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規格外のご近所さん

最後に残ったご近所さんは、異種族最強かもしれません。でも、それでも……仲の良いお隣さんになるべくセイムスとジャニスは挨拶に行きました。



 とんとんとん。扉を叩く(こぶし)の音。


リューマの耳にはその拳が、人を殴るよりも握り締めた武器で相手を倒してきた者の手だ、と聞き取れた。耳に自信があるのではなく、叩かれた扉の音で判るだけの話だが。


「……あなた?お客さん来たみたい……私、まだちょっと具合悪いから……お任せしていいかしら?」


「……ん、判った」


妻のエランにそう言われると彼は立ち上がり、()()()()()()()()姿()()()()()()()()()、玄関に着くと扉に掛かった閂を摘まんで持ち上げる。


「……誰だ?」


言葉少なに問い掛けて、扉を少し開けるとそこには……、



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「ねぇ、シム……この部屋にはどんなヒトが住んでいるの?」


「……ん?……た、確かアラミドさんから聞いたけど、リューマって旦那さんとエランって奥さんが住んでるって話みたいだよ……」


セイムスはジャニスが口にした名前にまだ馴染みが薄く、瞬時に反応出来なかったが、しかし何ともこそばゆい感覚に浸っていた。それが彼女が二人の関係を自然なものに装う為の物だったにせよ、決して悪い心持ちになどならなかった。いや、むしろ……嬉しかったのだが。


ノックして暫くすると、閂を外す音がして、扉が半分程開き、向こう側から誰何する声が響く。その声は低く太く……地鳴りのようだった。



「……誰だ?」


短い単語にも関わらず、まるで深い洞窟から吹き上がる強烈な突風のような……力強さと唸りに充ち溢れた声だった。


「……あ、あの……この住宅に新しく越してきた……セイムスとジャニスと言います……初めまして!!」


「……つ、妻のジャニスです……その、よろし……ッ!?」


ぐいっ、と更に開いた扉から太く逞しい指が扉の上部に掛かると、ミシリ……と分厚い扉の軋む音が鳴り、そしてその間から突き出された巨大な顔……それは正に……鬼の形相もかくや、と言わんばかりの隆々とした彫りの深い険しい顔だったが……それも止むを得ないだろう。


……何故なら、やはりその顔の額には、二本の鋭く尖った角が二本、突き出ていたのだから。


「……あぁ、カミラさんとこのお隣か……はじめまして……俺はリューマ……見て判るだろうが、鬼人種(オーグ)だ……」


ずい、と半身を扉の外に現したリューマはそう自己紹介すると、驚かせて済まないな……まぁ、捕って喰ったりしないから心配するな……俺はベジタリアンなんだ……、と言いながら少しだけ眉を下げる。ぐっ、ぐっ、と喉を鳴らす声を漏らしたのが彼の笑い声だと理解出来たのは、それから暫く後になってからだった。


因みに、セイムスとジャニスがその後の挨拶を始めたのは、きっかり三十秒は掛かったのだけれど……。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「だから貴方は怖がられる自覚が足りないのよ!もぅ……ご免なさいね?ウチのヒトったら本当に……ほら!貴方もちゃんと言わないからいけないんだから!」


「……済まんな、悪かった……俺も自覚はしているつもりなんだが……エランがこんな奴だから、つい平気になっちまってて……」


招かれた居間の真ん中に胡座をかき、ぽりぽりと爪先で頬を掻きながら謝るリューマ、そしてソファーに横になり半身を上げながらプンプンと言わんばかりのエラン、そして来客用の椅子に恐縮しながら座っていたセイムスとジャニスは口々に、


「いや、こちらこそ失礼してしまって……何せ、生まれて初めてオーグさんを見たものだから……その、びっくりしてしまって……申し訳なかったです」


「私も……その、えと……ごめんなさい……」


謝罪の意を露にする二人だったが、目の前に座るリューマの異質な姿には誰でも目を奪われるだろう。腕の太さはジャニスの胴よりもあり、筋肉の塊に等しいし、握り締めた拳はセイムスの頭もすっぽりと入る程。

更に言えば肩幅は二人が肩を組んで並んで、やっと同じ……。立ち上がれば()()()()()()()()()()()である。兎に角大きく、そして筋肉に包まれていた。


当然ながら、妻のエランは同じ鬼人種(オーグ)の女性で、一本の角が額から控え目に付いているのだけど、流石に女性らしくほっそりとした体型ではあった。エランは身重らしく、やや膨らんだお腹を目立たなくするような丈の長い濃紺のワンピースを身に付けていたが、それでも彼等の種族特有の無駄な贅肉の無いしなやかな筋肉に覆われた体型は、独特の艶やかさと力強さを兼ね備えていた。


「お二人ともあまり気にしないでくださいね……リューマはこう見えて悪いヒトじゃないし、何せ今の仕事は荒事から遠く離れたお役所仕事なんですからね♪」


「……えええぇ~っ!?……し、失礼しました……でも、お役所仕事って?」


セイムスは余りの驚きに声を漏らしてしまい、またまた恐縮しながら謝るが、そんな姿をエランは余裕綽々で微笑みながら受け流しつつ、


「フフフ♪……知りたい?このヒト、都市の外周部の緑化対策で庭師やってるのよ?信じられないでしょ?」


「に、庭師……ですか!?」


「……そんなに驚かなくてもよかろうに……参ったな……むぅ」


エランの言葉に驚くセイムス、そしてそっぽを向いて溜め息をつくリューマの姿に、静観していたジャニスは思わずクスリと笑ってしまった。何せ傍らのセイムスよりも巨大な身体のリューマは、一見すると気難しい朴念仁と思いきや、案外話すし照れるし……良いヒト(鬼)にしか見えなかったから……。


「……まぁ、それも仕方ないか……そうだ、御両人……折角だから()()()()()()()()()()()()


リューマはそう言うと、裏庭に続く扉を開けると器用に身を屈めたまま滑らせるように外に出て、向こうから顔を覗かせ二人を手招いていた。

さて、次回もゆっくりと進んで行きます。

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