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「ふぅ。ま、今できることはこれくらいだよね」
少女−−翼は一心不乱にキーボードを叩き続け、ようやく一息ついたと言わんばかりの伸びをした。
「やることはたくさん残ってるし、時間もそんなにないけど…計画的に進めていけばなんとかなるね。…けど、あんまり計画的に進めるのもよくないか。余裕持たせるためにも早めに行動…ああいや、けど終わりは一緒にしないといけないから…アドリブでいくしかないかなぁ…」
「……これ、何?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!い、いきなり現れないで!!?ほんとびっくりするから!!!!」
「ごめ、ん?」
「疑問系じゃなくて普通に謝ってくれると嬉しいんだけど…」
怖いもの(と言うよりもいきなり現れるもの)が苦手な翼を驚かせたのは、同居人の緑。
推定年齢7歳。10歳ではない。確実に。
なぜ推定なのかというと、本人が記憶喪失だからなのだが…あまり翼は気にしていない。
「何、まと、め、てた、の?」
「今までのまとめと、これからどうするか。まぁ具体的に言えばエクストラの場所を探すことだけどね。あとは、もう少し材料が揃えばやりたいこともあるかな」
「……エクストラ、みつ、からないね」
「そんな簡単に見つかってたら今頃リリーフは存在しないよ」
「…けど、足、跡も。ない」
「まぁね。ここまでして追いかけても見つからないって、存在しないんじゃないかとも思うよ。そんなこと言ったら白も見つからないし存在しないんじゃないかって思っちゃうけど」
「……きっと、いる、よ」
「ん?ああ、大丈夫だよ。私は信じてるから。絶対見つけてやるってね」
エクストラ。それは、端的に言えば異世界である。
この世界の常識が通じるのかどうかは知らないが、とりあえず異世界である。
どのような異世界かというと−−
「あれ?緑、何か目が赤くなってない?もしかして、近くに異能者がいるの?」
「え…?あれ…?」
「…………そんな気配ないけど…。もしかして疲れてる?」
「そう、かも…。それよ、り、無理して、異能、使わない…で…。疲れ、るでしょ?そ、れ」
「そんなに疲れないよ。ここ一帯に仕掛けてあるだけだし。それより、疲れてるなら少し休みな。まだ家出なくていい時間だし。無理して今日行かなきゃいけない訳ではないし」
「ん…、そう、す、る…」
今、翼が使ったような異能がたくさんある世界である。
と、言ってもわからないかもしれない。
わからなくても問題ない。
なぜなら、異能を使ってる当事者たちですらエクストラがなんたるかを詳しく理解してないのだから。
異能持ちは生まれた時から異能を持っていた訳ではない。
突如、能力が現れたのだ。
原因不明。出現条件不明。対象不明。
何もわからないのだ。ただ、なぜか、突然異能が現れる。
現れる異能は様々であり、すごくどうでもいい異能もあれば、現れた瞬間周りの人間を巻き込む異能もある。
そして、そんな異能持ちを集めて少しでも異能の制御をできるようにしよう、と言う考えのもと作られたのがリリーフである。
リリーフは異能制御の手伝いをすることを主な活動としているが実際のところは違い、自分たちに異能を与えた原因をぶっ飛ばそう的な目的がある。
そして−−翼は詳しくは知らない。あまり知る気もない−−どうやってか、自分たちに異能を与えたのはエクストラらしいと言うことを突き詰めて、今はエクストラへ自分たちが行く方法を探している。
ここで思い出して欲しいのは、エクストラは異世界であるということ。
なんとか頑張って探しているものの、誰1人として見つけられたことはない。実在するかどうかすら怪しいレベルで。
けれど、リリーフのリーダーは「絶対ある」という確信があるらしいので、みんなその言葉を信じてエクストラへの入り口を探している。
しかし、リリーフにいるみんなはもうほとんど無いと思っている。
−−だからこそ、リリーフから抜け新たなグループに入った者たちがいるのだが…。
「エクストラに関しては引き続き調査。白も…かな。昔の文献漁ったほうがいいかも。リリーフの地下に確か資料あったよね。あれ読めば少しは今ある異能もわかるし。…あーけど、緑がいないとかなり厳しいや。……緑に何かあったらどうすればいいのかな。…リーダーは使えないからダメ。副リーダーに至ってはもっとダメ。あと何かできそうなのは…あいつか。けど…あいつに頼むのは嫌。すごく嫌。絶対倍にして返せって言ってきそう。けど、1番頼りにはなる…んー…いや、けど、さすがにあいつをこんなことで使うのもなんか…」
謎のプライド(?)が邪魔して葛藤しているようである。
と、そこへ。
−−ピンポーン…−−
「ん?はいー…」
自室から出て、玄関に向かいドアを開けるとそこには−−
「やっほー久しぶり、翼。元気してたー?色々とお土産あるよ〜、物理的にも〜情報的にも〜!」
「…!!優乃!!」
翼がリリーフに入った時、同じく入った人物。つまり同期。
星優乃がそこに笑顔を咲かせて立っていた。