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3rdスティント

「昨日やっと免許取ったんだ! 丁度来週国内Bの講習あるから一気に取っちゃうよ国内Aも来月あるし国際Cはまだ駄目だけどすぐに――」

週が明けて月曜日。教室に入るや否や光からマシンガントークを食らっていた。尚、普通車の免許は十六歳から取れることになっている。

「まあ落ち着け、句点無いからわかりにくい。――そんなに早く取れるもんなのか?」

「まあ国内Bって講習だけだから。もうすぐに国内A取らないと時間無いしね。本当は国際Cも欲しいけどSP2クラスは一人だけアマチュアオーケーだし」

ラリーみたいに一台づつ走ってタイムを競う種目なら国内Bでいいんだが、レースのように何台も一緒に走る場合は国内Aから上が必要になってくる。jRCCはある程度経験がないと取得できない国際Cが本来必要なのだが、クラスによっては国内Aのアマチュアでも参加可能となっている。

「……ん? ってことは国際C持てないのにSP1に出るとか言ってたのか?」

「な、何の事でしょう~♪」

こいつ何も考えてなかったな。てか俺も気付よ……

「皆席に着けよー」

先生が入ってきて今日が――いや、高校入学以来一番楽しみな一週間が始まった。


「ここを締めれば……出来た!」

最後のボルトを締めエンジンが完成した。尤も、スターターモーターとバッテリーは暫定で後程換装するのだが。正式なテスト日まで待ちきれず、部室で動かしてみることにした。

「おれが危険物の免許持ってて良かったな。これ無かったら何も出来なかったぞ。じゃあ燃料入れるぞー」

早速始動テストに入り、火を入れる。俺初めてだ、スタートボタン押すの。

「おぉ! かかったかかった! 後でおれにもやらせてくれ!」

「……やった」

「本当に動くんですね!」

「動画撮らなくちゃ!」

「やったね!」

皆が注目の中無事エンジンが掛かった。しかしこれだけで終わりではない。専用のベンチ(エンジン単体で動かしてテストする装置。エンジン用の他にも色々な種類がある)でデーターを取るのだが、当然そんな物は学校には無いのでどこかで借りる必要がある。これが終わって初めて車体に積めるのだ。

とは言ってもやはり興奮してしまう。つい「よし!」とガッツポーズをしてしまった。

それでも一応表面上は興奮を抑えつつ

「じゃあアポは取ってあるから予定通り土曜に行こう」

と、今後の予定を皆に話す。実はお袋に相談して、土曜に会社のベンチを使わせて貰えることになっていた。もちろんお袋の独断ではなく、職業体験の一種ということで部で申請し、許可が出たらしい。では美山さんの所属するチームは? という疑問が沸くだろうが、プライベーターの為チームにもさすがに無く、その場合はメーカーのを借りているということだった。


次の日にはカウルも全て出来上がり、頼んであった部品も週末に届くそうだ。後は届き次第組み立てるだけだ。各種部品の受け入れテストをしないといけないが、それはシェイクダウンと同時にしよう。それに、自主制作部分もまだ予備部品を造る必要があるし、それが出来るのは今の内だけだ。

「組み立てが終わったら造ってる暇なんてねーよな。今の内に造り置きしておくぞ」

「造り置きって料理かよ……」

「まあニュアンスは合ってますよね」


金曜日、昼休みに放送で呼び出された。遂に注文品が届いたようだ。

「予備のスプリング(発条(ばね))にスタビライザー(安定装置。走行中左右の過度な傾きを抑制させる装置)、こっちはミッション(変速機)とデフレンシャルギア(日本語で差動装置。車が曲がる際左右の車輪で回転差が生まれるがそれを調整する装置。これがないと前に進もうとしてしまい旋回性能が落ちる。尚、あくまで駆動輪用の装置である)、電装系部品……。全部注文通りです」

皆で確認する。いよいよだ、これを組み立てればいよいよ完成する!


放課後、HRが終わった瞬間ダッシュで教室を出て部室へ行く。既に同じクラスの俺達三人以外着ていた。

「では! 今日の目標! 下校時刻を過ぎても! 誰がなんと言っても! 単体でテストするエンジン以外、今日の内に全て組み立てます!!!」

いつもの部長からは考えられない、気合いの入った号令を出し

「「「おーっ!!!!!」」」

野球部より大きい声が学校中に木霊した。


「……本田君はこれ持ってて、森君はここ締めて」

由良さんの指示で皆が動く。比較的スムーズに進んでいると思う。ついでに俺は今日はエンジンじゃなくこっちの手伝いだ。それに駆動系は俺の分担だし。あ、でもミッションは明日一緒にテストだからそのままにしておかなくては。

「おぉ、やってるね」

中嶋先生が入ってきた。

「悪いね、いつもほったらかしなのにこんな時だけ来て」

「いえいえ、部長と一緒に裏方ばっかり押しつけてすいません」

先生には各方面の調整をやってもらっていた。これらの部品、部材も先生と部長が手配してくれた物だし、プロのチームとの契約だってこのお二方がいたから結べたんだ。だから俺達は気兼ねなくこっちに集中できる。

「今日中に終わらせる勢いだね」

「当然!」

本田が白い歯を見せながら先生に言う。

「……今日は終わるまで帰らない」

「まあエンジン積めないから動かないけどね」

PCから目を離さず口だけで突っ込む。

「野水君、そんな士気が下がるようなこと言わないの」

部長に怒られてるのを横で笑いながら

「何、何年も埃にまみれて隅っこに追いやられてたんだ。今更一週間動かなくてもこいつは待ってくれるさ」

そう言って先生はシャシーを撫で、教室を出て行った。

「あたしは早く乗ってみたいけどね」

「それより手を動かしてよ……」


今日の作業終了。エンジン~駆動系と、それを搭載できるよう外したカウル以外は全て組み上がった。後は明日テストをして、結果が良ければ積むだけだ。下校時刻過ぎてもって言ってたけど何とか時間内に終わった。終わってしまうほど皆気合が入っていた。


土曜日、朝八時半に部室に集合する。今日はいよいよエンジンの公式? 試験だ。これが上手くいって初めて車体に載せる事が出来る。ちなみにチームはフォーミュラーの方があるためこちらのテストまで手が回らなかった。まあ美山さん達はあっちがメインだしな。

「では始めましょうか」

皆集まったのを確認して部長が合図を出す。トラックは学校のを借りれる事になっている。しかもメンバー移動用のワゴンも借りられた。

早速トラックに積む込む……が、エンジンは車を構成する部品の中でも一番重いので、かなりの重労働だ。一応部室内に手動式クレーンはある(さすが元工業高校)が、部屋から台車に載せてそこに持って行くまでは人力(野球部ありがとう! 御礼に公式戦は応援行くぞ!)だ。しかし約210kgの重量はかなり重いしミッションを含めたら更に……。レース用ならあと30kgは削らないとな……。アルミが手っ取り早いけどうち学校の設備で鍛造は無理だしなぁ……オートクレープはあるくせに。


学校から会社まで約一時間。

「光、お前が運転するのか?」

「うん! 公道走るのは教習所以来だけどね」

大丈夫かな、こいつ車乗ると人格が……。とはいっても免許持ちは先生と光の二人しかいないから、必然的に片方は初心者マークが付くことになる。

「後ろも大丈夫みたいだな、行くか」

「オッケー」

狭い校内を徐行しながら走っ

「後ろ巻き込む巻き込む!」

「え? あ、後ろ長かったんだよね♪」

危うく壁擦るところだった……

「長かった♪ じゃねーよ! 擦ったら板金代俺らが払うんだぞ!?」

「七万円?」

「違うは!」

「大丈夫だって、少し走れば感覚掴めるし」

「その間に何かあったらどうすんだよ!」

「問題無いよ。……多分」

「たーすーけーてー!」


「楽しそうだな。まあおれは嫌だけど」

「……夫婦漫才」

「あのお二方で大丈夫でしょうか?」

「寧ろあの二人だからいいんじゃないか。高橋を押さえ込めるのは森だけだ。まあ、何かあった場合も犠牲が二人で済むしな」

「教師がそれを言っては……」


「先生達ついてきてないぞ!」

「いいじゃん。先行ってようよ」

「揃わないと始められないんだからゆっくりでいい! てかどうせこの国道すぐ詰まるんだからそんな飛ばすな!」

「開いてるんだったら詰めないと!」

「公道で攻めるなー!」

運転自体はスムーズだ。加減速もカーブでの車体のロールも文句は無いし、ATにもワゴンにもすぐに慣れた。この辺は流石である。

しかし、スピード狂は相変わらずである。前が開くととにかく踏むのだ。質問したら恐らく「制限速度? 何それ? 美味しいの?」と、帰ってくるだろう。速度計を覗いたが恐ろしくて口に出せない。よくこの状態で試験通ったものだ……。


「いや~新鮮だね! こんな車高高いの初めて!」

こっちはもの凄く怖かったけどな……

操縦自体は上手いから身体的に酔う事は無かったが、精神的に参ってしまった。まだ往路だぞ……。皆に「帰り代わって!」と視線を送ると――見事に逸らされてしまった。

帰りもかよ……。


お袋は既に来ている筈だ。開発室の入り口をノックすると返事があり扉が開いた。

「御邪魔します」

部長と先生を先頭に皆で挨拶、向こうも「どうぞ」と言って中に入るよう促してきた。。ここは久々だな、小学生以来かな?

「……凄い」

「広いですねぇ」

「動かせないの残念だなぁ……」

自分のと学校の機材で我慢だ。

「部室と違って綺麗ねえ」

そりゃそうだろう。

「おれん家とは大違いだ」

まあお前ん家は製造でこっちは開発だからな。

「今日は無理を言ってしまって申し訳ありません」

「いえいえ、こちらも楽しみにしてたんですよ」

大人同士の挨拶を後ろで見つつ、今日の予定を頭の中で整理していた。上手くいくといいな……

「では早速始めましょう。本体は車内ですか?」

台車に載せて運び、お袋含め会社の人達がそれをセットしていく。会社の備品なので俺達は流石に触れない。

「無骨な感じですね。実用一辺倒というか、手造り感と言うか」

「まあ所詮学生が造った物ですから……」

「んな悲観しなくていいよ。最初聞いたときは――は? ――とか思ったけどプロから見てもそこそこだよ。――見た目だけは」

お袋は良い物は良い、悪い物は悪いとはっきり言うタイプだから、プロ視点でも本当に(外側だけは)そこそこなんだろう。

「んじゃ回すぞー」

さて、今日の仕事が始まった


「うわぁ……全くパワーが無い」

開発は予定通り進むことはない――と解っているつもりだったが、いざ目の前でそうなるとやはりショックである。

「まあ、初ベンチで上手くいくことなんてまず無いからね」

まあそうなんだけど……

「どんな感じなんですか?」

さっきから野水はモニターを覗き込んでいる。おい、近すぎて担当の人から引かれてるぞ。

「点火タイミングがおかしいね、変な振動も出てる。どこか剛性不足かもしれない。或いはバランスシャフトに問題かな? まあまずは点火タイミングどうにかしないとね。危ないから一旦留めるよ」

エンジンマッピングに関しては何パターンか作ってきてるからそれで最適化出来るとして、問題は振動か……

点火タイミングだからノッキング(異常燃焼。本来とは違うタイミングで燃えてしまう現象)とは違うのかな? マッピングの失敗か、それと……

「森、やっぱあれ駄目だったんじゃないか?」

「あっちか」

あそこは造ってもらう際本田から言われたんだけどテスト用って事でやってもらったんだよな。

「二人とも何かやってたの?」

「強度計算して貰ったあれ」

それを聞いて野水も納得したようだ。


野水がECUの点火のタイミングをグラフを見ながら調整していく。そして一同が見守る中再びテスト開始

「お! 振動減った減った」

今度はきちんと爆発のタイミングが合ったようだ。ピストン同士が振動を打ち消し合い、余分な振動が発生していない。大丈夫だったのかな?

「出力もほぼ設計通りだ」

本戦仕様で700馬力/7,000rpm・80kg-m/3,500rpmの予定だがほぼそれに近い、まずは一安心だ。

「なんか怖いくらい順調だな。初めてなのに設計通りいくとは……」

「それフラグだよ」

ある程度の耐久テストも兼ねてるので、全開で回し続けてみた。ん? 何かまた振動が出てきたぞ?

「何か急に振動出てきましたね。どこかに亀裂が入ったかもしれません」

もう一度止めて開けてみた。剛性が足りないのか、オイルが旨く回ってないのか、とにかくクランク軸が損傷していた。いや、少しでも軽くしたいと細くしたから原因は前者だな。

「細いねこれ。あんたこんなの入れてたの?」

「だから言ったじゃねーか」

「まあ少しでも軽くしたかったからね。やっぱ駄目だったけど」

お袋と本田からステレオで突っ込まれる。まあある程度解ってたことだしな。

「そんな危ないエンジンのマシンであたしを走らせようとしたの!?」

「んな訳ねーだろ! ベンチだから色々やるんだよ!」

「二人とも、今は部活の途中だ。こんな所で学校の恥をさらすな」

「「……すいません」」

破損部品の修復を余儀なくされたがテストそのものはこのまま続ける。他の所も試すためだし、ミッションとの調整もまだだ。


「「「「「ありがとうございました」」」」」

「いやいや、こちらも良い刺激になったよ」

御礼を言い試験室を後にする。今日はこれで終わりだ。

「いやぁー、今日は疲れたな」

「俺はまだ疲れる事が残ってる……」

横目で光を見る。

「何か言った?」

「別に」

「それにしても色々出ましたね」

「……寧ろ少ない方かと」

「ま、それは今後の課題だね」

そうだ、今日の結果を元に今後設計を変更する必要がある。色々手を加える必要はあるが、予定の出力は出てた。とあるドライバーの「遅くて丈夫なマシンを速くするのは難しいが、速くて脆いマシンを頑丈にするのは簡単だ」との言葉を信じよう。

次は改修後にもう一度テストする必要がある。その時も貸してもらえるようにお袋に言っておこう。

知識皆無なのに制作場面も書くのは無謀でした・・・

レーシングオ○やモーターファ○片手に書いています。

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