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広場と墓標

必死に走ると全てを忘れられます。描写する作者も同様です。……あれ?この話……この後どうするの?って。もちろんジャニスも同じみたいです。



 「……いやはや、速いと言うか無謀と言うか……君くらいの身軽さを持った奴は鳥か伝説の怪盗シルバーウルフ位ですよ……」


声に気付いてビクッ、としながら後ろを振り向くと、生え際に銀髪が目立ち始めてきたアラミドが、いかにも走り疲れて座ってますが、何か?と言いたげに石柱へと腰を降ろして汗を拭っていた。


「い、何時の間にっ!?ま、まさか……私が家を飛び出した時から……?」


狼狽えながらもジャニスはアラミドを観察してみるが、彼女と同じように屋根を走り伝ってやって来たのなら、彼の衣服に汚れが見当たらないのはどうしてだろう?今の自分は様々な場所を潜り抜けたせいで全身ススだらけに違いない。


「少し違うけど、まぁそれに近いかな?何せグラスにせがまれて飛び出したお陰でズボンの前後が逆でね……気持ち悪いの何の……済まないけど、少しだけお月様を眺めていてほしいんだけど……失礼して、よっ!」


ゴソゴソという音を背中で聞きながら、言われるままに月を見る。やや欠け気味の月は、今夜もいつもと変わらず夜空に浮かんでいる。毎日見ている訳では無いけれど、ジャニスが見逃していようが関係なく……、


「お待たせ……どうしましたか?物思いに耽って……もしかして、仲の良い二人が喧嘩した理由は……【特別討伐者】だったのかな?」


「…………知ってたんですか?」


「まぁ、ね。……セイムス君に相談を持ち掛けられた時は、私も止めたんだが……《ジャニスと一緒に居る事が出来る唯一の方法》だって譲らなくてさ、押し切られたよ」


「どうしてッ!!……止められなかったんですか……私が反対するって、きっと彼も判ってて……」


とりとめもない反論、感情的な言葉、溢れ出る気持ちが堰を切ってしまうと後は止めどなく……しまいには涙も流れ出てくる。




「はぁ……セイムス君も罪な奴だ……自分の居ない時まで、君をこうやって泣かせるんだから……」


「ふぁっ!?あ、わ、私ったら……アラミドさん何も悪いことしてないのにっ!!ごめんなさいっ!!」


慌ててゴシゴシと目や顔をこすり涙を散らそうとすると、アラミドは呆れた様子でポケットから使っていないハンカチを取り出しジャニスへと差し出して、


「……ジャニス君、スゴい顔になってるよ?……夜でよかったねぇ……」



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



広場の端にあった噴水(珍しく湧き水を導いている)で顔を洗い、最近はあまり化粧もしていなかったことに改めて気がつく。家に居る時間も今までで一番長かったかもしれないし、そんな生活は……想像もしたことがなかった。


「……ありがとうございます、これ、洗ってお返しいたします……」


「ハンカチ?気にしなくていいですよ?……たまーに、カーボンとナノの相手してくれれば、それでおあいこですから」


(……私の面倒と、小さな二人の面倒は同じってこと……なのね……)


自分でも社会的にも立派な成人だとしても、子を持つ親の視点から見れば子供達と自分は……あまり変わらないのかぁ……、そう思うと可笑しくなってくる。ジャニスは感情が極端に入れ替わることを気にしつつ、しかし気分転換に身を任せることに決めた。


いきなりクスクスと静かに笑い出すジャニス、アラミドはそんな彼女を暫くそのままにしておいて、さて……それじゃ、ご案内いたしましょうか、とジャニスに声を掛け、


「……ジャニス君、ちょっとだけでいいから、私の散歩に付き合ってもらえないかな?いや、この広場の中だけだけどね」


(……ギルモアさんといいアラミドさんといい……みんな、ホントお節介なんだから……)


そう思いつつ、アラミドの真意は判らないままジャニスは歩き出す。広場の散歩……広くても直ぐに終わってしまいそうだけど……。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「……さて、これ、石碑なんだけど……見ての通り、墓標だ」


「え?…………ち、ちょっと何これ…………なんで、こんな広場の端に?」


二人の前には壁が建っていた。六面分は有る石盤に膨大な量の名前が彫り込まれ、名前の中には遺族がしたのだろうか、横に小さく「安らかに」や「待っていて」等と彫り込まれていた。足元には新旧の花束が置かれているが、その量は少なくこの場所が次第に風化しつつある存在なのだと思わせられる。


「これはね、今から三十年位前、突然現れた地下迷宮を鎮める為に赴いた人々と、そこから溢れ出てきた物を押し戻す為に……犠牲になった人々の、墓標だよ。」


アラミドはそう言いながら墓標の真ん中に指を這わせ、ほら、これが私の父親だよ?そう言うとコンコン、と墓標をノックする。


ジャニスが近づいて見てみると、「ファイブ・ケブラ」とあり、その脇に小さく読み難い字で「じーたんまたね」と「おやすみなさい」と、並んで書き込まれていた。


「……御察しのように、私の父親は探索者でね……この迷宮の出現時に探索に赴いた人々の一人だったよ。……ちなみにこの墓標は、亡骸を回収出来なかった者や、全滅して行方不明になった者達の慰霊碑も兼ねているのさ……」


その名前は軽く千は有り、アラミドの話だと溢れ出てきた者を押し留める為に犠牲になった者が大半で、地下迷宮を今の形にまでする過程では殆んど犠牲は出なくなったと言う。



「それにしても……この広場って、最初からこのような形になっていたんですか?その……迷宮を中心にして、綺麗に円形だから……」


慰霊碑のある広場の端から見ると、緩やかな傾斜を描きその中心に迷宮の入り口がある。ジャニスにしてみれば、もし周囲に家や建物があったのなら……どこに行ったのだろうか?と不思議に思っていたのだ。


「それかい?それは簡単だよ。迷宮から出てきた奴が吹き飛ばしたそうだ……綺麗に円形に……今もその相手と対峙する対策として、この広場は設計されててね。各所に有る石柱は爆風から身を守る遮蔽壁になっているらしいよ?」


事も無げにアラミドは言うが、ジャニスはその破壊力に呆然となる。一瞬でこれだけの範囲を破壊し、複数の戦士と相対し……あれ?そいつ、倒されたの?


「あの、アラミドさん……その、ココを焼け野原だか広場にした奴って、どうなったんですか?」


「あぁ、そいつね。帰ったよ?迷宮の奥へとね。初手で広範囲爆破を起こし、複数の戦士を同時に相手しながら焼け跡を軽く一周して、満足したのか……普通に歩いて帰ったって」


……その存在を話題にすることは、中央都市では禁忌とされててね……、と前置きし、ジャニスにアラミドは教えてくれた。



「……そいつのことは、みんな()()とだけ呼んでいる。三十年前に一度だけ姿を現して、完全武装の数百人を軽く葬り、ゆっくり歩いて帰ったからね……間違いなく人では、ないよ……」


それだけ言うと、アラミドは中心に在る迷宮の入り口を指差し、


「……それ以来、地下迷宮には監視と守衛を欠かさないし、非常時には都市の登録者全員が招集されるんだ。……まだ、一度もないけどね」


そう言って、さて……帰るとしましょうか?ジャニス君、とアラミドは帰宅を促す。落ち着きを取り戻したジャニスはやや早足になりながら自宅へと急いだ。


……セイムスと、キチンと向き合って話す為に。

バルクールを文章で表現する練習をするべきか……。これからも物語はゆっくりと続きます。

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