16thスティント
カナードの効能?は最近知りました。
伊勢湾ではトラブル続きだった。
サスペンションの付け根のボルトが折れたり、やはりオーバーヒート症状が出たり……。しかしリタイアの原因は予想外、なんとドライブシャフト。元々シャフトの温度が高いとは思っていたが、駆動系のトラブルでついに動かなくなった。オーバーホール兼調査で分解した際、真っ二つになったシャフトを見て驚いてしまった。エンジンだけじゃなく複合的に駄目、調べれば調べるだけ出てくるな……。
次のレースまで約二ヶ月、改良点がありすぎる為、重度な所に絞ることにした。それでも足りないが……
それにしても見事なまでに折れている。今まで特に問題無かったからさほど深く見てはいなかった。
「……DF5○になるところだった」
「由良さん、何それ?」
「……棒高跳び機関車。運転中にシャフトが折れてそれが地面に刺さって飛んだ」
それは怖い
「いや、アンダーパネルつけてるから」
野水、そういう突っ込みかよ
「でもこれ、同じ素材の所全部見ないといけないんじゃないか?」
本田の言うとおりだ。折れるということは絶対的な強度不足の可能性がある。温度も高いということは冷却も上手くいっていないのだろう。シャフトの他にも駆動系を徹底的に点検することにした。
そして調べた結果、案の定何カ所かで異常摩耗が見られた。まず一番の問題は全て同じメーカーだったこと。もしかしたらうちの車との相性が悪いのかもしれない。そこで他社のに総取っ替えする。
「うーん……あまり量買う予算無いですよ?」
うぉふ……でも仕方ない、これで解決する保証は無いし。
さて、ずっと課題だったエンジン周りだが、伊勢湾の結果を踏まえて一応改良を施す。
「とは言ってもケースそのもの直す時間はないよな」
本田が腕を組み、マシンを見下ろしながら言う。
「それやったら他と当たるんだっけ? そしたらシャシー側もやり直し?」
机にPCを広げ、肘を突きながら野水がそれに答える。
「……シャシーなんかそれこそ時間ない」
由良さんの言う通り。そもそもシャシーが既にあったからこそ湾1,000に出ることができたのだ。
「これ取り付け位置上げたら駄目何ですか?」
「重心上がっちゃうから駄目です!」
部長の提案を即光が却下
「……ストレスマウントなんだからシャシーいらない箇所削ってエンジン剛性あげれば?」
「それはまたにしよう」
由良さんの意見を今度は俺が却下する
「ええっとそうだねー。次のレースには無理だろうし、今回は荒治療の方でいくよ」
「何それ?」
光がこっちを見て首をかしげる。皆も似たような疑問顔だ。そこで皆に俺の案を説明する。
「余計弱くなるんじゃない?」
「いや、負担を分散って意味では一つの方法だと思うよ。根本的な解決にはなっていないけど」
光が不安そうな顔をするが野水は一応理解してくれる。……納得かどうかは別だが。
「……それでもやらないよりはマシ」
そう、負担が分散するだけでもかなり違う。
「んじゃ、削りますか、森、オレらは向こうでやろうぜ」
冷却についてはラジエター容量なのか、燃料が薄すぎたのか、ジャケットに不備があるのか、他の理由なのかわからなかった。え? ガソリン薄いんだから高温になりにくいんじゃないかって? 実は逆で、ガソリンがある程度有った方が気化熱で気筒内の温度が下がりやすくなる。薄いとそれが出来ないわけだ。
そしてそれらと同時にエンジン含め各所のオーバーホール、するとその最中、なんとクランクの位相が微妙にずれていることg判明した!
「全く気付かなかった」
今までのテストでこれは出てたか?
「前回のも見直してみたけど、強度不足なのかな? 大きくなってる」
野水が以前のデーターを引っ張ってきて見せてきた。
「元から若干ズレはあったって事か」
本田も分解した部品を触りながら言う。
うーむ……、色々細いとか何とか言われてたけど、いざこうなると事の重大さがわかってくる。
「これは抜本的に設計変更しないと駄目か……」
「僕もそう思う」
俺、本田、野水と三人で頭を抱えるのだった……
数日後、今度は空力部分について話を詰めていく。
「伊勢でつくづく思ったけどハイダウンフォース仕様がほしい!」
「でも次は富士だから今は要らないんじゃない?」
「選択肢が有るのと無いのとじゃ大違い!」
光と野水が言い合ってるが、そういえば他のお二方も欲しいって言ってたな……
結果、今後カウルのアップデートはリア二枚化に決まった。湾千で他チームにあったからだ。いや、バージョンを増やすから単純なアップデートとは違うんだけど。ただ、次の裾野はロードラッグの方が良いため、一応ハイダウンフォース仕様も持って行くがメインは今までのものを使うことも決まった。
「……久々の粘土、そして今回からは紙も」
由良さん工作楽しそう。
「オレもやりてーなー」
おい本田、遊びじゃねーぞ!?
「……細かい調整お願い」
「まかせろ!」
あ、良い感じ
「決まったら教えてねー」
CADが使える野水がそう一言、その後他の作業に戻っていく。
そんなこんなで夏休みはあっという間に終わ……りそうなところでお約束が待っていた。
「何で終わってないんだよ……」
「ジカンナカッタ」←光
「オレハワスレテタ!」←本田
(……駄目だこいつら、早く何とかしないと)
そして野水がトドメの一言
「テストあるよ?」
「「え!?」」
夏休みの宿題を光と本田が終わってないため、作業は休み終了三日前に組み上げ用意が終わったまま(ベンチテストするため早めに作業開始したエンジンのみ終了、マシン側はドラシャまだ来てない)で止まってしまった!
二学期始め、テストが一週間、つまりその間は部活禁止。しかし教室に入ったら、
「次どのレール出るの?」
「また観るぞ!」
「もっとテレビ映れよ!」
登校日と同じく、皆から質問責めされた。まだ熱は冷めてない!
「一応予定は10月に静岡の裾野スピードウェイであるやつだけど」
「来月って早いなー」
「それテレビでやる?」
「毎年衛星でやってるよー、詳細はまt」
「席につけー」
ここで予鈴と同時に先生が入室、夏休みモードの余韻が残る中、いきなりテストに突入したのだった。
一週間のテストが終了、教室で三人一緒になり部室へ行く準備中
「赤は無かったぜ!」←本田
「あたしも!」←光
「赤無い方が普通だよ!」
点さほどよくないのに何故そんなにテンション高いんだ!?
「そんなことはどうでもいい! 早く部室行くぞ!」
今机と鞄点検中だからもう少し待て!
部室に全員集合、早速作業に入る。当然テスト前の続きをするのだが、ドライブシャフトの関係で全部は組み上げることは残念ながら出来ない。「出来るときに出来ることをしましょう」この部長の一言で一先ず他の部分をやることになった。
「後ろは目途立ったけど前はどうするの?」
CADの図面(先日のリアウイング部分)を印刷しながら野水が言う。
「光さんとしてはどうですか?」
「もっと大きいチンスポイラー、或いはカナードほしいです」
「……カナードは嫌。それよりタイヤハウスの空気を効率良く抜く方法の方が良い」
「どうして?」
光が首を傾げる。俺も理由を知りたい。
「……カナードの本質はタイヤハウスの空気を効率良く抜くための部品。でも露出してるから抵抗が増える」
成る程、それならカナード無しでやった方がいい訳か。
「それであれ有ったり無かったりしたんだね。僕ずっと不思議だったんだ」
あー、言われてみれば確かに。
「でも手っ取り早い方法の一つだろ? 駄目なら使わなかったらいいだけだし」
うーん、本田の意見も一理あるな。
「では何種類か実験してみましょう」
「……もう一回粘土」
結局、フロント部分の変更に際しカナードも一応候補とし、その試作を何種類か造ることに決まった。
九月二週目の土曜日。組み上がったエンジンをベンチにかけるため親が勤める会社へ向かう。ちなみにいつものように(?)親のコネを使って事前予約、そして試運転を行う。この日は一応問題無く終了。
翌日曜日は遅れていたマシンの組み上げに入る。駆動系の部品が無いため今日中に全部は無理だが、少しでも進めておきたい。あまりやらない日曜に部活をしたのはその為だ。
そして休みが明けた月曜日
「ドラシャ来たぞー」
放課後、部室へ行くと待っていた先生が開口一番こう言った。
「……これでやっと仕上げが出来る」
「よっしゃ! 今日中に終わらすぞ!」
それを由良さんと本田が一気にテンション上げる。……一応由良さんはあれでテンション上がってる。
「では次の日曜、いつのもの場所確保しておきますね」
新品の駆動系を組み込めばマシンの組み上げが終了、そしたらテストが当然必要だ。二人が今日中に終わらせるとのことなので、部長は早速それについての計画を立てていく。
「裾野でのレースも近いので、チームのスタッフも呼んだ方がいいでしょう」
急だけど大丈夫かな?
「一応話はしてましたので」
流石部長、根回し早い。うちの部の本当のマネージャーだ。
組み上がったその後は細々とした作業をし、いよいよ日曜日。オーバーホール後、そして伊勢以来の本格運転である。テストはいつもの場所。ただ今日は美山さんと関さんはじめ、チームの人殆ど(他の用で来れなかった人もいる)が来てくれた。
今日の予定としては先ずは美山さんが走り、次に関さん、そして最後に光となっている。何故光が最後なのかというと、なんと鈴禾監督が燃費走行の練習を手伝ってくれることになった! それなら最後にじっくりやった方が良いとの判断だ。
「さて、復活(?)したチーム見せてもらおうか!」
そう言いながら美山さんが乗り込み走り出していく。
「ブレーキング……」
「タイヤが……」
「水温は……」
「調子は悪くなさそうですね」
「あぁ。きっちり直ってるな。まあ、問題はこれからだが」
監督と関さんが話しているのが聞こえる。そう、問題はこれからなのですよ! ……自慢することじゃねー
「そろそろ予定時間だぞ」
「了解。次の週入るわ」
ここで関さんと交代。関さんは美山さんと少し話し、そのまま何も言わず走り出していく。いや、普通はこうだよね? 美山さんがテンション高いだけだよね?
「リアが……」
「フロントの……」
午前の予定を消化し、一旦休憩に入る。
「前よりスムーズやな」
「そうですね。普通の状態でも違和感は減ってると感じます」
休憩中も情報の精査を進めていく。あれ? これって休憩なんですよね?
「この調子だと午後も予定通り消化できるか」
「えぇ、恐らく」
監督と部長がこの後のことをうどんを食べながら確認していく。いや、汁物の隣に書類はやめましょうよ!
「そうだ高橋」
「はい?」
「今のうちに午後の事簡単に言っておくぞ」
「わかりました」
この後は光が乗る。それについて二人がテストと、同時に行う長距離の走り方のコツを監督が教えていく。
「最初の何十分かは……」
「同じ速度でも浅めのアクセルで……」
休憩終了、一度エンジンの火を落としたため再点火したのち暖気、そして光が乗り込み走り出していく。
(あ、本当だ。前より楽になってる)
テストコース(駐車場)をマシンは順調に周回していく。路面状況はそれほど良くないため振動はやはりサーキットに比べどうしても多い。しかし最初の頃に走った時と明らかに違う乗り心地。それが減った要因は足回りのセッティングが熟成されてきたからか、或いはもっと別の要因か、それともそれら複合的な事なのか。何にしても
(とにかく以前より乗りやすいのは確か。これならちょっと攻めてみてもいいかも)
光も順調に周回を重ねていく。時折無線でマシンの状況や監督のアドバイス、それによって起こるテレメーターに表示差れた走り方の変化を話していく。その様子を俺達は画面等を見て、時々マシンその物を観察して何周かその走行見守っていた……のだが。
「あかん!」
「遅い!」
突然ドライバー二人の叫び声が聞こえたその直後……
最初これ書いてるときあれの真っ直中で、「うわーい! 今まさに仏でやってるよ! てかもうゴールだよー……物語は半年なのに現実はorz」って後書き書こうと思ってたんですが、最後の6分に絶叫→唖然呆然絶句&絶望……
あまりの出来事に筆止まってそのまま放置。あの無線が今でも耳にこびりついて離れません……