第一歩
いやはや、久し振りの連投、そして久し振りの真面目な剣のお話です。
「……リューマさん、セイムス君は……あれでも普人種だよね?」
アラミドは今まで様々な人々を間近で見て観察してきた。迷宮に足を踏み入れて澱む障気に当てられ自我を失い動けなくなった者、内包してきた破壊衝動を開放し動く者全てを手当たり次第殺し尽くし、忘我の果てに殺戮者と化した者……。
……だが、目の前に立つセイムスは、そのどちらでもなかった。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
「はい、はい!了承致しました!!……セイムスさん、あまり無理や無茶はいけませんよ?聞けば凄くカワイイ奥さんが待ってるって噂ですからね……未亡人なんかにしたら……地獄行きですよ!?」
受付嬢のシェラザラードにからかわれながら、セイムスは苦笑しつつ討伐開始の申請を終えて、道案内を買って出たアラミドとリューマと顔を合わせる。
「……当たり前だが、初心者のセイムス君をいきなり深部まで案内する訳にはいかないよ?先ずは初級の迷宮から初めてもらう。了解かな?」
アラミドは手続きを済ませて待機所へとやって来たセイムスを迎えながら、了承を得る。
「はい、勿論従いますよ?……なにせ、自慢じゃないけれど、対人戦は飽きる程繰り返してきましたが、魔物相手は未経験ですし……」
セイムスは肯定しつつ外していた手袋を嵌めて引き下げながら、少しだけ情けなさそうな表情を浮かべる。リューマはそんなセイムスが初陣だとはとても見えず、しかしそれは彼が【剣聖】だったことを考えれば当然だろうとも思う。
「……固くなることはない。お前が見せてくれた諸々を考えれば、足りない場数を埋めていけば恐れるに足らん」
木の床にコツコツとブーツの音を響かせながら二人が掛けていた椅子に近寄って、預けていた片手剣を受け取り腰に固定する。
カチッ、カチッ、と幾つかのボタンで取り付け革ベルトで固定し、ざしゅっ、と抜き出して抜き易さを確認する。
片手剣の刃渡りは肘から指先迄の短剣並みだが、刃の幅は指四本程も有る。鍔の片側が柄尻まで延びて護手となっている独特の造りである。アラミドはその見たことのない拵えの剣を指差して尋ねてみる。
「セイムス君、その片手剣は見たこともないのだけど……『龍』では普通の物なのかい?」
リューマもあまり見たことのないその片手剣を眺める。刃はギルモアの打ち鍛えたオリハルコンの鈍い光沢を放つ青みを帯び、独特の光沢を持つ物だ。
「故国でも……珍しいと思います。前の剣も同じでしたが、話では耐久性を重視した馬上剣を参考にして造ったとか。……でも、ギルモアさんのコッチの方が凄いですよ?……前の剣、一刀両断出来ちゃいましたから……」
「そりゃ凄いな……ちょっと見せてもらっても?」
構いませんよ?と手渡されたそれは、見た目より軽さは有るが、全体のバランスと芯の重みにより振り抜き易さを重視しているようだ。アラミドでも持ち重みは感じない造りではあるが、しかし……剣を叩き折れるか?と聞かれれば……否としか言えないが。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
三人が待機所から出て迷宮入り口の有る広場へと抜ける通路に向かおうとすると、周辺警護や守衛の任に当たっていた兵士達が通路に並び、剣や槍を掲げて黙礼をする。
「あ、あの……これは……何が始まるんですか?」
セイムスが慌ててアラミドに問うと、彼は涼しい顔で当たり前のように答える。
「あぁ、これかい?初出の討伐者への先送りの葬送だよ。先に葬式をしておいて二度目はしないで済むように……そんな儀式さ」
無言の兵士に囲まれて思わず緊張するセイムスだったが、そんな彼の様子を眺めてリューマはニヤリと笑い、
「セイムス、あんまり気にするな……新婚のアンタには帰る嫁の懐が待ってるんだからな?」
混ぜっ返す彼らしからぬ冗談に、周りの兵士からも笑い声が漏れる。セイムスは照れ隠しに頬を掻いた。
待機所から伸びる通路を抜けると、殺風景ながらも要所に兵士を配した地下迷宮の入り口が見えてくる。大まかに二つの設備が併設されていて、一つは警備及び緊急対応の即応兵と待機所。そしてもう一つが……、
「おっ!?アンタが今日から潜るって噂の【特別討伐者】のアンちゃんか!!まぁくたばるなよ?色男よっ!!」
そう言いながら小柄な髭面の男が白い奇妙な人形を引き連れてやって来ると、セイムスの傍らに立ち彼をバシバシと叩きながらガハハハハハと笑う。
「お久しぶりです、ドルクさん。お元気でしたか?」
「おおぉ~!!嫁のグラスは相変わらずか?飯も上手くなったみたいでよかったじゃねーか!!子供も元気そうだし万々歳だな!!三人目、早く作んなよ!?」
いや、それは……、と濁しながらアラミドはセイムスに向かって、その鉱人種を紹介する。
「こちらは【討伐認定】のドルクさん。まぁ、君の戦果確認と搬出担当になるから、覚えておいた方がいいよ」
「はじめましてドルクさん。……と、後ろの……ヒトですか?」
セイムスはドルクに挨拶しながら、彼の後ろに付いて来たモコモコとした白っぽい人形を指差すと、お?アンちゃん見たことないか!?と言いながら、
「コイツらか?見たことないか……ゴーレムの一種なんだがな、一度見た者をこうやって追いかけて、指を鳴らしてやると……」
ドルクがパチン、と指を鳴らした直後、そのゴーレム達が彼の周りに集まって、一挙手一投足を観察し、
「……こうしてアンタを掴むと……ほらよっ!」
ドルクがセイムスを掴んだ瞬間、白いゴーレム達がイ~ッ!!と掛け声を出しながら彼を掴み上げ、運ぼうとしながらドルクの方を見る。
「あー、降ろしてやれ降ろしてやれ!ビックリしてるからよ!……まぁ、こーやって運び出す価値のある魔物なら、討伐されたら搬出されるって寸法さ!」
ドルクが手を上げ下げしてセイムスを降ろさせると、ま、宜しく頼むぜ?色男!!と手を差し伸べる。セイムスは恐縮しながら手を掴むと、
「こちらこそ宜しく……ですッ!?」
挨拶しながら自分で立ち上がろうとした瞬間、思いの外力強く引っ張り上げられ、驚く彼をそのまま迷宮入り口へと放り投げるドルク。
「まぁ、最初は固くなるだろうが、何でも初めてはおんなじさ!女も迷宮もなぁ!!」
ガハハハハハ、と笑いながら、ドルクはゴーレムを引き連れて彼の方へと歩き出した。
上手くリズムに乗れたか心配ですが、まぁゆっくりと進めて参ります。チャンバラ書きたかったし。




