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ジャニスが【邪剣】になった時《イメージ挿し絵付き》

【邪剣】ことジャニスは、自らの複雑な生い立ちとその混血児特有の姿からくる負い目により、ただ剣にのみ没頭する生き方をしてきました。でも彼女は……本人もうすぼんやりと気付いてましたが、もう《御年頃》だったのです。


※レビューと同時に素敵なジャニスのイメージイラスト頂きました!!ご馳走さまでし!!いやいや確かにそうだが……とにかくありがとうございます!※



 ……おとうさん、どうしてそのひとをころしちゃうの?


……俺が、大陸一だと証明する為だ。その為の犠牲だ、仕方が無いんだ。



……どうして、ころさなきゃいけないの?


……殺さないと次に会った時は俺が殺される。手段を選ぶ暇はない。



……どうして、そのおとこのこはころさないの?


……黙れ、ジャニス……お前は気にするな……。俺がそうしたいからだ。



……なんで、わたしはたすけてあげない

✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



……最悪の目覚め。馴染みの夢とは言えど、実父が殺人を犯す記憶が蘇って喜ぶ者は皆無だろう。

まだ薄暗い中、暫くボーッとしていたがブンブンと頭を振り、意を決して寝台から身を起こすとジャニスは部屋の隅に有る水壺から水を手で掬い、顔を洗う。

棚に掛けられた柔らかな布でゴシゴシと顔を擦ると鏡の前に座り、見慣れた自分の顔を見つめる。


挿絵(By みてみん)


柔和な目元に長い睫毛、細く整った眉とふっくらとした頬。やや黒みかかった鼻と、桃色の唇そして……頭から突き出て薄茶色の髪の毛と違う色の焦げ茶色の毛に覆われた折れ耳、そして同じ焦げ茶色の毛に覆われた尻尾……。


見た目はほぼ人間、でも犬人種(コボルト)としての特徴は決して薄くはない中途半端な《先祖還り》の混血種(ハーフ)

犬人種が先か、普人種が先か……意見が別れるだろうが、少なくともどちらが先に異種族婚姻を望んだかは判らない。だが、今の自分には少なくとも昔のことは関係ない。私は私……。


そう結論付けた後、立ち上がり鏡で他も見る。薄い生地越しにハッキリと自己主張してくる、普人種の特徴である豊かな胸元(犬人種はあまり肉体的性徴は見られない)と、割りと控え目で目立たない犬歯……どっちつかずの身体は昔からコンプレックスの源だったが、今は両方の良い所を受け継いだと割り切っている……けれど、一度染み込んだ心の闇はなかなか拭い切れない。


だからこそ、普人種に立ち混ざって剣を握り締め、剣こそ全てと打ち込んできたのだが……今回の相手は余りにも余裕を持てなさ過ぎる。大陸一とその名を馳せた【剣聖】、しかも自分より僅かながら年上。つまり……若くして大成した、天才の部類である。


不安を払拭したい彼女は気を落ち着かせる為に、髪の毛と耳、そして尻尾(これは外せない)にお気に入りの香油を付けて櫛梳り、サラサラとした触感に頬を綻ばせる。

続いて薄い色の口紅を塗りながら歯を眺め、仕上げに目の周りに少しだけ貝粉を交ぜた薄墨を塗り、頬に柔らかく薄紅を刺してからパチン!と頬を叩いた。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


階下へ向かう廊下の窓からは、雨がひっきりなしに降り続く様が見える。雨音は静かに、そして確実に強まることを告げていた。



「……早起きね、あなたにしては珍しいんじゃない?」


部屋を後にして階下に降りると、同居しているニケが彼女を迎えてくれる。

一つ屋根の下で暮らす姉妹であると同時に、自分に剣技を授けた師匠的立場でもある。彼女は【武装商工連合】きっての指南役、そして暗闇の世界にも顔の利く手練れだった。

ニケとジャニスの父親から才能と、そして人脈を引き継いだ彼女は、妹のジャニスを鍛えそして生き抜く術を叩き込み、【邪剣】として名を馳せるまでに育て上げた張本人である。


「ニケ、落ち着いて寝てられる訳ないじゃない……相手は【剣聖】なのよ?おまけにこの天気……冗談じゃないわ……」


ため息混じりに食卓に座ると、黙々と食べ始めるジャニス。そんな妹に気を揉みつつ、ニケも食事を始めるのだった。


暫くして静かな食事を終えると、ジャニスとニケの二人は賄い役の家政婦に食器を手渡して後の始末を頼み、手早く身支度を整えると迎えの馬車に乗り込み国境付近へと向かって出発した。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「この子は最初、次はこの子……君は三番目に使って……ええっと、四番目はどの子にしようかな……?」


ジャニスは木製の箱を拡げながら、中に納めた数々の刃物を吟味しつつ使う順番を決めていた。それは彼女にとって気休め且つ大切な儀式であり、だがしかし戦闘が始まれば何の意味もない不思議な行為だった。

何故ならば、一瞬で手にした刃物を直感的に使いこなす彼女にとって、順番も順序も決めようが何をしようが関係ないのだからだ。


しかし、ニケはそれを止めさせようとはせず、この才気に溢れていながらも情緒不安定で引っ込み思案な妹が、一つのことに没頭する姿を温かく見守ることに決めていたのだ。

それに、どうせ気分でぶん蒔いて適当に手にして戦うのだから、結局は何を持とうと違いはないのだ。好きにさせて満足するなら、それが一番だ。


主に取り回し易い短剣や暗器を使いこなすのが好みのニケにしてみれば、身の丈に近い両手剣や長大なエペ、重くて扱い辛い鉈なんて飾りにもならないのだが、それすら使いこなす妹のジャニスをたまに尊敬はしてみるが、やはり……変わった妹だなぁ~、と感じてしまう。


「……さて、そろそろ決闘場所に着くわ……準備はいい?」


ガチャ、と木箱を閉じ、それを帯で肩に担ぎながらジャニスはただ一言、



「……準備?……【剣聖】の入る棺桶か、転がった臓物を集めて押し込む死体袋(ボディバック)のこと?」


と言い切った後、そのまま押し黙りながら馬車の外へと降りていった。



ジグザグになっている構成ですが、ゆっくりと続きます。


……イラストではチャーミングなジャニスちゃん、作中ではほんのり犬っ鼻ですが、細かいことを気にする器の小さい奴は大物になれないぞ!ナイスガイを目指すイカした読者様へ作者からのほんの気持ちです♪

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