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神様がいない異世界新生活  作者: 出佐由乃
ユズ市の道具屋 編
12/42

12 期待外れ

「では行くのじゃ!」

「よろしくぅ!」


 私達の冒険が今始まる!


 ……まあ、私は浮いてるだけなんだけど。これが案外快適なのよね。

 傍目から見たら完全に風船だね。ゴム製ではなく、鎖が巻かれた女子大製(じょしだいせい)という違いはあるけど。

 ……新しい囚人の護送方法と言えなくもないかもしれない。

 火憐は実はこの世界の警察みたいな立場で、林で怪しい奴を見つけたから連行……

 いやいや、考え過ぎは良くない。火憐は私を思ってこの方法を使っているのだ。むしろ感謝するべき。


「それにしても、火憐は林の中を進むの速いわね。やっぱり慣れなのかしら」

「ん?何か言ったか?」

「火憐は歩くの速いわね、って言ったのよ」

「んあ、そうじゃな。暇さえあればあそこに行っておるからの」

「あんた、そういえば道具屋で働いているんじゃなかったの?今日はお休みなの?」

「今日か?今日は午前が休みで午後から……」


「……あんた」

「わ、忘れておったのじゃ……。い、急ぐのじゃ!」

「ちょっとま、うぉっ!?」


 急に火憐がスピードを上げて、木々の間を縫うように走り出した。

 木が正面に迫ったかと思うと、木が突如横に逸れて私の側面をすり抜ける。太い枝が私の頭上を掠る。鎖が木の葉を断ち切りひらひらと舞う。

 速い怖い怖い怖いぃぃぃっ!!

 堪えきれず私は目を瞑り悲鳴を上げた。


「ぎぃいぁぁぁああ!!」

 ビクゥッ

「んぎゃっ!?」

「ぐへっ」





 頭に血が上る。怒りで顔が真っ赤になっているわけではなく、重力の方向の問題だ。

 恐る恐る目を開くと、地面が頭上にある。いや頭下?

 この体勢、かなりきつい。さっき食べたおにぎりが戻ってきそうだ。

 空、つまり私の足の方を見ると、鎖が木の枝に引っ掛かっているのが見える。

 こういうの見たことあるよ。この後、獣がやってきて襲われるやつ。……獣じゃなくて殺人鬼だったかな。宙ぶらりん。

 火憐はどこに……あ、いた。五体投地。

 火憐と私を繋いでいた鎖が木の枝に引っ掛かったのね。火憐の鎖は足枷から伸びてるから、頭からこけたかもなぁ。

 ともかく、私にはどうしようもない。お手上げ、いや、お身体下げ。


「ねぇ火憐、大丈夫ぅ?」

「んん……あいたたた……」

「大丈夫?怪我してないぃ?」

「んぅ、えみ?どこじゃ?」

「ここ。助けてぇ」

「ん?……うおっ!?い、今助けるのじゃ!」

「そぉしてぇ……」





「……もう暗くなってるのよ?急ぐ気持ちもわかるけど、もうお店も終わりの時間でしょうに」

「……そうじゃなぁ。急いては事を仕損じる、急がば回れじゃったな」

「時すでに遅し、の方が正しいんじゃない?」

「んぐぅ……」


 あの事故から何とか火憐を落ち着かせて林の中を歩く、と浮く。

 辺りはすっかり暗くなり、木々の葉の間からチラホラ星が見える。

 ぼんやりと雲のように見えるのは天の川かな。現物を見るのは初めてかもしれない。


「ようやく林を抜けたのじゃ。」


 ふいに前方の視界が開けた。

 暗くて何があるのかよく見えないが、遠くに明かりが見える。


「あの火がある場所が町の入口じゃ。もうすぐじゃ!」


 火憐の足取りが軽くなる。地面は土だが、一応整備された道になっているようだ。

 道の両側はどうやら畑のようだ。段々畑というには段差が緩いが、傾斜に合わせて石垣が作られている。

 畑に生えているのは米ではなく、葉物野菜だと思われる。多分、アブラナ科の野菜だ。小松菜かな?

 なんというか、ザ・田舎だね。都心の人でも地方の人でも、誰もが思い浮かべる『田舎』の最上級のカタチ。言い換えると、里山?


「これが町の入口じゃ」

「おぉ、お?」


 町の入口じゃ、と言われても。

 石の柱が道の両脇に立っていて、その石柱の間、道のど真ん中に篝火(かがりび)っていうのかな、運動会の玉入れの(かご)の背の低いやつに火が灯っている。

 もっとさぁ城壁とか、兵士の詰所とか、ないのかね。


「この道は向こうの畑の持ち主くらいしか使わんからの。その道の先も結界があって通れんから門なぞいらないのじゃ」

「そうなんだ……」


 ことごとく私の期待を裏切るなぁ、この世界は。

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