プロローグ2
落ち着かない。
それがまず第一に感じたことだった。
目の前に広がるのはただただ白い空間。
明るいのに眩しくないという不思議な感覚。
この空間、どれだけ広いのだろうか。
どこにも部屋の境目がなく、感覚が狂う。
6畳ほどの空間かもしれないし、壁なんてないのかもしれない。
「ごめんね」
壁を探そうと躍起になっていると唐突に声をかけられた。
突然のことに思わず肩を震わせる。
今まで聞いたどんな声よりも美しく、すっと心へと染み渡るような声。
男の声ともとれるし、女ともとれる不思議な声。
誰の声かを確かめようと周りを見回すが、しかし誰の姿もなかった。
「名前を教えてくれないかな」
「…結城、蓮」
怪しむ気持ちも大きかったが、特に応えない理由も見つからずに名乗る。
「レン君か、ありがとう。私はアスレル」
「あの、さっきの謝罪って、どうして」
「それは、私の事情に巻き込んでしまったから。本当にごめん」
「察してるかもしれないけど――君は、死んだ」
「…なら、今いるのは天国なのかな」
「私が言うのもなんだけど…もっと驚いたりとか、怒ったりとかないの?」
「遅かれ早かれいつかはこうなると思ってたから。それに死んじゃったものはどうしようもないし…あーでも、死因は少し気になるかな」
「死因か。隕石が君の上に落ちたんだ」
「え、じゃあ地球は――」
「えと、その…隕石自体は小石サイズのもので…」
…自分にしか被害が出ないレベルの隕石にあたって死ぬって。
確か7万5千分の1とかの確立だぞ、それ。
ここまで来るともう、運が悪いのか良いのかわからない。
「まあここが死後の世界っていうのはわかったよ」
「うーん、厳密に言えば死後の世界ってわけでもないんだ」
わけがわからなくなった俺を責められる人はおそらく誰もいないだろう。
「ここは私が作った$B?@$N@$3& (B――ああ、ダメか」
「今なんて?」
「ごめん、君たちの世界の言葉だと表すことができないみたいで…なんて言えばいいのかな。君が今までいた世界とは違う、別の世界だと思ってくれればいいよ」
なんてオカルトチックな。
「と、ごめん。もうあんまり時間が残されてないみたいだ。信じられないかもしれないけど、今から言うことをよく聞いて」
先程よりも切羽詰った様子の語り口に、1つ頷くと耳を傾ける。
「これから私は君を別の世界へと送る。そこは君がいた世界と比べると完全にあたる上位の世界で、想像もつかないことがたくさんあると思う」
「その世界では君のいた世界よりも命が軽い。とにかく生き抜いて」
「本当は私の世界よりもさらに上位の世界に来るはずだったんだけど…レン君、絶対に忘れないで。今から君を送る世界で暮らす存在は、君からしてみればどれも異常なほどに強いと思う。というか、君のいる世界の生物が信じられないほど極端に弱いんだけど」
「まったく、レン君の世界の$B>e0L@$3&(Bgは何をしてるんだ…」
「それと、どうやら君は本当に運が悪いみたいだね。できればなんとかしてあげたいんだけど…」
「と、時間がなかったんだ。早速今から$BE>@8(Bを始める」
「それじゃあ、幸運を。本当にごめんね」
私の世界をよろしく――
そんな言葉を最後に、俺の意識は途絶えた。