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また会う日まで  作者: 七瀬結羽
始まりの音
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1


神様はいるのかな。

少女は、少し前に考えたことがある。

なぜそんなことを考えたのかはわからない。

子供心に何か気になったことでもあったのだろう。


とにかく、神様がいるかいないか。

その答えを、少女は知りたがっていた。


少女は考えた。


もし、神様がいないとしたら。

世界は、とても身勝手になっている気がする。


何人と、数えるのも面倒な人の数が自由に動いていく世界。

決められた掟さえ破らなければ好き勝手に動いていい世界。


そんな世界に、いわば『管理者』のような存在がいないと、掟なんて破り放題・好きなことしかやらず、他のことを何も考えなくなる気がする。


少女はそう思った。


けど、この世界は、そこまでひどくないかもしれないと思う。

子供からしてみればみんな掟を守って生活している。


じゃあ、この世界に神様はいるんだ。


そう思った。


けれど、それは喜びとならなかった。


少女は、神様がいると認識した次の瞬間。


怒り・悲しみ・疑問…口にできない何かが、心の中で溢れ出た。


少女は叫んだ。


誰に届く声でもなく。


無力な叫びとわかっても。


叫ばずにはいられなかった。


「神様がいるなら……なんで、なんで、人が人を殺せるようにしたっ!?なんで、幸せそうな顔の人がいないっ!?」


「…なんで、なんで。…あの子は、助からないの?」










「ーーーっ!!!!!」


目が覚めた少女は困惑していたが、しばらくきて落ち着きを取り戻した。


「……はぁっ、はぁっ。久々にみた…。…あの子の、夢。はあっ……」


まだ少し息は乱れているものの、特に体調が悪いという様子ではないようだ。


と、そこへ。


「…翼?…だいじょ、う、ぶ?」

「緑…。ごめん、大丈夫。心配かけた?」


翼、と呼ばれた少女は入ってきた少年、緑に対して微笑む。


「ん…苦しそ、う。だったから。しん、ぱいし、た。起き、て、こないし」


喋るということに対して慣れていないかのように言葉を区切って喋る緑。

翼はため息をつく。


−−緑の寝ている間に失っている記憶が戻ればって思ったけど、無理そうね。変な期待はしないほうがいいかしら。


そう、緑は記憶喪失であった。

数年前街を彷徨っていた緑と偶然、翼が出会ったのだが……。


−−見た目的には10歳すらいってないんだよね。ほんと、何拾っちゃったかなぁ…。


「翼?きい、てる?」

「あっ、うん、聞いてる、よ。私着替えたりしたらそっち行くから。もう朝食食べた?」

「ん…。毎朝、決まった、時間、に、食べる。やくそ、く。した、から。翼と」

「そうだったね…。じゃあ、何か好きなことしてていいよ。あと2時間はまだ家出ないから。私もやりたいこと色々あるし。緑の調べたいこと、インターネットで調べていいよ」

「!……う、ん!」


普段あまり見れる事がない緑の笑顔を見て、翼は安心する。

もう緑と出会ってから何年も経つのに、過去何回も緑を不安にさせたことのある翼は、自分のせいで笑顔を浮かべてないんじゃないかと密かに心配していた。


−−一応、立場的には私の方がお姉さんなんだけどね。全然安心させられたない気がする。


そんなことを考えながらさすがに寝巻きから着替えようと思い、ようやくベッドから抜け出す。

その時、ふと、窓の外を見た。


外は、桜が咲き始めていた。

ちらほらと、子供たちが遊んでいる。

その様子を、眺めながら。


「そっか…。桜が咲いてるから、あんなことが夢に出てきちゃったんだ…」


あまり嬉しくはないように、呟いた。


翼にとって桜が綺麗で、美しく、見ていて楽しいものだったのはもう何年も前の話。

今では、できることならあまり目に入れたくない風景である。


「……やーめ!!こんなこと考えたって、過去は変わらないの。そう、変わらない」


少し歌になりかけた自分の気持ちを切り替えて、さっさと自分の部屋の隅にあるクローゼットに向かい、適当な服に着替える。

軽く髪型を整え、リビングに向かう。


自分の部屋の扉の前にある、日記に視線を落とす。

何気なく、めくっていく。


昔の自分の日記は、希望に溢れていた。

それが今では、ただの現実と化していた。

希望も絶望もなく、その日あったことをただ書いていく…。

日記の使い方としては合っているのだろうが、昔と比べたら極端になりすぎだろうと自分自身に苦笑する。


「『神様はいるのかな。きっと、いる。じゃなきゃ、あの子が救われない』…かぁ。昔の自分がすごいわ。あの子が救われる可能性…信じてたもんね…」


外を見ると、まだ先ほどの子供達が遊んでいる。楽しそうに、笑っている。


ここだけ見れば、たしかに神様がいるとも思える。


けれど、世界に起こったあの絶望は。不幸は。果たして神様が意図して引き起こしたものなのだろうか。


もし、神様が意図して引き起こしたとするならば。神様というのは性格が最悪で、他者のことなんて考えないんだろう。


そんなことを考える翼は、久々にある人物の名を口にした。

もう何年も会っていない、会うことのできない…最愛の人物の名を。


「あなたがいない世界って…こんなにも、退屈で、つまらないんだね…はく…」














「翼、おそ、い。何して、た、の」


しばらくしてからリビングに行くと、少し怒った顔をしている緑に迎えられた。


「えっあっうん?ちょ、ちょっと考え事…」

「…朝、ご、はん。もう、でき、て、て。さめ…てる」

「ええっ!?ご、ごめん!!今すぐ食べるからー!!」


自分より年下であるこの少年に心配をかけているようでは、自分もまだまだだ。

そんなことを思うと、翼は、先ほどまで考えていた事が馬鹿らしくなって……。

緑にインターネットの使い方を教えながら、朝食を食べた。

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