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また会う日まで  作者: 七瀬結羽
始まりの音
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4


「おふろ入ったよ〜」

「おー。じゃあ、緑起こしに行ってみようかな」

「私も行く〜〜」


リビングを出て、緑の自室へと向かう。

緑の自室の前で止まり、翼は声をかける。


「緑ー?そろそろ夜ご飯だよー?寝てるー?……返事がないや」

「中に入ってみる??」

「そうだね。ちょっと申し訳ないけど」

「え?一緒に住んでるのにお互いの部屋入らないの?」

「私のところにはよく来るけど…緑の部屋には全く」

「意外。お互い、部屋に入り浸ってるかと思った」

「そんなわけないでしょ。入るよー…」


笑顔で話していた2人だったが、緑の自室に入った途端、顔を引き締める。

なぜなら、部屋は暗く、辺りに満ちているなんとも言えない不穏な気配を2人が感じ取ったからだ。


「緑っ…!!!」


翼は緑を心配し、ベッドに向かう。


しかし、途中で何かに躓き、転ぶ。

そこにいたのは––


「翼、大丈夫!?……って…」

「いった……うん、大丈………緑!?」


そこに転がっていたのは、緑だった。

なぜこんなところに?

ベッドで寝ていたのではないのか?

様々な疑問が思いつくが、そんなことはどうでもよかった。

緑が、生きているのか、いないのか。

それが今1番重要なことなのだから。


「緑!!緑!!!!!返事して!!!」

「………っ、う……」

「緑!?」

「……はっ、はぁっ、うっ……」

「…翼、緑君の体に異変は?」

「……特にないよ。熱とかもない…」

「…普通の人間に起きるような出来事じゃないよね。何か兆候は?」

「目が…赤くなった。けど、それ以外には…」

「目が赤くなるのって…異能を使うとなるんだっけ?」

「ううん…私達異能は特にそういうのは…。緑の場合、目が赤くなると近くに異能者がいることが多いんだ。もちろん、知らない人とかの。…けど、今回は誰もいなくて…疲れてるんだと思ったんだけど…」

「……やっぱり、この子…」

「……つ、ば…さ…」

「緑っ…!!」

「……こわ、い…。……また、消える…。おね、がい…。も、う、やめ…て…」

「緑…?」

「うなされてるね。失ってる記憶を思い出してるのかな」

「…………優乃」

「翼?………っ、もしかして」

「あいつのところに行って来るよ。今、あいつしか頼りにならないから」

「やめて!!!!翼、いつも…あの人のところから帰って来ると、いつも辛そうにしてる!!行かないでよ!!!」

「優乃…それは違うよ。あいつが…正しいから。私は、辛いの。あいつが正しくて、けど、それを認めたくないの。悔しいけど…」

「違うよ…違うって…あの人のところに通い詰めないでよ…いつか、翼が壊れちゃう…」

「そんなことはないよ。あいつ、仮にも私を育てた人だしね。それに…あいつが何を考えてるかなんてこれっぽっちもわからないけど、私がいなくなって喜ぶような人ではないから。……行くね。緑の側にいてあげて」

「………」


緑の自室から自分の自室へと向かい、出かける準備をする。

優乃に言われた、辛そうという言葉を思い出す。

同時に、優乃に言えていない秘密も思い出す。


「辛いに…決まってる。だって…だって…」







連絡を入れた相手のところへ向かうべく、夜8時の街を歩く翼。

街灯が照らす光を浴びて、笑顔を振りまく者とは真反対の道を歩いていく。

そんな翼に声をかける影が、後ろに1つ、いや、2つ。


「?……おい、翼!」


ぼーっとしていた翼はハッとし、後ろを振り向く。


「…シュウ?それに、リクさん?」


翼がシュウ、リクと呼んだ相手はリリーフの仲間である。

シュウはリリーフのリーダーでもあり、翼がなんだかんだでお世話になっている。

リクはシュウの友人で、幼馴染のような関係らしい。


「こーら、翼、それはリリーフ内だけだ。外ではしっかりとした名前で呼べ」

「あ、ごめん…夜守やしゅ

「まぁ、呼びたくなる気持ちはわかるよ。楽だしね」

「いえ、ちゃんと使い分けないとですよね。雪道ゆきみちさん」


リリーフではなぜか(たぶんリーダーの趣味)リリーフ内での名前が存在する。しかし、外で会うときはちゃんとした名前を言わなければならないので、ちょっと面倒である。

夜守、と呼ばれたのは先程シュウと呼ばれていた男であり、骸外夜守がいとやしゅと言う。リクは雪道清ゆきみちせいと言う名前であり、どちらも翼より年上である。


「夜守はこんな時間にどうしたの?今日はリリーフにいないんじゃ?」

「はい。遊びですよ、ただの。付き合わされる身にもなってほしいです。今日は別件があったのに…」

「付き合わされたんですか?」

「リーダー権限で」

「リーダー権限で…」

「なんだよ、そんな目で見るなよ!良いだろ、別に。断れるような件だったんだろうし…」

「大切な彼女とのデートだったんだけどな。お前からの命令って言ったら可哀想にって言われたよ」

「あーあー聞こえねぇな!!!!!」

「ふふ…」

「あ、ごめんね、翼さん。翼さんこそこんな時間にどうしたんです?家、今向かってる方と逆ですよね?」

「あー…えっと、ちょっとしたお出かけですよ」

「こんな時間にか?店は閉まってるぞ?」

「うっ…そう、です、ね…」


翼は言葉を濁らせる。

と、言うのも今から向かうところは優乃だけでなく、周りの人間からやめた方が良いと言われているからだ。

それでも、翼には向かわなければならないのだが。


「おい…まさか、あの人のところに行くのか?」

「…龍さんのところですか?」

「……はぁ、バレたししょうがないか。異能使うことも考えたんだけど」

「何の用だ。くだらない用なら止めるぞ」

「くだらなくなんてない。そもそも、あいつのところに行くのは私の勝手」

「翼さん、あの人は危険すぎます。何を考えてるかわからない上に、あなたを妙に気に入っている。リリーフの中では危険人物視されてるんですよ」

「知ってます。私だって、馬鹿じゃないからあいつがまともだなんて思ってません。けど、今から行く用事はあなた達には解決できない問題で、あいつには解決できる問題なんです。行くしかないんです」

「用事を教えろ。でないと後をつけるぞ」

「つけたところであいつにバレて消されるよ?」

「教えろ」

「……緑」

「緑君ですか…?」

「緑の様子が変でね。不可思議なことが起きてるからあいつに聞きに行こうと思って」

「記憶を取り戻しそうなのか?」

「さぁ。知らない。……もう良いでしょ?早く行かせて。緑の事が心配なの」

「………」

「お気をつけて…」

「失礼します」


翼は踵を返し、歩いて行く。

止められることはわかっていた。

けれど、翼は止められるたびに悲しくなる。

あいつは、確かに良いやつとは言えない。

けれど、会ったこともない奴らが、どうしてそんな風に批判できるのか。


「私は…あいつより、あなた達の方が危険だと思うよ…」


数年前の出来事からあまり人を信じられない翼は、そんな言葉を呟いた。

しかし、その声はあまりにも小さく、夜の街の喧騒に掻き消された。



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