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弱き者強き者

やっと彼と彼女の短い冒険のお話に一区切りが打てますので、更新させていただきます。



 強かった雨足も弱くなり、止めば直ぐに陽の光がその地に降り注ぐだろう。しかし、晴れようと時雨(しぐれ)ようとその場に居た四人には全く関係なかった。


ニケとサボルトは互いの剣筋がどこを通り、どう掠めてどう切り裂くか、全てを理解していながら、回避をしなかった。


「……つぅっ!!」


「……ぐっ!?」


短く悲鳴を飲み込みながら、ニケとサボルトは痛みを(こら)える為にしゃがみ込み、患部へと手を当てる。


「……っ!?サボルト……一体何故!?」


「……姉さんっ!!」


セイムスはサボルトに、ジャニスはニケへと駆け寄るのだが、各々は痛みに耐える素振りこそ見せたのに、互いの様子を窺うこともなく、セイムスもジャニスも事の次第に気付き始める。


「サボルト……まさか、あんた……」


「姉さん……わざと斬られたの?」


二人の疑惑の視線に先に耐え切れなくなったのは、やはりサボルトの方だった。彼は俯いていたものの、暫くすると肩を震わせながら笑い出し、


「くッ!!ハッハハハハハハハ~!!無理だっての!!俺にこんな茶番が出来るかっつーの!!」


その場に胡座をかきながら自らの膝をバシバシと叩きだし、対するニケの方は自らの怪我に動じることもなく、


「……ジャニス……あなたって子は……ハイ!【場面2・状況8】の場合は?」


「……に、肉親が当該箇所に居た場合は、最初に疑われる為に……何らかの身体的外傷を受けているべきである……ニケ……そうなの!?」


「上出来だけど……あなた、落第よ?全然ダメ!……まったく」


困惑するセイムスと笑い出すサボルト、そしてあたふたとしながら姉の傷を診ようとするジャニスと呆れるニケ。


「……だけどよ?こうしておけば、セイムスの方はともかく……『(ドラゴラム)』の面子は潰れない……」


「ジャニス……《人が殺せない【邪剣】》に、どんな利用方法があると思う?……最悪、戻っても何を知ってるか吟味する為に……拷問して、あらかた吐かせたら殺されるわよ?」


各々がそう告げると、セイムスは静かに頷き、ジャニスは黙ったまま下を向く。


「セイムス……お前はこの果たし合いで……卑劣な手段を用いて相手の【邪剣】に深手を負わせながら連れ去った……そして逃げる際に双方の見届け人に剣を向けて、追跡を断念させたって訳だ。判ったか?」


そい言いながらサボルトは、斬られた脇腹に当て布を宛がい包帯で巻きつつ、セイムスに言い聞かせる。その口調はいつもの気楽な調子は鳴りを潜め、幾百もの同胞の命を預かる隊長の口調だった。


「……ジャニス……今のあなたに【邪剣】を名乗る資格はないわ……相手を斬れないあなたには、ね……。だから今は、そのきっかけになったセイムス君に付いて行って、原因を見つけて自らの力で克服するか……諦めて静かに伏せて生きるかを、見極めてらっしゃい。……判った?」


ニケの言葉は優しげではあるが、有無を言わせぬ力が籠められていた。ジャニスはたった二つしか年の離れていない姉にも関わらず、どうしてここまで力量差を実感してしまうのか今まで判らず不思議だったのだが、もしかすると《相手のことを親身になって考えられるか否か》にあったのかもしれない。それが判った今……離ればなれになってしまう……皮肉なものだとジャニスは苦々しく思う。


「……姉さん、その……わ、私……行きたくない……でも、」


そこまで口にしてから、チラッとセイムスの方とニケの方を交互に見てから、


「……姉さんが、行けって言うなら……その、行ってきます……」


と告げてから、自らの愛刀達をどうするか一瞬だけ悩む素振りを見せたものの、あっさりとニケに、……回収してください。と手短に言ったきり黙ってしまう。


「……まぁ、俺からの話はそれだけだ。……でだ、セイムス……これは……()()()()()()()()()……少ないが持っていけ」


サボルトはそう言うと、包帯などを入れていた小さな雑嚢から革袋を取り出すと、セイムスに手渡す。中は全て金貨で、サボルトがいかに兵隊長だと言えど軽々しく扱えるような金額ではなかった。


「サボルト!!……これは一体!?」


だが、それには答えず、ただ革袋を無言で押し付けると、彼はセイムスにただ一言、


「……もし、どうしても俺の助力が欲しくなったら……『牛と牧童亭』の主人を訪ねろ……そこに俺が居なくても話は通じる……」


それきり彼は無言で腕組みをしたまま、眼も合わせることはなかった。




セイムスは背嚢から上掛けを出して肩にかけ、ジャニスはセイムスの後ろを無言のまま、雨上がりの泥濘(ぬかるみ)かけた大地を踏み締めながらサボルトとニケから離れていき、やがて視界から消えていった。



「……はぁ……なぁ、ニケさんだっけか?……どー言う手妻(手品の旧い表記)の類いなんだ?俺の荷物にあんなモノを、いつの間にねじ込んで……」


「どうもこうも無いわよ?基本中の基本……《右手を鳴らして左手に隠す》やり方で隠して貴方に取り出させただけよ?」


ニコリと微笑みながら、右手でサボルトの手を掴みと、左手でいつの間に盗ったのか彼の結婚指輪を薬指へと差し込む。


「……ッ!?……マジかよ?……盗られたのも判らなかったぜ……」


フフフ♪お世辞でも嬉しいわ?……ありがとう♪と言いながらニケはセイムスとジャニスの歩み去った方を向いたまま、


「……巌鉄(がんてつ)甲鉄(こうてつ)……居るんでしょ?」


「「…………此処に」」


うっ!?と呻き、サボルトは息を飲んだ。なぜなら背後に向かってニケが語り始めたと同時に、今まで何も、そして誰も居なかった筈の地面がユラリと揺れて、見知らぬ者が現れたのだから。


彼等は二人共、自らの役目を表すような黒装束に身を包み、髪型や顔形も判らぬ頭巾を被っていた。……ただ、腰に提げた短刀の艶消し黒の鞘が目立つ唯一の個性と言えた。それは職人技が光る業物であった。


「取り合えず、ジャニスに追い付いて頂戴。そして……間接的でいいから力になってあげて……判った?」


「「……御意」」


二人は短く返答し、また同じように姿を掻き消した。


「……お願いね、私の……たった一人の肉親に、悲しい想いはしてほしくないんだもの……」


ジャニスと良く似ていながら肌の色の濃さが少し強いだけの、美しく整った横顔が切なそうに歪む様は、妻子持ちのサボルトですら眼を奪われてしまう程だった。


「セイムス、お前……ジャニスさんとニケさんを悲しませるんじゃねーぞ?……したら、ウチの隊員全員で見つけ出して袋叩きにしてやるぜ?」


セイムスとジャニスの二人が消えた方角を見ながら、サボルトは照れ隠しのつもりかそう呟くと、ジャニスの遺した刃物達を集めるニケの脇に立ち、手伝い始めた。





……と、ゆっくりとしたペースで辿り着きましたが、これからは早足で語って参ります。

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