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セイムスの事始め

貿易摩擦、主義主張、国境問題……戦争の火種はやがて徐々に小規模な物へと変化し、最後は一対一の対決で問題解決を図るようになりました。セイムスは剣を持ったら大陸一、と詠われた裏では青春も何もかも、剣技に捧げたおバカさんでした。



 しとしと、……と降り続く雨が大地を濡らし、足場をぬかるませていく。

不用意に踏み出せば弛んだ地面に足を滑らせて、勝負の行方を判らなくさせてしまうだろう。セイムスは左手の護手(ガントレット)を掲げたまま、右手の簡素な片手剣を握り直し、相手を窺う。


雨はまだ、降り続くだろう。だが、彼は身体の内部から湧き出す熱のような感覚にこのまま永遠に身を委ねたかった。



……それは、今まで感じたことのない様々な感情のうねりであり……、




……人としてと言うよりも、生物的且つ原初的な……恋の予感だった。





✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「……【邪剣】との一騎討ち?……そいつは本当かよ?」


サボルトはセイムスの告白を聞いて、まず最初にそう聞き返した。サボルトとセイムスは、新興国家『(ドラゴラム)』の筆頭守護剣士、そして近衛兵団団長の間柄だったが、長年の付き合いからお互いを兄弟のように感じ合っていた。


今年で二十一歳になるセイムスは筆頭守護剣士であり、どの兵団にも属さない自由な立場であるが、サボルトは団長として三百人近い部下を率いて王都を護る重職に就いていた。

歳ではサボルトの方が八つも上ではあったが、二人のみで会話する時は団長としての立場をほっぽり投げてセイムスに合わせているようで、時には若干歳に似合わぬ言動を見せはするがそれは表面上だけであり、セイムスから見れば頼り甲斐のある社会的な先輩であった。


だからこそ、今回の【対外試合】を面倒臭く感じていることも含めて、彼はつい本音を交えて話してしまったのだが、


「……まず、相手が【邪剣】だと言うだけでも厄介の種でしかない上に、限り無く衆人環視から遠く離された場所で対決させられるらしいってさ……はぁ、やる気無くなるよ、本当……」


「【対外試合】か……互いに多くの血を流さずに済む代わりに、段々と使えるカードが少なくなって来る時が必ず訪れるとは思ってたが……あっという間だったなぁ」


【対外試合】とは、この『(ドラゴラム)』が在る中央大陸が苛酷な戦乱の時代を経て、極めて効率的かつ最小限の出血のみで国家間での揉め事を解決させる為に考案された、所謂(いわゆる)代理戦争の一種である。

互いの国家間で話し合いを経ても問題点が解決しなかった場合、一人または数人同士で擬似戦闘をさせ、その結果で解決を図る方法である。


その【対外試合】の白羽の矢が立ったのが《剣聖》のセイムスであり、相手が《邪剣》だったのだ。解決すべき諸問題が何かは当事者同士には明かされず、同座する見届け人は勝負の行方がどうだろうと報告する義務がある。見届け人は予め指名されることが多いのだが、今回は『筆頭守護剣士』の《剣聖》セイムスが指名出来ることになっていた。それは彼の立場と強さを尊重して国家が出した優遇処置の一つだった。


「なぁ、サボルト……俺の見届け人になってくれないか?」


「……そう言うと思ってたけどな……お前のことだ、自分より立場も地位も低い人間だと、相手に亡き者にされる可能性もある、そう踏んでるんだろ?」


「……うん、そんな感じだよ。俺、あんまり【対外試合】をしてこなかったからさぁ……平気か?」


セイムスは申し訳なさそうに切り出すが、サボルトの答えは二人の間柄から見れば当たり前の答えだった。


「平気か?だと……全くお前って奴は……あぁ、いいぜ?その代わり、嫁が不信に思わない位の時間には帰れるなら、の条件付きで、ならな?」


そう告げるとサボルトは拳を突き出し、その拳にセイムスは軽く拳を合わせた。


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳






ゆっくりと、お話は進みます。

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