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機操戦伎グレニアヴァール  作者: そのえもん


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12/17

三 軍靴の音①

大本営発表を信じる無垢な国民はもういなかった。

環太平洋連合艦隊の苦戦は続いていた。

 大本営発表は以前と同じように連戦連勝であると告げている。

 連合艦隊の攻撃により、バクダは逃げ回っていると報じていた。しかし、もはやそれを鵜呑みにする者はいない。

 かつての戦争は大東亞圏全域を巻き込む、超広範囲の戦線の押し合いであった。キスカだのトラックだのと言われても、漠然と南方としか把握しておらぬ者も多い。と言うより、一般人が戦争の全容を理解するのは不可能に近い。

 だが今回はそうではない。敵はたった一匹のバクダと、それが率いる飛竜騎士。戦場がいまどこなのか、誤魔化しようのないその情報だけで、連合艦隊が押されているのが判ってしまう。

 連合艦隊はバクダの進撃を食い止められなかった。太平洋沿岸に出たバクダは北上してカナダを通り、五月にはアラスカへ入った。


「日本に近づいて来てる?」


 それに気づいた多くの日本人は震え上がった。もはや対岸の火事ではないのだ。

 あんなバケモノが来たら、日本は焼け野原だ。焼き払われ、食い殺されるくらいなら、いっそ米軍に占領される方がマシだったではないか。

 もちろん新聞やラジオはそれを否定し、作戦通りだと言い張る。四方を海に囲まれたアリューシャン列島の小島に追い込み、両軍艦隊の一斉攻撃で殲滅するのだと断言する。


「嘘じゃないのか」

 誰かが呟けば、誰かがこう答える。

「嘘でも何でもいい、倒してくれるなら」


 発表を鵜呑みにする者はいない。だが、頼れる者がいない。その事実は、投げやりで消極的な信用を無理に捻り出していた。


「誰でもいいから、なんとかしてくれ」


 それが、太平洋を望むすべての国に住まう者の声であった。海を泳ぐ化け物を島に追い込んで何の意味があるのか。気付いても、触れてはいけないのだ。


 一九四四年六月、環太平洋連合艦隊にソビエトが加入するとの一報が世界を震わせた。

 バクダは今、アラスカを西に進んでアリューシャン列島にいる。そこはもはやソビエトにとってはベーリング海峡を挟んだ目と鼻の先であったのだ。

 これによって、環太平洋連合艦隊は日米ソの三ヶ国の力を結集した、世界最大にして最強の艦隊ということになった。

 ラジオや新聞はこれを讃え、今度こそバクダを殲滅できると騒ぎ立てるのであるが……市井では、水面下では本当にそうなのだろうか?と疑う声も少なくない。


「ソ連が参加して倒せるなら、もうとっくに倒せてるはずなんじゃないか?」

「組まなきゃ倒せない。ソビエトもそう思ってるってことなんじゃないのか?」

「……本当に、勝てるんだろうか」


 この時代アメリカとソビエトは表向き同盟国であるが、その思想は根本からして噛み合わない。

 資本主義と自由主義を掲げるアメリカと、共産主義、計画主義を掲げるソビエトは、お互いを人類の敵だと思っているのだ。その国同士がただ単に同盟ではなく、同じ艦隊として共同作戦を展開するなど、本来はあり得ない。

 そのあり得ないことが、バクダによって起きてしまった。それはもはや世界全体がなりふり構っていられないのだと、告白しているのと同義であった。

ここまでお読みいただきありがとうございます、感謝感激でございます。

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