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新しき道

セイムスの決断、そしてシャラザラードの驚嘆。その時、ジャニスは?



 長く美しい栗毛色の髪の毛は、流れる蜂蜜の如く彼女の優美なカーブを描く肩から細く美しいくびれた腰まで流れ、身体を動かす度にサラサラと音もなく揺れていく。


男の願望を詰め込んだかのようなアーモンド型の大きく美しい眼と、深い森の緑のような瞳がその姿を捉えた時、まず彼女が思ったこと……それは、




(…………はい?……やたら……小さくね?)


だった。いや、そんなに小さい方じゃないぞ?悪いけど。


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



シャラザラードが驚いたのは、別に彼のせいではない。いや、ある意味セイムスのせいではあったのだが……。


その場に居る三人の異種族達の背丈はおおよそこんな感じである。


リョーマ→背丈は約3メルテ(1メルテは約80センチ程)、肩幅はセイムスの倍は有り、立ち並んで比較すれば彼の腹の辺りにやっと頭が届くかどうか。


アラミド→背丈は2・3メルテ、肩幅は若干アラミドに分が有るが、立ち並んで比較するとセイムスの頭は彼の鼻辺りまで届く。


セイムス→背丈は2・2メルテ、肩幅は普人種としてはがっちりしている方。痩せて筋肉質(現代だと体操選手タイプかと)。上腕部の筋肉はかなり有る。


セイムスが平均的な体格だとしても、アラミド(元々犬人種全体は小柄な方)とリョーマ(鬼人種の存在自体が規格外過ぎる)の両人が大き過ぎるのだ。

しかも片や《肉の壁》と言われる程の図体、片や種族の中では巨大な部類の二人である。セイムスに罪は無いのだ。



「……え、えっと……お名前とご住所をこちらに書いて頂いたら、一緒に項目を確認しながら説明していきますね?…………セイ……ムス………………、セイムス……?」


頭の中で暫く名前の現す意味を吟味していたシャラザラードは、しかし優秀なエルブンとして瞬時に記憶の奥の名前が「ドラゴラムから捕縛令が出ている大陸一の【剣聖】」だと理解し、


(…………あれ?確か……中央都市では……指名手配されている人物は凶悪な殺人犯等で無ければ即座に捕縛されない……つまり、中央都市から出なければ、刑の執行は一時停止されたり延期されたりする……んだったわねぇ……あ、そっか!しかも自ら進んで【討伐者】に立候補すれば、二名の推薦を確保した時点で刑期は保留されるんだったわ……じゃ、セイムスってこのヒト……わざと【討伐者】に!?)


《……セイムス君、この都市で【討伐者】と言う存在は、二重三重の意味を持っているんだ。……一つは『極稀少金属』を確保する為に魔物と戦う収奪者、一つは『人喰い(マン・イーター)』から魔物が流出するのを食い止める兵士、そして……有能ならば犯罪者でも使って対処する為、代わりに罪からその身を遠ざける免罪符になる……って所だ》


(……俺は、ジャニスと一緒に居たい。その為なら……何でも、何だってする……)


アラミドに説明された内容を反芻しながら、セイムスは心の中で自らに活を入れる。そして……彼は……この三年間、誰も口にすることの無かった宣誓を、記載しながらシャラザラードに告げる。


「……私ことセイムス・バルカは……妻のジャニス・ロングテール共々にかかった冤罪を晴らす為に……【特別討伐者】として……特赦になるまで……永久にこの地で働くことを誓う……」




「……え?って!!えええええぇ~ッ!?ち、ちょっと待って待ってくださいっ!!【特別討伐者】って、意味判ってるんですかッ!?セイムスさんが死んだら奥さんが……その、特赦になるけれど……なるけど……それまで永久に……ずーっと……死んじゃうまで……辞められないんですよっ!!本気なんですかッ!?」


興奮して絶叫するシャラザラードが、荒い呼吸を整え落ち着きを取り戻すと、目の前に突き出された新規加入者用の用紙を裏返し、そこに記載されている【特別討伐者】の項目に不備が無いか……眼を凝らした。


彼女の声は静まり返った場内に響き渡り、居合わせた討伐者達(と場内に勤める様々な事務職の者)の耳に入る。彼等はその内容が意味することと、目の前に現れた【剣聖】のセイムスが、自分達より更に深く、そして危険な領域へと進む許可を得られる【特別討伐者】になろうとしていることを理解したが、反論する者は一人も居なかった。


「…………確かに、記載漏れはございませんが……でも、良く考えて……考え直した方がいいですよ?……【特別討伐者】になったら……確かに……深層部へ降りる許可は出ます……そして、特赦が与えられる迄は……誰もあなたと……ジャニス・ロングテールさんを捕縛出来ません。……逆に言えば……特赦にならなかったら……永久に……討伐者を……辞められないって意味なんですよ?……今なら間に合います!!これを……私が受け取らなければ……」


「……その辺にしてやってくれ、シャラザラード……彼も考えてのことだ。なぁ?」


「セイムス君は……軽い気持ちで申請していない。それは私も確かめた。だから……受け取ってくれないか?」


リョーマとアラミドは、そう言いながらシャラザラードを見つめる。

二人の視線に暫く俯いていた彼女だったが、しかし意を決してキッとまなじりを上げると、


「……了解いたしました!……この場この時を以て……私、エルブンのシャラザラード・ロイメンは……その権限により……セイムス・バルカの申請を受託し、妻のジャニス・ロングテール両人の特赦を条件とする【特別討伐者】として任命することを……この場にて了承致しました。……以上、異論無きものとして推薦者二人の書名を書き記した時点で効果を発揮することを、此処に証明いたしました!!」


場内にどよめきが起こり、手にした武器や防具を打ち鳴らす音が木霊する中……セイムスはこの瞬間、【剣聖】から《特別討伐者》……冤罪を晴らす為に命を捧げる者となる。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「……で、ジャニたん、まず覚えたい料理とか……あるの?」


「ハイッ!!目玉焼きをマスターしたいですッ!!」





「……そ、そうなの?……まぁ、いいけど……」



料理から始めたいそうです。物語はあいかわらずゆっくりと、進みます。

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