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引き離される二人

様々なことがあって二人は離れ離れに……。



 セイムスとジャニスは荷物を片付けてから(それぞれ背嚢一つきりだが)、なけなしの金で最低限の家財を買う為に都市の商業区画へと向かった。


ジャニスは前を歩くセイムスに付き従いながら、人の行き交う市場を進む。彼の背中を追い歩く中、知らぬうちに自問自答していた。



(……今、この瞬間、私が逃げ出したら彼はどうするのだろうか?探して走り回るのだろうか?)


(……もし、彼を私が見失ったら、私は彼を探しに行くのだろうか?……そのまま逃げ出して、ニケの元へ行ってしまったら……果たしてどうなるのだろうか?)




……もし、私は彼に出会わずに【邪剣】として生きていたら、その先……どうなっていたのだろうか?



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「……どうしたの?ジャニスさっきから怖い顔して……トイレ行きたくなった?」


「バッ、バカ!!そう言うこと言わないでよ……恥ずかしいから……」


二人はそんなことを話しながら数軒並んだ、簡素な組立式の家具を扱う店の一つに入る。そこは真新しい木を削った香りが充満し、木工製品特有の芳しい匂いに包まれていた。


「あ、いらっしゃい!どんな家具が入り用ですか?」


暇げに表を眺めていた店主が二人に気付き、にこやかに笑いかけながら近付いて来る。彼と相対したセイムスが考えながら幾つかの商品を指差すと、答えながら組み立て方の説明を始める店主とのやり取りを眺めつつ、ジャニスは自問自答の続きを再開していた。


(……きっと、彼が現れなければ私は……父のように《自分にいつか仇成す存在を先んじて殺める》ことを始めていたかもしれない……どうせ、一人殺そうと、百人殺そうと……結果は同じ【人殺し】なのだから……)


そう思うと、急に今まで行ってきた殺し合いが、まるで次々と現れる幽鬼との戦いのように無意味な行いのように思えてきた。


彼女は寒気を覚えて不安になり、セイムスに近付くと無意識に彼の手を握り締めてしまった。それに気付いた彼は少しだけ驚いたものの、彼女を落ち着かせたくて頭の耳を軽く撫でる。

その動きに合わせてヒクヒクと動く耳は、まるで彼女の心の動きに合わせるかのように、不規則に震えながら静かに脱力していった。


「いやはや……新婚さんだったっけ?仲のいいことで……何なら、丈夫で軋まない二人用のベットも見ていかないかい!?」


気を利かせてそう告げる店主が二人にウインクすると、セイムスよりも更に紅くなったジャニスは彼の後ろに隠れて黙り込んでしまった。


「あっ!いやいや、からかうつもりじゃなかったんだが……もしよかったら新居の場所を教えてもらえないかい?よかったらそこまで届けてあげるがね?」


店主は取り繕うつもりでそう言うと、セイムスはとりあえず棚だけでも必要だったので、簡単な略図を書いて説明して店を後にした。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


「あ!おねーちゃん!こんにちは!!」

「ジャニスさん!セイムスさん!お買い物ですか!?」


市場を歩きながら衣料品を探して歩き回っていると、二人の後ろから子供と女性が声を掛けてくる。聞き覚えのある声に二人が振り向くと、そこにはアラミド家のグラスさん、そして娘のナノがぴょんぴょんと跳ねながら二人に駆け寄ってくる。


「これはどうもお久しぶりです。先日はお邪魔した上にご馳走までして頂いて……」


セイムスが挨拶するとグラスは、気にしないで!料理は私の生き甲斐の一つなんだから!と快活に答えながら、


「ところでお二人はお買い物?必要な物はお揃いかしら?」


と気を効かせて訊ねてくる。セイムスは幾つかの探し物は目処が付いたと答えたが、ジャニスは何故かもぞもぞと口ごもり即答しなかったので、


「ん?……ジャニスどうした?何か買い漏らしがあったのか?」


セイムスは自然に尋ねたつもりだったのだが、ジャニスは何故か赤くなりながら依然として答えようとしなかったので、グラスはハハァ~ン……と訳知り顔になりながら、


(ねぇねぇ……ジャニスさん……もしかして……『ゴニョゴニョ』……?)

(……っ!?……ど、どうしてそれを……)

(当たり前でしょ……?私も女なんだから判るに決まってるでしょーが)


「……あの、さっきから何を二人で話してるんですか……?」


空気の読めないセイムスは訝しげに聞いてみると、グラスは気にすることもなくサラリと答える。


「ん?ジャニスさん、女性用の服が安く売ってる店を探してたんだって!そんなとこに君みたいな男性を連れていくのを気兼ねして言い出せなかったみたいよ?だから私と二人でそこに行ってくるわ!」


「えっ!?ふ、二人で?……俺、店の前で待ってた方が……」


狼狽えながら答えるセイムスにチッチッチッ……と指を立てつつ揺らしながらグラスは胸を張り、


「そんな気遣い要らないわよ?あなたはナノと一緒に買い物の続きをしてらっしゃいな♪」


と、さも簡単なことのように答えたので、セイムスは思わず面食らってしまう。なぜなら、小さな女の子のナノと二人きりで、知らない街の中へ放り出されてしまうのだから……しかし、そんな不安な気持ちが顔に出た瞬間を、見逃さなかった者が一人居た。


「おにーたん!ナノをパカにしないでっ!!ナノだってりっぱな『ちぇいさぁ』なんだからねっ!!」


ナノはそう高らかに言い放つと、ビシッ!!と空を指差しながらニイッ♪と笑うのだった。




ま、そーゆーことです。乙女の秘密を探ってはいけないのだ。次回もゆっくりゆっくりと進行していきます。

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