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まさかの変装?

とびとびになろうとも、少しづつでも更新していきます。



 各々には特徴、と言うものがある。


普人種には万能、そして広く深く浸透する適応力と行動力。


森人種には知性、そして高い魔力と魔導に対する知識の蓄積。


鉱人種には技巧、そして高い筋力と類い希な創意工夫の手腕。


蛇人種には幻術、そして高い洞察と精神世界に対する深思考。


鬼人種には武能、そして鋼の肉体と戦いに対する高度な境地。


爬人種には奇態、そして闇の如き隠密性と埒外と言える剣技。


犬人種には連帯、そして高い追跡能力と獣人ならではの膂力。



ただし、それらには不平等とすら言える理が一つだけ付随する。それは、【寿命】である。


繁殖力の強い種族は寿命が短く、そして長寿の種族は悠久とすら言える時間を過ごせる代わりに……繁殖力が薄い。



……では、【稀少種】と言われるマイノリティ達は、果たしてどちらの法則が当て嵌まるのだろうか?


これは、一つの事例だが記しておこう。


【稀少種】達は不安定且つ不確定要素が高過ぎる為、一切の前例が当て嵌まらないのである。



シャラザラード・ネクタリス 「各種族の特徴及びその独自性の考察」より抜粋。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「……これ、どう見ても幻術の呪符なのよねぇ……ジャニスちゃん、本当にあのお堅い役人娘が貴女に、って手渡した物なの?」


シャラザラードから渡された品々の中に有った魔導のお札が判らなくて、ここは一番知識の有りそうなカミラに訊ねてみようと決めて、支度するリューマに断ってから集合住宅のお隣さん、蛇人種(ナーガ)のカミラの部屋の扉を叩いたジャニスだったが、彼女の答えは意外なものだった。


「まぁ、ぶっちゃけ言ってしまったら……これ、私が作ったモノだから即答出来るんだよねぇ~♪」


「えっ!?……カミラさんってちゃんと働いてらしたんですかっ!?」


かなりの失礼発言にやや遠い目をしていたカミラだったが、どうやら少しだけ桃色な妄想の境地に到達してから戻ってきた彼女は、ジャニスの頭を撫でながら妖しげに耳元で囁いた。


「……ねぇ、ジャニスちゃん……これで()()()()()()()()()()()()()()()()()を体感してみない……?」


「ふぁいっ!?」





……十分後、そこには強烈な出で立ちの(元)ジャニスが居た。


流れるような蜂蜜さながらの透明感ある見事な長い金髪、横から長く伸びた尖り気味の耳、そして大粒のサファイアのような美しい碧眼と、細く整った顔立ち……。


その身体付きは細くしなやかな肢体と控え目な曲線で構成され、スラリとした長い脚は際どい意匠の前垂れ付きの下穿きでキッチリと露出し、見るものの眼を確実に釘付けにする。



「あわわわわわわわ……こ、こここれ、本当に私なんですかッ!?」


「あー、衣裳は特別に貸してあげるけど、たぶん普通の森人種ならこんな感じのコーディネートじゃな~い?きっと……(ウフフ♪)」


意味深な含み笑いを浮かべながら鏡を持ったカミラは、ジャニスに施した幻術に依る変装の出来に満足げに頷く。ええ、それはそれは楽しそうに……いや、愉しそうに……。


「それにしても、どこから見ても森人種(エルブ)にしか見えん……物凄いものだな、幻術とは……」


顎に手をやりながら、繁々と眺めるリューマの視線に恥ずかしげに身を捩らせるジャニスだったが、それは逆に何時もとは違う小振りな臀部を晒す結果に繋がり、クルクルと廻り出す羽目になるのだが。



「ここここれって、元に戻れるんですかっ!?私、流石にこんな自己主張激しい格好でずーっと居たら……変になっちゃいそうです……」


(いひょひょひょ~♪……恥じらいに身を捩る若妻とか……もう、これは捗ることこの上ないわぁ……旦那不在とか最早全てが千載一遇としか思えませんッ!!)


独り心中で猛烈に昂らせる変態一人はさておき、こうして無事に変装を済ませたジャニスは、リューマを伴い真相究明の旅路へと赴くことになりました。そうそう、護身用に何時もの包丁を持ち出そうとしたジャニスは、「らしくないから却下ッ!!」と言う理不尽な反対意見に已む無くレイピアのみ許可されて、困惑しきりの出発になったみたいです。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「……リューマさん、こちらのご婦人は?」


緑地管理担当で面の割れた彼はともかく、知る者のないジャニス(の変装した姿)は当然のように誰何される事になったのだが、そこは百戦錬磨の鬼人種たるリューマである。


「この女性は討伐者窓口担当のシャラザラード嬢の遠縁の間柄で、訳有って同じ方面に向かう次第と聞いて同伴することにした。物騒な御時世だ、御婦人が独り旅となれば良くない虫もにじり寄る故、こうして旅路を共にする事となったのだが……御不満かな?」


流石に警備担当者なら知らぬ者の居ない彼がそう言えば、門番とて素直に従うことしか出来ず、まぁ、それでしたら……、と見送られ高い防護壁を抜けて都市の外へと暫く歩き、門が小さく見える程に離れた途端、



「……ひいいぃ~っ!!真っ昼間に堂々と門番破りするなんてしたことないわよっ!!……いつもだったらヒョヒョイと壁を越えておしまいなのに……」


ブンブンと髪の毛を振り乱しながらジタバタとその場でクルクルと走り出すジャニスに、やれやれと言った風に呆れながらも苦笑いしつつ、リューマは額の角を掻きながら、


「まぁ、言わんとすることは判るがな、これから向かう場所ではアンタ、相当に面が割れてる可能性があるからな?慎重な行動に徹して、間違っても尻尾を出すんじゃないぞ?」


「えっ!?まさか出しちゃってた?……って、それって比喩的な意味で言ったんですよね……」


わざわざ前後の垂れを捲りながら、自分で眺めて確認するジャニス。流石に長い髪の毛は動きやすいように一つ縛りで纏め上げ、名前通りのロングテールにしていたので首を振る度に近くのリューマの臍辺りを髪の毛の先がぺちぺちと叩いていた。


「ところであんたはどうやって彼の地で目的の店を探すつもりなのだ?」


「そう!それなんですよ……たぶん、『(ドラゴラム)』まで行けばきっと……何とかなるんじゃないですか?」



「……()()()()、相変わらずお気楽だな?下調べもなく行って見つかるようなモンでもなかろうに……」


不意にその名を呼ばれて慌てて振り向くと、そこには呆れ顔(頭巾で見えてはいないが)で呟く狐鉄が木陰から姿を現すのだった。


爬人種(リザードマン)か……闇の眷属が我々に何用だ?返答次第によってはそれなりの事となるが……構わぬか?」


「あーあー!リューマさんコイツは狐鉄!私の古い知り合い……と言うか……私の師匠の一人よ……」


……師匠だと?と繰り返すリューマに、恭しく一礼してから狐鉄は自己紹介する。


「……(それがし)は狐鉄、【暗闇を照らす灯明】に与する間者、あとそこのジャニ坊の元お目付け役さ」


「煩いっての!コイツ、私より強かったからって、好き放題にヒトの事をあーだのこーだの言い触らしてた変な奴よ!って、アンタ何か用?」


ジャニスの姿に暫し目を細めつつ、まぁ、それは確かにそうなんだが、と言いながら狐鉄は二人の前で周囲を確認してから、


「……一応言っておくが、中央都市の中からずーっと付けられていたが、気がついてたのか?」



気が付けば五十話超えてポイント桁越え。うんうん、そろそろ深海徘徊作家返上……しないか。それではまた次回。物語はやっぱりゆっくりと進んでいきます。

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