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現れた三人は

雨が降れば川に集まりやがて海へと流れ込むように、セイムスは次第に向かうべき場所に、吸い寄せられているかのように……。



 「……おい、アレ見ろよ……」


木製の壁で囲まれた広い空間。そこに多種多様な人々が集まり、一種独特な雰囲気を醸していた。身なり、様相、種族年齢服装装備から性別に至るまで……一切の共通性を持たない彼等彼女等には、一つだけ同じ所があった。


……武器である。長さや大きさは身の丈を越さぬ物であり、そして弓等は射程を犠牲にして携帯性を高めた合成短弓(コンポジット・ボウ)ばかりであるが、全員が即応する為なのか、ここを出発する為の待ち合わせ場所に使っているからだろうか。全員が何らかの武器を手にしていた。


「……眼、合わせるなよ?……【竜舞い(ドラゴン・ダンス)】のリューマだぜ……」


「あぁ?…………ッ!?……マジかよ!……登録だけして何回か単独で潜ってからは、一度も顔出してなかったからてっきり死んじまったのかと思ってたんだが……てっ、隣の奴!……【不可視の(ブリンク)アラミド】だ……嫁貰って引退して……後輩の育成以外では迷宮に入らなくなってるって聞いたぞ?」


二人の男が口々に噂する中、ゆったりとした足取りで登録窓口に進むリューマと、対称的に入り口付近で立ち止まっていたものの、暫くすると足早に待ち合わせの広間を真っ直ぐ突っ切り、リューマと合流し隣でカウンターの上に片肘を突く。


「…………ってことは……スカウトか、ブリーフィングだぞ!どう考えてもよ……?」


「まさか……あの組み合わせに見合う奴が今の登録者に……居る筈ないよなぁ……」


そんなことを言い合う二人の眼は、続いて現れた男に一瞬釘付けになるが、その眼は違った意味で見開かれる。


「……なんだ、あいつ……見たことないチビだな……お前、知ってるか?」


「いや……新参者だろう?……でも、二人に近付いてくぜ……知り合いなのか?」


「さぁ……でも、何か引っ掛かるんだよ……何でだ?」


巨躯のリューマはともかく、そこそこの身長のアラミドと比較しても肩に頭が届くかどうかの小柄な青年は、全く臆することなく二人の間に割って入り、受付窓口のカウンターで受付係の窓口嬢と言葉を交わしている。


暫くのやり取りの後、ざわめく場内はその新参者が、この究極の治外法圏……「中央都市迷宮区画」に現れた、金貨二百枚の賞金首……【剣聖】のセイムスだと知り、更に騒然となる。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「中央都市」


この世界で唯一、特定の地名も、そして統治者も存在しない土地、それが中央都市である。大まかな地勢で説明すれば、巨大な盆地の中心に位置し、両側を王政国家の『(ドラゴラム)』と自治集合国家の『武装商工組合』の二国に挟まれ、両国と貿易と人員の自由な往き来を保証された都市である。



……ここまでの説明で、不審に思う向きも居るやもしれない。「なぜ、国家が自分達の隣に統治者の存在しない都市を放置して不干渉を維持しているのか?」「多数の人間や物資が往き来をするなら、管理維持する人材や資金、徴収されるべき税金収集は誰がしているのか?」等と。



正確に言えば、中央都市は両国から一定の管理監督官が派遣されていて、徴収された税金から様々な支出を賄って維持されている。つまり、隣国が面倒をみている変わった都市なのだが、それはこの一点の為、苦渋の選択の末に導かれた結果なのだ。


「中央都市迷宮区画」


大陸最大級、そして最悪の迷宮『人喰い(マン・イーター)』を有する地獄の釜の蓋、隣国が人材と少なからぬ資金を投入し、大陸唯一の治外法圏を許さなければ管理維持出来ない、この世界の鎮守府……それが、中央都市。


中央都市は、名前のように外周を高い防壁で囲み、内部に都市区画を形成した街で、一見すると堅牢な城塞都市の景観にも見える。だが、それは違う。中心部にぽっかりと開いた迷宮区画を取り囲むようにして、街と外周の防壁で外部への流出を防止する為の構造なのだ。


人喰い(マン・イーター)』がいつから存在するか、等の文献は存在しない。何故ならたかだか二十年程前に突然出現し、次々と魔物を吐き出して来たからで、その歴史は余りにも浅く現在進行形なのである。


ここまでなら、勝手に穴が開いて魔物が出てくるのならば、石でも詰めて塞げば終わるだろうが、人間の欲は……実に深かった。


魔物の存在が、様々な「極稀少金属」の素になっている、と気付いたのはやはり普人種だった。確かに魔物の骨や皮、筋や牙は硬くそれでいてしなやかであったり、強靭にも関わらず長く劣化し難かったり等、容易に精製出来ない素材として珍重はされた。だがあくまでそれは副次的な産物であり、たまたま浅い階層に現れた魔物を殺した際、何気無く土産代わりに持ち帰る程度のもので、命懸けの討伐の合間に遊び半分に近い素材の収集などしようなら、周囲や仲間から謗りを免れることは避けられない。


だからこそ、骨や牙を集めて粉にして、高温で熱して残った極稀少金属を精製し、「オリハルコン」等を錬成した人間は、何かを知っていたのではないか?そう疑われても仕方ない。だが……結果は、



「並行型単坑迷宮『人喰い(マン・イーター)』に、採掘を施し魔物の効率的な上昇を促し、効果的に討伐し素材化する」方法を編み出し、世界に唯一無二の存在になっている。謂わば、魔物相手の採掘工のような存在が、そこに集う「討伐者」達なのだ。


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


「…………やっ!?お、お久しぶりですっ!!リューマさん生きてたんですか?」


この『迷宮案内所』の最も暇で最も退屈な部署、新規参加者登録窓口にローテーションで座っていた【森人種(エルブン)】のシャラザラードは、長い栗毛色の髪の毛を編んでは解くを繰り返す暇潰しに集中する余り、目の前に現れた肉の壁が魔物でないことが信じられなかったのだが、


「……お前なぁ……俺は緑地管理課で二年間も枝打ちしてたんだぞ?時々新しい男と焼肉屋に出向くお前と「ハイハイハイ判りました判りましたッ!!……で、何の冷やかしなんですか?それとも奥さんの産休が遂に明けたんですか?」」


職場では《見た目に似合う気高く落ち着いた印象》を大切にしてきたシャラザラードは、自ら永年掛けて築いてきた偶像を破壊されないようにリューマの目撃談を遮りつつ、本来の業務を遂行し始めたのだが……、


「そうだったのか?シャラザラードの新しい彼氏が君の肉食系キャラに引かずに付き合って続くとは……奇跡的だな、早く結婚してしまえば……」


「ヒィッ!?あ、アラミドさんまで!!……何なんですか?……大規模救助の依頼とかは出てなかったと思いますが……」


二人の存在が良い方向に考えられなかったシャラザラードは、困惑しながらも《再申請書》を取り出すと二人に差し出して、


「リューマさん……はコッチ、で……アラミドさんのは……これ……でしょ?」


「……戒律破りのご法度娘の割りに優秀だな、お前……」


リューマは爪楊枝にしか見えない小ささの羽根ペンを揺らしながら、アラミドはサラサラと手慣れた動きで記入を終えて、


「……さて、私とリューマはともかく、シャラザラードさん……『新規参加者登録届け』の用紙も一枚くれないか?」


「……アラミドさんと言えど、たとえ代筆でも自筆以外は受け付けないことは知ってますよね?それにグラスさんのは再申請で充分……」

「……いや、彼のなんだが……」


シャラザラードからはリューマに遮られて見えなかったが、彼の肘の後ろ側に背の低い小柄な青年が居たことに、彼女はアラミドが指し示すことにより初めて気がついた。そしてそれが……、




「えっ!?………………えと、こちら、誰?」



誰かなんて判らないようで……まぁ、そんな感じでセイムスの新しい生活が始まったのである。



ゆっくりと、物語の蓋は開き、その全貌を明らかにしていきます。しかし、ゆっくりと、ゆっくりと……。

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