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機操戦伎グレニアヴァール  作者: そのえもん


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8/9

二 環太平洋連合②

役者としての日菜、鉾蘭ほくらんにはそこそこ人気があった。

しかし、彼女にとっては不本意であった。

 戦意高揚に繋がる伝統芸能としてこの町で持ち上げられた榊原一門は、今やちょっとした有名人であった。

 もちろん戦伎太夫である日菜の父、榊浦剣楼太夫が注目を集めるのは当然なのだが、それだけではない。

 ベテランの刃衛門や弓江はもちろんのこと、若手で勢いのある兄弟子、剣之丞にもかなりのフアンがついていた。人形遣いである隼人の父、砲園にまでついているはなかなか珍しい。

 そこまで来れば、役者の中で最も若く、顔立ちだけは可愛らしい鉾蘭(日菜)も例外ではない。ブロマイドの売り上げだけなら一番であった。


「お前のブロマイドの売り上げすごいぞ、日曜なんか百枚出したのに昼の部で売り切れたって小松っちゃんが言ってたぞ。若い士官が大事にしてるってよ」

「……らしいね。まぁ、意外と悪い気分じゃないよ」


 ふかし芋をすっかり食い終えた隼人は、日菜から餅菓子を一本受け取った。ほんのり甘く柔らかな餅に、胡桃ときな粉の香ばしさが堪らない。飲み物は必須だが、これは文句なしに美味い。


「うっわ、この餅めっちゃ美味いな。

 ……なんだよ日菜、不服そうじゃん」

「だってさぁ」


 露骨な顰めっ面の日菜が続ける。あからさまな不機嫌さは、猛獣の唸り声のようであった。


「機操戦伎ってさ、舞台中役者の姿なんて見えないじゃん?乗り込んでるんだから。顔見せるのなんか最後の最後に挨拶するときだけだろ。

 んでブロマイドが売れるってことはさ……見た目ってことだろ?そりゃ私の顔は割といいよ?親に感謝はしてる、でも、これは両親からの貰い物だからね。

 結局顔につくフアンは、私の実力についたフアンじゃないだろ。そりゃこんな顔にもなる」

「ひねくれたヤツだな」

「だって稲若丸のブロマイドはからっきしだぜ?腕は買われてない。

 機体のブロマイドで一番売れてるのは父さんの八幡颯天だろ?」

「そりゃまあ……主役だし」


 八幡颯天はちまんそうてん。それはこの一座が保有する機械人形の中でも最も大きく、最も華やかな機体である。基本的にどの演目でも主役を務めるし、エンジン出力も高い。そもそも関節構造からして一段複雑なので、その動きは金属で出来ているとは思えないほど柔らかい。

 それを操るのは当然、この一座で最も技量の高い榊浦剣楼太夫と、その片腕である砲園である。

 戦伎太夫榊浦剣楼が制御し、国内屈指の人形遣い砲園が舞う。この二人の息が合うと、巨大な機械人形は人間以上に美しく、軽やかに、力強く舞い踊り、伝説上の戦を更に激しいものへ昇華させる。それがこの巨大な劇場に詰めかけた全ての人を圧倒し、魅了するのだ。

 桁違いの年季に培われた技量は次元が違う。あり得ないことだが、万が一機体を取り換えたところで、今の鉾蘭程度では確実に八幡颯天をもてあますことだろう。


「言っちゃえばさ、私がブスだったら売れてない訳さ。こんなの、親の七光りと大差ないだろ……これで自慢するほどバカじゃないよ」


 日菜は立膝の上に頬杖を突くと、噛み殺した溜息を鼻から抜いた。


「……でも?」


 隼人がぼそりと呟くと日菜はにやりと笑って見せた。


「そういうことだ。だからって腐ってる時間はない。

 結局必要なのは稽古と場数だ。七光りと顔人気ででそれが稼げるんなら、いくらでも利用してやらあ」


 からりと日菜が笑ってみせると、隼人は大きくうなずいた。


「よかったよかった。流石日菜だ、小松っちゃんも喜ぶよ」

「小松っちゃん?なんでさ?」

「来週からサイン入りブロマイドを売り出そうってさ、とりあえず五百枚書いて欲しいってよ。夜公演まで時間がある、とりあえずやっちまえよ」

「五百?……いやいやいや、勘弁してよ」

「顔人気も利用するんだろ?」

「……クソが、かっこつけるんじゃなかった」

「台無しだよ」


 隼人は笑い、日菜は肩を落として餅を頬張った。

ここまでお読みいただきありがとうございます、感謝感激でございます。

気に入っていただけたら、お気に入りやブックマークで応援してもらえると本当に励みになります。

あなたの一言が、次の物語を紡ぐ燃料になります。


日菜の生き方も決して楽ではないのです。この芸能は架空ですが。

ぜひ感想で教えてください。


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※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・出来事とは一切関係ありません。


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