6thスティント
日程の関係上、テストは多くて週に一回が限度だ。それも、テレメトリーシステム(遠隔測定測地の事)を使ったテストは、美山さんのチームは他のレースにも参戦しているからその合間を縫ってであるので更に少ない。ただ走るだけならいいのだが試験結果が詳細に取得できないし、場所を移動しなければいけないので時間の関係上休日にしか走らせることが出来ない。
じゃあ平日の部活はどうするのかというと、テストで出た結果を分析し、改良するのである。また、予備部品の製作や手配もこの時に行う。
「皆集まれー」
珍しく中嶋先生に集合をかけられた。皆疑問に思っているようだが俺と部長は何となく想像ができていた。恐らくは——―親が関係するあれ——―だろう。
「許可下りたから来週と再来週の土曜はもう一回ベンチ使いに行くぞー」
実はもう一度使わせてもらえないかと頼んでおいたのだ。表からは学校が、裏からは俺の親経由で。つまりコネ。人脈とはやはり大事である。
「今度は何するの? それによって今の内にマッピングデーター変えるけど。丁度チームからベンチ用の各コースデーター貰ったばっかりだしベンチはそれ使う?」
野水がこっちを向いて問いかけてきた。いや、後で詳細詰めないといけないけど今は先生の話聞こうよ……
「野水はせっかちだなー。まあ兎に角最後まで話するぞ。八月中旬に三重の伊勢湾サーキットである——―伊勢1,000kmレース―—に正式にスポット参戦のエントリー出来た。……とは言ってもいきなり本番じゃなく予備予選からだけどな」
そりゃそうだろう。でも運営の人達も驚いただろうな、何せ学生の自作マシンでエントリーしたんだから。
「そこで耐久テストをしたいと森から提案があった。データーはチームの方々から貰っているという事なんで、それを活用しようと思う。と、云う事だ野水」
「わかりました。じゃあ伊勢湾のデーター持って行きます」
「ああ、頼む。他に質問はあるか?」
全く、野水様々だ。
「……でもそれだと本体のテストが出来ません」
「それなら大丈夫です。日曜は駐車場をいつでも使えるようにしてもらえるように頼んでいますから」
要するに土曜はエンジン単体の、日曜はマシンのテストということだ。特にエンジンから駆動系はベンチマシンでコースを再現できるというのが大きい。実際に走行しなくてもある程度実コースのデーターが取れる。マシンだとこうはいかないからな。それに市販品を何割か使っている車体よりほぼ完全手造りのエンジンテストを優先したいってのもある。
「じゃあやるか野水」
「サーキット走るのを想定してるんだよね? ピット回数はどうするの? これは作戦もあるから僕達だけじゃ無理だよね」
確かに
「光、湾千って何回ピット入った方がいい?」
「え? どうだろう……実際に走ってないからタイムもわからないしなぁ」
まあそりゃそうか
「私は詳しくありませんが、一レースで何回ピットに入るものなんですか? それを基準に何種類か用意しておくというのはどうでしょう?」
「そうだな、おれもそれに賛成だ。まあこっちは作戦とか解らないから言われた事やるだけどさ」
「う〜ん…4から6かな? 稀に3回とかもあるけどそれは燃料もタイヤも思いっきり節約してだと思う」
燃費はこっちでどうにかなるとして――そもそもそれも含めてテストするんだが――タイヤはマシンとかドライバーの相性もあるし、何より今回はメーカーと特殊契約だからマシンにタイヤを合わせる事は出来ないんだよな。寧ろこっちがタイヤに合わせないといけない。
「……ということは大まかに分けて燃費重視とタイム重視の二種類で今回はいく?」
「しかないよね。じゃあ僕はリッター2kmを軸に前後に何種類か作ってみる」
そこまで話していて気付いた、今回は——長時間のサーキット走行の想定——であって——レースの想定——じゃないんだよな。って事はベンチだからピットは考えなくてもあまり問題ないだろ!
「なあ、ここまで話して何だけど、擬似走行試験であってレースのシミュレーションじゃないからピット回数って必要か?」
「……確かに」
「おれ全く何も考えてなかったぜ!」
おい
「珍しいわね、あんたがこんな事やらかすの」
「だ、誰にでも失敗はありますよ!」
「今まで僕が突っ込み役だったのに……」
「ま、まあ今後に生かそう!」
一応突っ込み役って自覚あったんだ。
土曜日二回目のベンチテストだ。そして相変わらずの運転、もう嫌だ……。え? やっぱり速度知りたい? キーボードだと!をを位だと言っておこう。
「今日は前回よりも長丁場になりますが、よろしく御願いします」
部長が会社の人達に挨拶する。
「いえいえこちらこそ。どうします? 一定速でテストしますか?」
「いえ、サーキットを想定します。そのデーターも僕が持ってきました」
そう言って野水がメモリーカードを取り出す。
「成る程、では少し御借りします」
機械を起動し、カード内の情報を入力する。もちろんウイルス検査をやった上で。
「伊勢湾ですか、八月のレースを想定して?」
「はい、エントリーも済ませました。チームの方にも私を通じて話してあります」
「そうですか」
「いけますよー」
準備が出来たみたいだ。これから六時間連続でテスト運転だ。こんなに長い連続運転は初めてだから緊張するなー。
「何か上まで回すと振動が大きくなってきたよ」
三時間経過、それまで順調だったのだが、だんだん調子が悪くなってきた。
「ちょっと回転数の上限低くしてみる?」
お袋からの提案に頷く。
「じゃあちょっと落としますね」
ベンチ担当の人が言いつつ変速のタイミングを早めにして行く。
「これなら保ちそう」
何とか最後まで保った。でも全開じゃあないんだよな……。いくら燃費稼ぐために本戦では皆上まで回さないとはいっても、あくまで――回さない――であって――回せない――じゃないからなぁ。そうなると、当然使える武器が少ないこっちが不利だ。勝てるとは思ってないけど、やっぱ少しでも上にはいきたいなしな。……その前に完走出来るか、そもそも予選通るかが問題なんだけど。
「まあ兎に角、帰ってから考えるようぜ」
本田が俺の肩を叩きながらそう言ってきた。ついでに帰り変わってくれないかなー
「さて、何とか保ったけど、正直どうする? 今でこれだと本番が心配だよ? 後、耐久性ばっかり意識してたから気付かなかったけど、今見直してみると結構燃料消費激しいみたいだよ?」
野水がPCを皆に見せながら説明する。
「上まで回したからじゃないの?」
光が肘をつきながら答えるも
「回してないときでも2.2までしか伸びないみたいだよ。マッピング上は2.5狙ってたんだけど」
マジかよ……。
「……ピストンの形って何種類造ったの?」
「森からは一種類しか頼まれなかったぞ」
うん、元は家にあった資料の中からこのシャシーに合った物を流用したからな。燃焼室は弄らなかったから本田には一種しか頼まなかった。しかしマッピングや補機含め、変えた箇所もあるのだから最適な形状も変わってくるのは当然といえば当然なのかな?
「もう一回資料漁りかな」
「まだそこが原因だとはわかりませんよ」
まあ確かに。
結局、上まで使うのは予選のみとなった。信頼性低くてレブ縛りとかどっかの航空機エンジンかよ……。まああれは初期不良改善したら全開で使ってたけど、こっちはどうなるやら。しかも頼みの燃費は結構悪いし……。って流用したとはいえ自分で設計したんだけどな
翌日曜日は先週と同じく駐車場で走行試験だ。オーバーホールしてない為、最後しか全開にしなかった。うーん、耐久性が無いとデーター取りでも弊害が出てくるな。でも唯でさえ重いのに、頑丈にしたらもっと重くなる。あぁ……どうしよう?
技術部分の風呂敷広げすぎました。あぁ……どうしよう?