」

「え、あ。そうなんですね」

「ええ。ここで住み込みで働いているの。おっちょこちょいだけど頑張り屋さんなのよ~」

「そうですね」

「ところで、あなたはだ~れ?」

「あ、そか。ごめんなさい。私は伊勢(えみ)といいます」


 あまりにもお母さんな光景を見せられたものだから、初対面だということを忘れていた。


「ふふ。ありがとう、よく言われるわ~」

「あ、そうなんですね」

「わたしは仙丈(せんじょう)星夏(せいか)。あなたもご存知の通り、みんなからは『せんせい』と呼ばれているわ~。よろしくね?」

「は、はい!よろしくお願いします!」

「ところで~」

「はい、なんでしょうか」

「あなたのその格好、とてもおもしろいわね~?それは何の服なのかしら?それから材質は何かしら?見たことないわ。革にしてはとてもつるつるしているし、縫い目らしきものも見当たらないわ。それとその金属の道具、変わった形をしているわね。何に使うのかしら?その首に下げてる透明のものも気になるわ。眼鏡とは違うわね。でも目を囲う形状をしているように見えるわ。目を守る用途の物なのかしら。腕に巻いてる帯のようなものも不思議ね。こんなに細かい細工はあまりお目にかからないわ。どこで手に入れたのかしら?こんなに私の知らない道具を持つあなたは何者なのかしら?」


 のほほんとしたお母さんから一変、マシンガントークが火を噴いた。

 その豹変ぶりにも驚きだが、それよりもとんでもない事実を知った。


「ぎゃ」

「ぎゃ?」

「ぎゃあああああ!?」


 私、今の今までウェットスーツだったの!?

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