三人目の無自覚は
「それじゃ、バンシーの話を聞いても分かりそうにねえな」
魔術師の小僧、ロドとケットシーのノーチェから話を聞かされて、
あたしはがっかりしながらもそう答えた。
「はい、ハイドランジアさん。相手が六歳では難しそうです」
あたしは長らく自分を人間だと思い込んでいたが、違ったらしい。
バンシーという、他者の死を未来視してしまう種族だそうな。
この小僧が王国から少数種族の聞き取り調査を依頼された縁で、
今まで他人の死を見ちまった理由が分かったのは有り難いんだが、
能力を詳しく知るには同族に聞くのが手っ取り早いと思ったものの、
「少数種族」なだけあってなかなか同族は見つけられない。
まさか通行人に片っ端から「あんたバンシーか?」と聞く訳にも。
なのでバンシーかどうか判る小僧達に任しっぱなしなんだが…。
あたし自身が何も出来ねえってのがどうにもイライラする。
今日小僧達と話しているのもバンシー探しの件なんだが、
見つけた相手が六歳の女の子ときては、説明も出来なさそうだ。
しかし…その子がもし誰かの死を未来視しちまったら、
子供にとっちゃあ気分が悪いじゃ済まないんじゃねえか?
これでも元神官だったんだ、少しはその子の力になりてえ。
「なあ小僧、取り敢えずその女の子に会わせてくれねえか?」
◆
その女の子はノーチェが市場を回っている時見つけたんだそうだ。
おやじさんが冒険者で、普段おふくろさんと暮らしているらしい。
中級冒険者で三つ星だからあたしと同等だが、知らねえ相手だ。
今は護衛の依頼を受けて王都から離れているらしいが。
『あのこだよー』
ノーチェが小声で教えてくれる。後ろで髪を結んだ普通の女の子。
だが確かに、あたしにもあの子から感じるものがある。
以前会った別のバンシーと同じ感覚。間違いなさそうだ。
話しかけようかと近づいたが、なんだか女の子の表情が冴えない。
少し迷ったが、声をかけてみるか。
「どうしたお嬢ちゃん?どこか痛い所でもあるのか?」
「ひっ」
うっ、怯えられた。まあ目つき悪いからな、あたしゃ…。
神殿いた時も結構患者にビビられてたが、こればっかりはなあ。
「大丈夫だよ。この人は怖い顔で怖いしゃべり方もするけど、
そんなに酷い事する人じゃないから。
なんだか困っているみたいだけど、どうしたのかな?」
小僧がとりなした。というか、お前もそう思ってたな!?
まあそっちは後で問い詰めてやる。
女の子はおろおろしてしばらく迷っていたが、口を開いた。
「あのね、おかあさんが死んじゃうゆめをみたの」
◆
この子、ダリアはおふくろさんが馬車に轢かれるのを視たらしい。
それが昨晩の事だ。まだおふくろさんのアケーシャは死んでない。
おふくろさんにも夢の話はしたそうだが、子供の話だと考えたか、
ダリアに留守をお願いし、笑って買い物へ出かけたらしい。
文献では未来視には予知が起こるまでの個人差があるらしいが、
市場までの道には結構馬車が通っている。拙いかもしれない。
ダリアを背負って、小僧達と一緒に市場への道を急ぐ。
今日、事故が起きるとは限らないが、せめて伝えないとだめだ。
ダリアの言っている事は真実なのだと。
おふくろさんの顔をダリアしか知らないのが悔やまれる。
手分けして探せねえ。見つけるのは背負ってるダリア頼みだ。
ふと小僧が足を止めた。
「こんな時になんですが、もう一人見つかりましたよ。
もしかしてこの人ってアケーシャさんなのでは?」
「あ?訳分かんねえ事を言ってる場合か!」
「いや、闇雲に探すよりは…こっちに!」
小僧があたしの手を引っ張って細い横道へ進行方向を促す。
非力に見えていたがかなり小僧の力は強い。
言い争いをしててもどうにもならねえ。されるがままについていく。
「あっ、おかあさん!」
ダリアが背中から声を上げた。えっ?本当にこっちにいた?
◆
無事というか、とにかくおふくろさんのアケーシャと合流出来た。
今は近場の食堂に入って、彼女達とバンシーの話をしている。
「ああ、ご心配おかけしまして…。
『予言』を受けているので、わたしは大丈夫ですよ」
「予言?というのは?」
アケーシャは「自覚のあるバンシー」だった。
彼女の母親も祖母もバンシーで、どういうものか知っていたのだ。
それによれば、バンシーの未来視は絶対覆らないものではないと。
あくまで「未来を変えよう」という意思がはたらかなかった場合、
死の未来が訪れてしまうものなのだとか。
無論寿命とか避けられないものもあるが、それ以外は大丈夫だと。
特にバンシーが別のバンシーに死を「予言」された場合には、
本来起こるはずの未来は起こらなくなるらしい。
それをアケーシャは知っていたので、安心して買い物に出たそうだ。
さっき小僧は、いやノーチェもだが、《探索》の魔術をかけ続けて、
ダリアに似た相手を探していたらしい。
ところがバンシー特有の感覚まで《探索》に引っ掛かったんだと。
これは母娘揃ってバンシーなのではと思い、横道を進んだそうだ。
後日、アケーシャから彼女のおふくろさんも紹介してもらった。
そこでバンシーのさらに詳しい話も聞くことが出来た。
王都にはまだ数名バンシーがいて、お互いやり取りしているらしい。
先輩方の存在はありがたい。今後は協力していきたいもんだ。
バンシーのコミュニティでお互い事故死を回避しています。
彼女達が知り合えたのは偶然だったり親戚だったりで。




