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揺れる想いと

とある世界のとある大陸に、国家間に名を馳せた一人の【剣聖】が居りました。彼は在籍する国のいざこざを解決する為に、代理戦争の一翼として相手の【邪剣】と戦うことになりました。互いの国の境界線上にある荒れ野原の真ん中で剣を交えた二人でしたが、【剣聖】は相手の【邪剣】がうら若き犬人種(コボルト)だと知り動揺します。おまけに一目見た彼女は頭のてっぺんから尻尾の先まで……彼の心を鷲掴みにするド直球ちゃんでした。



 ……何回目かはとうに忘れた。自らの剣は刃溢れし難い両刃の片手剣。丹念に研ぎ澄ませた刀身だからこそ、乱雑な扱いにも容易に耐え抜く実力を備えている。


相対する《邪剣》はと言えば、十二本の様々な剣(中には肉斬り包丁や鉈まであった)を辺りに撒き散らし、次々に取り替えては俺へと斬りかかる。その度に火花が飛び散り、降り注ぐ雨をものともせず挑み掛かってくる。


手にした両手剣を乱雑に投げ飛ばし、傍らに刺さっていたエペを両手で掴むと腰溜めに構え、自らの全体重を掛けた捻り込み気味の突きを繰り出す。狙い(あやま)たず逸らさずにこちらの喉元へと強襲する一閃は、彼の護手に阻まれて左のこめかみを浅く切り裂きながら通過する。


その瞬間、フワリと漂う香りに意識を逸らされるが、全体をぼんやりと俯瞰視していた彼からはただ急所を外した事実のみが理解でき、真横を通り抜ける相手の素早さに舌を巻きつつも、次の一撃に備えて両足を踏み締めて安定させる。


次の攻撃に備えた彼から軽く数歩後退った《邪剣》は身を翻すと彼に背を向け、後ろ向きに首だけを向けながら動きを止めた。

その様子に警戒感を抱きながら、彼はどんな動きも見逃さずに捉えようと身構えて備えて待ったのだが、相手が単純に身を屈め直進して来たことに虚を衝かれ反応が鈍ってしまった。それだけ相手の素早さがあったのだが、それよりも彼の行動を鈍らせた最大の理由は……、





……たゆん、たゆんと進む度に揺れ動き、眼を捉えて止まない……悩ましげに弾む相手の下着越しのおっぱいだった。





(……いやいや待て待てちょっと待て!!そりゃ確かに俺は男だそれに動けば必ず人間は眼でその動きを追うのが習性だし身体の動きでブラフを狙って相手の虚を衝くのは常道だがしかしぽよんぽよんいやでも実際はでもフリルの付いた白い花柄の布地だよどう見てもふにょんふにょんだし良く揺れるなぁあの顔と香りとぼにょんぽにょんが三つ同時にやって来たら誰だって見るしそれは明らかに作戦に決まってるじゃないか現に彼女もちょっぴり恥ずかしそうだよたゆんたゆんでグッと唇を締めてるから明らかに恥ずかしいんだろうそりゃそうだ若い女性が意を決して下着越しとはいえぷりんぷりんな胸を露にしているんだからでも何と悩ましい胸元そしてぽいんぽいんなボリュームなんださっきまでは全然弾んでなかったのにつまり先程までは胸元のホックをきつく閉めてひた隠しにしてたのか全て計算して開放してふにんふにんと眼を惹き付けて捉えて離さないッ!!)


【邪剣】改めおっぱいじゃないジャニスは羞恥で顔中が火照って熱くなるのを実感しつつ、手堅い勝利を確信していた。最初に実の姉で剣の指南者、そして見届け人のニケに《奥の手》の秘策を伝授された時は、真剣に彼女の正気を疑ったが、


(……ジャニス、あなたは若くて綺麗なんだから、キッチリと女の武器を使えば一対一なら確実に勝てるわ!)


と力強く言い渡されて、そんなものなのかな……と半信半疑ながら下着を選び、ホックの少ない上着を探して裏地を強化して豊満な胸元を仕舞い込み勝負に挑んだのだ。

その結果は一目瞭然、彼女のたわわな胸元が揺れる度に相手は釘付けとなり、こちらが振り上げる鉈に一切の注意を向ける素振りは見受けられなかった。


(……何が剣聖よ、何が大陸随一の剣の達人よ……!ただのスケベじゃないのよ……男なんて、みんな同じようなもんね……)


彼女の細腕に似合わぬ無骨な鉈は、軽い跳躍を用いて振り下ろせば切り株すら両断する戦斧に匹敵する破壊力を秘め、不幸な相手の頭蓋を容易く打ち砕き脳漿を撒き散らすだろう。

しっかりと両手で持ち、握り締めた柄の真ん中を意識しながら跳躍の勢いに乗じて振り上げて、降下する直後を外さずに全体重を載せて振り下ろすだけである。


振り上げた拍子で一瞬だけ持ち上がった胸が宙で自由落下状態になり、真円に近い状態へと移行しながら次第に落下に合わせて視界を塞ぎかけたが、それよりも早く鉈の先端が相手の頭蓋へ到達する軌道を描き、肘を真っ直ぐに伸ばして振り下ろされた鉈が遂に必殺の距離へと到達した瞬間、



強い衝撃を感じた彼女は手に伝わる感触が、普段感じ慣れた鈍器が骨に達して打ち砕く手応えとは無縁な、硬質な物質を叩く鈍い音と共に耳と手へ到達し、ビリビリと痺れ思わず手を離しそうになり慌てて握り直したが、


「……な、なんで受け止められるのよ……()()()()()()()()()()……!!」


負けず嫌いで勝ち気がち、それでいて内向的且つ男性恐怖症のジャニスにとって、目の前の相手はただの切り株に等しく、斬り倒すべき対象に過ぎない。

そしてその切り株同然の動かぬ的の筈が、片手剣と強靭な護手を用いて十字受けで鉈を受け止め、無造作に振り払い彼女の一撃を反らしてしまったのだ。


「……見ていなかった……見ていたよ?初めからずーっと、君だけを……」


「バッ!?バババカなこと言わないで気持ち悪い!!あんた【剣聖】なんでしょっ!?女とか関係なく戦ったらあああ相手を倒すからその……【剣聖】って呼ばれてきたんじゃないの!?」


二人は噛み合わない言い争いをしながらも、戦いを止める気配はジャニスにはなかった。しかしセイムスの方はといえば、防戦に徹して一度も斬りかからずそして、ただ真っ直ぐに彼女の方を見つめるのみだった。



……そして、セイムスはジャニスに一言告げると、剣を鞘に納めて両手を挙げて身動きを止めた。



「……俺は、一目惚れした相手と戦いたくない。勝ちたくない……戦えばきっと勝ち、そして君を殺してしまうから……」


今までの作品と違った物を書いてみたくなりました。ご意見お待ちしてます。

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