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女子談(ガールズトーク)

血沸き肉踊るような猛々しい展開は……どうでしょうかね。



 積もる話が有り過ぎて、上手く言葉が繋げない。だって、今まで姉さんとずーっと二人で生きてきたし、母さんが死んだ時も、……父さんが居なくなった時も。


だから……離れて暮らすとか、考えたこともなかった。まさか、こうやって……お話するなんて、一度もなかった。


でもさ、だからって言って……そんなこと聞くのは反則じゃないの!?



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「……それで、子供はいつ頃生む予定なの?」


「はぶぅっ!?」


ニケが反則気味の切り出し方で口火を切った為、ジャニスは危うくレモネードを派手に撒き散らす所だった。そりゃそーだ、幾ら姉妹でもいきなりオッサンじみたことを聞いてくるとは思ってなかったし、油断している時にいきなりとか……卑怯過ぎである。



「きゃははははは!!ジャム、暫く見ないうちにちっちゃな頃みたく可愛らしくなったじゃない?やっぱりセイムス君に沢山愛されて癒されたからかなぁ……」


「……姉さんのバカ……シムはそりゃ!!……色々と……可愛がってくれてるよ?……だからって……」


出立する直前のセイムスの姿を思い出し、唇を噛み締めるジャニス。その姿を見ながら、ふむ……と鼻を鳴らしてからニケは小さな茶器から薫りの良いお茶を注ぎそして喫しつつ、


「……まぁ、細かいことはともかく、貴女達二人が中央都市に引っ越した辺りからのことは私も把握してるけど……付き合って二ヶ月で……ねぇ……それで……、」


それまでの落ち着いた口調はそのままなのに、眼には妖しい光が灯り、我知らずはぁはぁと息を荒げながら前のめりになり、


「……どーなん!?どーなんッ!?いいんッ!?凄いん!?【剣聖】でしょっ!?わたしら恋愛沙汰に疎かったからお互い知らないでしょ!?比較対象無かったから説明し難いん判ってるけど!!そのその……恋人同士で……アレで……」


長い黒髪を纏め上げたニケは、一見して仕事の出来そうな……いや、出来る筈の彼女に唯一存在する弱点、それこそが恋愛事情だった。

物心付いた頃から変わらない印象だった、優秀で美しく、非の打ち所が無い姉……しかし、共に過ごして来た時間が長かっただけに、よく判る。


ニケもジャニスも出会いに乏しい環境(やや正道から外れ気味の家業)、更に異性と知り会える仕事(ジャニスは顔すら晒せない)でもないし……両脇に黒装束の怪しい護衛を伴うニケを口説きたがるような猛者は、今まで一度も現れたことはなかった。でも、だからこそ……、


確かにお堅い仕事一筋人間にしか見えないニケではあったが、こうやって二人きりで(流石に個室を借りた)話すと、恋に恋する乙女としか言えない位の輝きを放つ瞳を潤ませながら、未だ良く知らぬ胸ときめくような男女の……アレな話を聞きたがり、やっぱりはぁはぁ言ってます。




「…………ウソっ!?セイムス君も初めてだったん!?」



「…………あああぁ……そうなん……やっぱ、そうなん…………ジャム、よかったんね……お互い初めて同士で……」



「…………ひぇっ!?……あ、朝まで!!?…………」



ジャニスの赤裸々な告白に、眼を輝かせながら興奮を隠さずに食い付くニケ。その姿は……正に愛の狩人だった。まぁ、待ち伏せしたまま獲物に巡り逢えて居ない狩人なんだけど。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「……はぁ、はぁ……な、何と言うか……当代随一と謳われた二人でそーなると……そーなるのねぇ……」


頬を紅潮させながら、咳払いして茶を喫するニケ。落ち着きを取り戻しつつある彼女は一見すると普段通り、毅然とした姿を装ってはいたが、ジャニスから見ればもう色々とバレバレである。

頭上の耳は小刻みに動き、明らかに神経の昂りを示していたし、ニケ独特の癖である出入口を眺めるのも頻繁で、まぁ実に判り易い。つまり……、


「……姉さん、やっぱり……お婿さんの当ては……」


「有る訳無いでしょ!?異人種相助組織の統括やってる娘なんて、堅気から見たらマフィアにしか見えないし!!だからって筋肉巨峰なガチムチ巨人は流石に嫌よ!?私が壊れちゃうから!!」


……彼女の叫びも当然である。自分の正体を明かさずに恋愛をしても、もし相手が裏の素性を知った瞬間に逃げ出されたら、きっと傷付くだろう。かと言って仕事絡みで知り合える相手は、ニケと同等かそれなりの実権力者である。まず間違いなく色好みの人物ならば、裏で幾人も情婦を保有しているだろうし、それすら無い相手等……衆道(♂対♂)と見て間違いない。


そんな環境に長く身を置いてきたニケ、そしてジャニスは、その美しい見た目とは裏腹に、人跡未踏の高嶺に咲く花のように……誰にも手折られぬまま、いつか枯れ果ててしまっただろう。だが……ジャニスはその環境から唐突に飛び出したのだ。そして……セイムスと結ばれた。


だからこそ、ジャニスは姉の気持ちが痛い程、理解できたのだ……でも、だからこそ、彼女はニケに、こう言うしかなかったのだ。



「……じゃあ、一度、中央都市辺りで……姉さんの素性を隠して、お見合いみたいなこと、してみたら?」


「ふぁ!?おお、お見合いですかッ!?……いや、ほら……何と言うか……私、背が低くて無駄に若く見えるし……」


ジャニスの突然の提案に、オタオタと狼狽えるニケ。ちなみに背が低くて若く見えるのはジャニスと余り変わらない。ほんの少しだけ背が低くて胸がちょっぴり小さいだけである。本人は知る由も無いことだが、彼女の姿に惹かれる異性は結構多く、その大半が【容姿と職業とのアンバランスさ】に萌える連中だったりする。


「じゃあ、セイムスのことが落ち着いたら、知り合いを募って恋人探ししよっか?姉さん……!?」


そう言うジャニスの手をガッシリと掴み、ぷるぷるとその手を震わせながらニケは眼を潤ませて、


「……ジャム……あなたが妹で……わたし、本当によかったぁ……こんなことを相談出来る相手や機会も、全然なかったから!!……ああ……これで灰色の人生に、鮮やかな薔薇色の色彩が……う、うふ、うふふふ……ぐふふ……♪」


……しかし後半は完全にヨダレと妄想まみれの姉の姿に……何故、自分の周りにはこんな女性ばかりなんだろう……そう思うジャニスでした。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




「なぁ、二人だけでする、大事な話って、どんなことなんだろうな……」


何気なく狐鉄に呟くリューマ。口数の少ない相手の言葉に狐鉄は暫く考えた後、二人との付き合いの長い彼は、虚空を眺めながらボソッ、と答える。


「……行き遅れの姉が、どうやったら彼氏が出来るか……秘訣を探ってたりして……ま、んなことないか!?」


答えに暫し固まるリューマだったが、それなりに長生きしている彼は少しだけ違う見解を重ねて返した。




「……犬人種は、(おおむ)ね長生き出来ないから……それなりに慌てもするやもしれないな……概ね、だがな」




次回はニケさんが真面目に仕事をします。そんな感じですが物語はゆっくりと進みます。

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