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#異世界のカードゲーマー というお題から→王女騎士。馬丁。無限収集。

作者: 茶屋ノ壽

 白い馬にブラシをかけます。最初は細くて硬めのブラシで体毛の下に隠れている汚れを、浮きだたせます。そのあとに、ブラシを柔らかめの毛ものに変えて、汚れを払い落としていきます。


 乗り手であるうちの姫様は、いつもながら綺麗に丁寧に乗っておられるので、馬へのストレスも少ないです、それでも、走った後の手入れは気持ちよさそうでございます。


 この白馬は、軍馬の部類でありまして、平均的なものよりは少々、体格がいいものの、全体として均整が取れていて、美しい肉付きをしておられます。


 まだ若く、それでいて気性は穏やかで、乗りやすいのです。けれども、乗り手の意思を良く汲んでくれるし、鉄火場へ乗り込む勇気も併せ持っています。つまるところ、やる時はやる姉御肌の女性といった感じでありましょうか。


 ここ2年ばかり、姫様の馬として専属となっておられます。


 姫様の国は小さな国でございます。西と東とに大国で挟まれた、バランス取りに注意が必要な地勢でございます。

 当代の王様は、姫様の父上さまで、これまで無難に、優れた国際感覚を発揮し、それに加え、目立たないけれども地味に内政を整えたりしており、優秀な統治者でございました。


 その娘の一人である姫さまは、王家発足時の武勇あふれる初代女王の血を遺憾なく発揮されました、武人でございます。

 現在、お国においては、初代さまの武勇伝から、伝統的に女性の強さを認める風潮がありましたので、違和感なく、国の騎士団を纏める立場に収まっておられます。


 私は、その騎士団が騎乗されます馬のお世話をさせていただいているものです。馬の召使いと呼ばれる立場でございます、自分で言うのもなんでございますが、結構な尊敬の念を抱かれる、重要な地位なのですよ。


 子供の頃から、師匠のもとで技術を学びまして、15年ほどでございましょうか。努力と、幾らかの才能のおかげで、今では、姫であり騎士団長の愛馬のお世話を、専属で担当させて頂くほどになりました。


 ところで、私は、幼少の頃より、物覚えが良いとか、物事に動じないとか、如才ない子供とか評判もなかなかのものでございました。

 その結果、若いながらも腕の良い、馬丁、つまりは現代日本で言いますと厩務員です、という評判を得てございます。


 このような性質にはちょっとした秘密がございまして、実は私、前世の記憶があるのです。こことは違う日本という国で、50年ばかり生きていた記憶でございます。

 文化とか、地勢とかを鑑みますと、今いる世界とは別の世界、に生きていたようでございます。


 日本の世界に生きていた記憶というものを、こちらの世界で思い出したのは、3歳くらいでありましょうか。つまりは、子供でありながら50年分を生きた人間のノウハウをいきなり手に入れた、いわばスーパー幼児となったわけでありまして。


 当然、要領とか、前世での教育内容やら、知識やらを日々の生活に活かしまして、この地位を確保したわけでございます。そして厩務員として頭角を現したのには、大きな動機があったのです。


 私は、甲冑を身に付けている美しい女性が好きなのです。

 これは、日本に生きていた時の趣味でしたし、また、生きる上での指針でありました。


 思えば、この世界で初めて前世の記憶を思い出したのも、建国の女王、姫騎士を描いた、絵姿を目にした衝撃でありました。つまりは筋金入りであったわけなのです。

 前世でやっていたトレーディングカードゲームでは、好んで騎士姿の女性が描かれていたカードを、使用していましたし、収集していたものでありました。


 私には、前世の記憶とは別に、ちょっとした不思議な特技も所持していましたが、幸いいままでそれを使わなければならない事態には追い込まれることもなく、傾倒しております、騎士の姫さまの愛馬を手入れするだけの平和で満ち足りた日々が続いていました。



 その幸せな日常は、徐々にきな臭いものへと変化していきました。

 東の帝国と西の皇国、よくある緊張感のある外交というものでございまして、ささいな言いがかりめいた非難の応酬から、本格的な武力衝突へと、お決まりの流れが行われるにあたって、その狭間にある我が小国が、戦火に巻き込まれることになったわけでございます。


 やり手の王による、外交努力では、戦端の回避にはつながりませんでした。

 そもそもは、帝国側は、緒戦における勢いとつけるとかいうような、どうでもよろしいような理由で攻め込んでくるよでありまして。


 皇国側に関係性が少々傾いていたのも災いいたしました。

 とにもかくにも、いろいろ不幸な出来事が重なりまして、戦場で相対することとなったわけでございます。


 敵は帝国2万の兵力。

 中核をなすのは、黒騎士と呼ばれる、精鋭部隊が1,000。


 立ち向かう我らが国は、姫さまの騎士団50騎をを中核にした総勢500を超えるかどうかの寡兵でございます。


 前哨戦とばかりに踏み込み潰す勢いで、黒い姿で統一された帝国兵が迫ってまいります。言葉の通り、この小国はただの通過点、路傍の石であるのでありましょう。


 とっくに我らが姫様を中心にする騎士団は、この一戦で討ち死にする所存でありました。かなり好戦的な乙女たちでございましたので、どれだけ相手を道連れに、天上へと駆けあがろうか、などと盛り上がっていたようでございます。


 冗談ではございません、勝手にあの世に行かれてしまわれては、私が、見目麗しい甲冑姿の姫様たちを愛でられないではありませんか!


 というわけで私は、ちょっとした特技を駆使してこの戦争に介入することにしたのでありました。



 戦場に、新たな軍が現れます。決戦となったなだらかな丘陵地帯、にわかに立ち込めた霧を切り裂くように、馬の嘶きとともに、騎士の軍勢が、大河の流れのような軍勢が、突如として現れ、帝国軍に突入、そして蹂躙して行ったのでございます。


 その姿は、建国伝説に語られている、姫騎士のごとく。それと装いを同じくした騎馬の軍団、数は、丘陵地帯を埋めつくさんばかり、概算で10万の女騎士が、一斉果敢に、帝国軍へと攻めのぼったわけでございます。


 鎧袖一触とはこのことでありましたか。

 帝国軍はそのほとんどを討ち滅ぼされるという、未曾有の敗退に陥り、這々の態で国へと逃げ戻ったのでありました。


 のちに、”建国の聖女騎士軍が奇跡”とか呼ばれるようになった戦いでございました。

 その原因やらは、未だ判明しておりませんが故の、奇跡呼ばわりでございます。


 それにつけても、奇跡の聖女騎士軍とともに、帝国へと切り込んだ姫様の笑顔やら、人馬一体となって、躍動するからだとか、とても美しいものでございました。



 私は、小さな国の”馬の召使い”でございます。


 ちょっとした特技は、前世の日本で暮らしていた時に集めた、女性の聖騎士が書かれたゲームのカードを、その設定された強さそのまま、具現化できるというものでございます。


 そして、これは、ちょっとした自慢ではございます。

 私は、綺麗な女性の甲冑姿が大好きでありました。前世でもそれは同じでございましたので、結果として、とある特定のカードを集め続けました。俗に言う無限収集というものでございますね。


 その、トレーディングカードゲームは、世界中に発売されていましたので、当然世界中からその、一種類のカード、女聖騎士の姿が描かれたそれを、コツコツ集め続けまして、その結果、世の中に流通されているそのカードの、少なく見積もっても半数以上は私の手の元に来てくださったことになりました。その枚数は軽く10万は超えていたのでございます。


 つまりはそういうことでございます。


 私はこれからも、ひっそりと、この国の姫様と、女騎士隊を愛で続けるという、趣味に生きていくつもりでございます。


 ちょっとした自慢話にお付き合いいただき、ありがとうございました。


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