表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/66

竜を狩る者を狙う者

さて、達人と鬼神の闘いは果たして成立するのでしょうか?



 「……シム……あなた……まさか!?」


ジャニスが彼の肩に手を掛けると、意外にもふらり、と彼は力の抜けたような容易さで振り向いた。


その様子に一瞬安堵しかけたが、彼の眼は虚ろで彼女の姿を捉えてはいなかった。まるで虚無の深淵のような眼は、深い闇に波打つ湖底のように薄暗く、そして冷たかった。



「……ジャニス、俺は彼と仕合いたい。……竜と戦った彼と……闘いたいんだよ……どうしたらいいと思う?」


そう告白するセイムスは、全く笑みを浮かべずに、ただ立ち尽くすだけだった。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「……あらまぁ、旦那さん……随分と剣呑な殺気を振り撒いて……悪い子ね?」


窓から身を乗り出したエランは、全く動じることもなくそう言うと、フフフ♪と微笑みながらジャニスを手招きし、呼び寄せる。


「うちの旦那も強いけど、あなたの旦那さんも……オーグ相手に仕合いたい、だなんて……余程の馬鹿か自信家か……でも、男の子としては実に魅力的よ……とっても、素敵なことよ?」


「で、でも!……リューマさんも強そうだし……その、シムも……普人種の中では……その……強い方なんですけど……だから!……きっと……」


「えぇ……どちらかが死ぬまで……やり合うわね、確実に……嫌ねぇ、全く……!」


そう言い放ったエランは、しかしジャニスを安心させるように肩を叩くと、微笑みかけながら、


「……でもね?……だからと言って男の方が、女に心配されて剣を納めるなんて恥辱を受け入れると思うぅ?まぁ、無理でしょうね……」


と、諦め顔で言い放つ。だが、ジャニスは自分が過去に【邪剣】と渾名される程の非道な勝ちを選ぶことを苦も無く選んできた自覚があるにも関わらず、目の前で二人が血を流して殺し合う姿を見るのは堪えられなかった。


「……シム……馬鹿……シムと二人で……折角こうして…………ッ」


眼に溜まる涙を意識したジャニスだったが、次にエランが発した言葉は、彼女には余りに衝撃的過ぎた。


「じゃ、旦那さんが諦めがつくまでうちのヒトに付き合ってもらいましょうか?……好きなだけ……ね」


「……でも!……エランさんにだって……赤ちゃんが……リューマさんの……」


そう言いながら絶句するジャニスだったが、エランはまるで意に介する様子もなく、ただ……こう言うだけだった。


「……ま、()()()()()()()()()()()()()()()()……だけなんだけど、ね?」


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「…………なにこれ?」


目の前の窓際に置かれた物体を見るジャニスは、ただ一言だけ、そう一言だけ言うのがやっとだった。


「これ?……見ての通り、(わら)束と鍋の蓋よ?」


エランはそう言うと、ジャニスのふにふにとした犬耳を優しく撫でてから、ニヤニヤ笑いを浮かべつつ、


「……まさかあなた、私があのお馬鹿さん達に木剣でも与えると思ってたの?……言っておくけど、私でも本気出せば、爪楊枝で人を容易く殺せるわよ?ましてやウチの筋肉の塊にそんなもの与えちゃったら……剣風だけでも人間を気絶させられるわよ?」


そう言うと、セイムスにその一組を貸し与えてから、


「いいこと?ただの殺し合いみたいなつまらないこと、誰も強さの証明だなんて思わないものよ?……本当に強い、ってのは、こんな代物を使って遊んでみても、やっぱり強いっ!!って相手に感じさせられる奴のことを言うのよ。判ったかしら?」


と、事も無げに語り、もう片方をリューマへと投げて渡し、


「やるのはこの庭でお願いするわよ?ただし……草木一本でも折ったりしたらアンタ……承知しないわよ?」


と、念押しをする。それを受け入れたリューマはただ一言、


「……【千の闘いと同じ誉れの為に、この闘いの誓いは守る】さ……」


そう言うと、近寄るとエランの唇にそっ、と唇を重ね、庭の真ん中に立つ。



「シム……その……もう、気持ちは落ち着いた?」


ジャニスが訊ねると、セイムスは暫く眼を瞑ってから深く息を吸いそして息を吐き、


「……うん、平気だよ……心配させてゴメン……さっきは……どうかしてた……」


と、言うと手にした藁束と鍋蓋を心細げに交互に見つめてから、


「……にしても、これでどうやって戦えばいいんだろうか……皆目判らないんだけど……?」


と、困り果てたように言いながら、リューマの前に立つ。



藁束を握り締め、鍋蓋を手にしたリューマだったが、その面持ちは全く翳りを見せず、正に《戦鬼》そのものの気迫に満ちていた。


「……オーグのもののふ、【千の戦を越え戻る者】リューマ……この闘いに自らの名誉を賭けよう」


「……『(ドラゴラム)』筆頭守護剣士、【剣聖】……シム。勝利を……ジャニスに。」


一瞬だけ眉を動かしたリューマは、ぐっ、ぐっ、と喉を鳴らしたが、無言のまま、半身を引いて構えるのみだった。


「……あら、随分と仰々しい名乗りね……まぁ、他人の空似、ってことにしておきましょうか?【邪剣】の奥さま?」


ギョッ、として振り向いたジャニスだったが、エランはと言えば、ちろり、と舌を見せただけでそれ以上は何も言わなかった。



最初はハリセンとヘルメットの予定でした(笑)それでは次回もゆっくりと進んで行きます。御感想お待ちしてます!……読者の皆様の「ここが好き!」とか言うご意見等も知りたかったりします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ