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「何処のどいつだよ!!」

メリー御盆!……的な盛り上がりは期待していませんが、更新致します!……山の日?何それ美味しいの?



 狐鉄は生粋の間者である。彼は幼くして生まれ育った集落から、間者を必要としている者へと供給する【野伏(のぶせ)りの里】へと連れて行かれ、そこで成人するまで過ごした。


そこは効率的に生き延びる術を身に付けさせる為に自給自足を旨とし、弱い者は強い者の下で血の滲むような研鑽(けんさん)を積まねば生きることの出来ない過酷な地ではあったが、彼は易々と生き抜き、やがてその地から放たれて【暗闇を照らす灯明】へとやって来たのである。


そこで稀少種の二人の姉妹と出会い、頼まれて仕方なく彼女達に様々な技を伝授した。姉のニケはそれらを苦も無く習得していったのだが、妹のジャニスはと言えば苦心しながらやっとの出来で、内心(……才能無いな、コイツ)と諦めていたのだが、


姉のニケが【暗闇を照らす灯明】の主要なポストに就くように指命され二人の元から離れることになった頃から、ジャニスは唐突にその才能を開花させていった。


「……俺はジャニ坊が、やれば出来る奴だと見抜いていたがな」


そう(うそぶ)く狐鉄の背中に時々、手元が狂ったとジャニスの手裏剣が突き立ってしまうことも時にはあったが、それでも彼は笑いながら手裏剣を引き抜き、しかし着込んだ鎖帷子の網目を貫かなかったことに影では冷や汗を流しては、居た。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「……追っ手?まさか中央都市から……でも、そんな事して何の得が彼処に……?」


「寝惚けるな。張っていたのは賞金首目当ての外部からの連中だ……但し、奴等に情報を流したのは俺だがな」


狐鉄は事も無げに言い、その言葉にジャニスは絶句する。


「バッ、バカじゃないの!?……一体何の為に私がこんな恥ずかしい格好までして……抜け出して来たと思ってるのよ!!」


二人のやり取りを黙って見ていたリューマだったが、その彼が背中に背負っていた()()()()()を装着するのを見て、ジャニスはハッとして我に帰る。


「……一体全体、こりゃどーゆー事なんだ?情報屋のアンタが何故コイツらと一緒に居やがるんだか……」


周りを囲むように現れた一団は、数にして四十は下らない武装した連中ではあるが、その装備に共通性は無く明らかに(にわか)仕立ての集団だと見て判る。その中に一際目立つ人相の一人は、明らかに一団の中で発言力を持った、賞金首の頭目と見て取れた。


「フム、まぁ成り行きでアンタらから金は頂いていたが、結論から言えば……俺は最初からジャニ坊の身内だった、ってことさ。なぁ?『(ドラゴラム)』の工作隊の皆様方……」


「……ッ!?……気付かれてたか」


狐鉄は見え見えの茶番劇を繰り広げながら、首だけジャニスへと振り向けて、サラリと言ってのける。


「……ジャニ坊、お前はボーッとしてるから、いつ寝首を掻かれてもおかしくない。俺がこうやってエサを撒いて引きずり回しておいて、バカが近付かないようにしてやってた、って寸法さ」


ジャニスは自らの平凡な同居生活が、こうした身内の絶え間無い努力に因って生み出されていた事実に少なからぬ衝撃と、口は悪いが昔から変わらぬ面倒見の良さを見せる狐鉄の真心に、


「狐鉄のアホ!格好付けて恩を売るなっ!!大体アンタが変な暇潰しと小遣い稼ぎをカマすからこーなるんでしょーが!!……まぁ、有り難いっちゃあ、有り難いけどさ……」


……軽く切れながら、少しだけ感謝の意を表しつつ腰に提げたレイピアを引き抜いた。


「……確か、ジャニスとか言う暗殺者は犬人種だと聞いていたが……選りに選って悪目立ちも(はなは)だしい森人種(エルブ)を身代りに立てるとは、お前等は馬鹿の集まりか?」


「……っく!はっはっはっ!!おい、ジャニ坊……コイツら、お前がまだ可憐な森人種様だと思って油断してるぞ?……そちらの御客人、ここは一つ不詳の弟子の立ち回りの……邪魔を為さらないで呉れませんかね?」


そう言いながら狐鉄はリューマの元に歩み寄ると、腰に提げた雑嚢から紙袋を取り出すと、中身の豆菓子らしき粒を取り出してポリポリと食べながら、


「さ、コイツでも摘まみながら、見学と洒落込みませんか?……俺らが研ぎ上げた【邪剣】の手腕……一見の価値は、有りますよ?」


……そうか?と言いながら掌を差し出し、ザラザラと鳴りながら渡されるそれを摘まむと、彼に倣って口へと運んだ。

それは炒った豆に熱した液糖を絡めて冷まし、糖衣に仕立てた物で噛むとかりり、とした快音を立てながらほぐれて崩れ、甘さの奥に芳ばしさが見え隠れする中々の逸品だった。


「……アンタら……そんなに死にたいのかよ……決めた。コイツの手足を切り落としてから、二人とも同じようにして目の前で死ぬまで」

「……隙だらけだし、ヒトを何だとか言ってるけど……それ、無理だから」


集団の中で口を利いていた筈の隊長は、言葉半ばで提げていた長剣を抜き辛うじて退けたレイピアの切っ先が、彼のこめかみを切り裂きながらも逸らせるのに精一杯であった。


一息で詰め寄ったジャニスが、居並ぶ剣士を縫うように抜けながら近寄ったことに舌打ちしつつ、当然のように慌てて包囲しようと動き出す面々を尻目に、流れるような動きで包囲を突破する彼女の動きに冷や汗が流れた。


敵が振り下ろす長剣を刀身に沿わせて受け流し、護手に載った瞬間で跳ね揚げて相手の体勢を崩しながら脇を斬る。

即座に背後から迫る相手に、剣を取り落としたその敵の背後に回り込むと同時に背中から蹴り飛ばし、絡まって斬り込む間を失った相手の肩に手を掛け今度はとんぼ返りで背後へと回り、神速の早さで繰り出す刺突により頸椎を断つ。

物言わぬ屍と化したその身体へ肩を押し付けて掬い上げ、右からやって来た新手を難無く牽制し、余裕すら漂わせながら円を描くような足運びで三度突きを繰り出すと、三人が手から剣を落として膝を折った。


「こ、コイツちょこまかと……がっ!?」

「何やってるんだ!たかがレイピア持った小娘に……くそっ!!」


しかも金の匂いで寄せ集めた連中では、混戦の様相を呈したこの状況に却って動きを制限され、一人を相手にしながら良いように翻弄されてしまっている。


「……隊長、ここは一旦退いて立て直さないと……このままでは奴に、手の者だけを狩り殺されてしまいます!」


有り得ないことだが、集団に紛れ込ませた隊の兵士を狙って動いているかのように白刃を煌めかせながら、その森人種は巧みに一人、また一人と身内のみを狙うかのように絶命させている。


「そうか……あの女、武器を見て選んでいたのか……」


身に付けた装備は一見バラバラに見えても、彼の部下は統一された剣を持っていた。理由は唯一つ、支給された武器だったからに過ぎない。しかしそれは寄せ集めの群衆の中では却って浮いてしまっていた。


「おー、おー!やるね、キッチリと基本に沿ってやってるじゃないか?ジャニ坊ちゃん♪」


感心しながら愉しげに眺める狐鉄だったが、しかし彼は別に何もせずに遊んでいた訳ではない。ジャニスが集団へと飛び掛かるや否や、狐鉄はと言えば慣れた体で分散している箇所に赴いては空手で適度に弄び、いきり立って斬り掛かる輩には目にも止まらぬ手錬の技で斬り返し絶命させていた。


そうしてジャニスと見えない連係を繰り返しながら多勢を見事に翻弄し、気付けば相手は半数を切るまでに減らされている。見物を余儀無くされていたリューマだったが、彼は既にこの剣劇に参加する気配も無く、今はジャニスの腕前を眺めていた。


彼とて決して力のみの脳筋では無く、推すべき時と退くべき時の頃合い位は理解しているのだが、目の前で一方的に繰り広げられている様相は、まるで羊の群を効率的に狩る狼さながらで、思わず見惚れてしまっていた。


「……一つ、聞いてもよいか?ジャニスの手の者よ」


「ん?堅いな。俺は狐鉄、気軽にそう呼んで構わんよ?」


リューマの問いに気さくに答える狐鉄であったが、彼の質問に暫く瞑目することになる。



「……彼女を、あの領域に至らせるまで……どれだけの敵と対峙させて来たのか?」



「……ふむ……そうだな。まぁ、あれが出来るようになったのは、ジャニ坊が十四の頃だったか……簡単だよ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったからな」


まるで習い事を披露している幼子を自慢するように、さも簡単に答えた狐鉄だったが、リューマはその中に凄絶な過去を引き摺る二人の間柄を見て取り、【邪剣】と呼ばれ畏怖の対象となっていたジャニスの複雑な生い立ちに荒涼感を覚えた。


「……人は剣を使うことで、次第に人から離れていく。ジャニスは剣から離れて人らしくなったが、剣をまた手にして……果たしてまた、人らしくなれるのだろうか?」


「……リューマ、さんとか言ったか?心配ないさ、俺から見たらジャニ坊はすっかり人らしくなってやがるぞ?」


狐鉄はそう言うと蜘蛛の子を散らすように退散していく群衆を眺めつつ、ジャニスに向かって声をかけた。


「おいっ!!ジャニ坊!少しは気が張れたか?」


「……うん、昔程じゃないけど、少しだけ……気晴らしになった」


ひゅん、とレイピアを血振りしてからしゃがみ、足元の物言わぬ屍の袖口で刀身を拭ってから立ち上がり、きち、と鞘に納めてから二人の元へと歩み寄ったジャニスは足元を気にしつつ、


「……で、狐鉄……アンタに聞きたいんだけど、」


と、前置きしてから腕組みしながらずい、と半身を捩り、


「……で、コイツら何処のどいつだよ!!」




……ジャニ坊、俺の話を聞いてなかったのかよ……、と呆然とする狐鉄を尻目に、リューマは一瞬後、参った参った!と言いながら大声を出して笑うしかなかった。

さて、書き貯めも残りLIFEも後僅か!!生きて抜けたい繁忙期!!物語はそんな訳でゆっくりペースです。

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