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機操戦伎グレニアヴァール  作者: そのえもん


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11/16

ニ 環太平洋連合④

ニュース映画が国民に伝えた衝撃は計り知れなかった。

バクダの来襲。

環太平洋連合艦隊結成。

そして……。

「バケモノにも、限度があるだろ……なぁ、隼人」

「ええ……俺も、何が何だか」


 剣之丞は気さくで明るい兄貴分だ。裏方に回った隼人のことも、今でも可愛がってくれている。

 映像では、その全体は直径百メートル強の円盤に手足の生えた、亀のような姿をしていた。ただ、そこから無数の首が生えた様子は紛れもないバケモノである。

 亀なら甲羅であるべきところは平坦で、鏡のように光を反射していた。中心にはなにかがあるようだったが、陽炎に包まれるように揺らめいてよく判らなかった。

 無論、アメリカ軍はたかだか一匹のバケモノに怯むような軟弱なものではない。それは死闘を繰り広げた日本人が一番よく知っている。あれが鏡だろうが鉄板だろうが、砲弾でも爆弾でも放り込めばいい話だ。


「背中の……鏡だかなんだか、ありゃ穴か、それとも門みたいだな」

「俺にも、そう見えました」


 剣之丞の呟きに隼人が相槌を打つ。剣之丞が門と言ったのは他でもない。そこからさらなる戦力が現れたのだ。


「飛竜ってか。アメリカ人には、あれが竜に見えんのかね」


 かつて新聞で日菜が指摘していた巨大なコウモリ。

 全長はおよそ十数メートル。

 がっしりした手足と皮膜の翼。

 煌めく鱗におおわれた四つ足。

 ニュースはそれを飛竜と呼んでいた。

 問題なのはその飛竜とやらが金属の鎧を着込み、その上に同じく武装した人間を乗せていたことだ。


「飛竜騎士ってなんだよ、辰の子太郎じゃないんだからよ……」


 武装した彼らは編隊を組み、統率の取れた動きでもってアメリカ軍と戦っていた。流石に最高速度こそ戦闘機には敵わないようであったが、上下左右を自由自在に飛び回り、必要とあればその場で滞空すらできる機動性は恐ろしいものであった。


「あんなの……なんでもアリじゃねえか」


 航空戦力というものは、基本的には専門職の分業制である。

 動かない構造物や鈍い船を攻撃するため、攻撃力に特化させた爆撃機や攻撃機がある。だが重たい爆弾を満載したそれらは機動性が失われて容易く迎撃されてしまう。これを援護、護衛するために、軽い機関銃だけを積んだ戦闘機が存在するのだ。ペイロードという露骨な物理的制約のある飛行機は、そうするしかなかった。

 しかし飛竜騎士は違った。戦闘機を振り回し、空中戦をやってのける機動性を持ちながら、未知の力で対地攻撃をやってのけた。


「ニュースじゃ……怪攻撃って呼んでましたね。火の球出したり雷撃ったり……まるで魔法だ」

「冗談じゃねえよ、無茶苦茶だ」


 飛竜騎士の術は閃光や火球を放ち、あるいは落雷を呼び寄せていた。町を焼き払い、破壊するのに十分な威力がありながら、戦闘機を易々と撃ち落としていた。その上飛竜自体も火を吐くのだからタチが悪い。竜の吐く火球は、直撃すればアメリカの戦闘機すら火だるまにしていた。

 その恐るべき飛竜騎士を、バクダは背中から無限に呼び出せるようであった。


「どうなっちまうんだよ、日本は……せっかく戦争が終わったのに」


 嘆きに耐えられず、次に口を開いたのは、ベテラン役者の刃衛門であった。


「去年、いきなり休戦したろ」


 雨風の染み込んだような渋い男で、敵役の似合う迫力のある実力派であった。しかし今回はさすがの彼も困惑しているようだ。


「あれはどうやら、バクダが現れたせいらしい。

 あんなバケモノがいきなり国内に現れたら、いくらアメリカだって日本と戦争なんかしてられない。

 だから休戦したんだ『ある程度領地は認めてやるから、こっちを手伝え』って事らしい」

「本当ですか、刃衛門さん」

「どっから聞いたんですか、そんな大事」


 剣之丞に食いつかれて、一旦口篭った。しかし、いつもは涼しい目元の後輩にこうも食いつかれてはと、渋々続けた。


「この前鎮守府の偉いさんと呑む席があってな。その時少しだけ聞いたんだ。

 発表するまで黙っててくれと言われたが、まさかこんなとんでもないことだったなんて……」

「何で黙ってたんですか!……そんな大事な話」


 剣之丞はがんと立ち上がって声を荒げた。殴りかかるのではと何人かが浮き足立つが、それは堪えた。

 刃衛門は大きく息を吐くと、地の底から響くような声で答えた。


「信じてなかったからさ。

 お前言われて信じるか?『アメリカと一緒に、バケモノと戦うための休戦だ』なんて聞かされて。

 目に浮かぶよ、お前が昨日この話を聞いてたら『刃衛門さんはウソが下手だなぁ。なんでそれで芝居ができるんだか、不思議でしかたない』とか揶揄うに決まってる」

「……理解ある先輩がいて、俺ぁ幸せですよ」


 そう言って剣之丞は出て行った。

 戦争は終わっていない。

 昨日までの不倶戴天の敵と肩を並べて一緒に戦うのは、今までの何倍も得体の知れないバケモノであるバクダと飛竜騎士。

 その事実は、日本国民を恐怖と困惑の渦へと叩き込んだ。

 

 報道によると、アメリカ内陸部に出現したバクダは五大湖を西へ横断、太平洋沿岸へと移動したらしい。ここから日米両軍による環太平洋連合艦隊の攻撃が激化した。海に潜って姿を消しながら移動するバクダとの戦闘は、困難を極めているらしい。

 アメリカを叩くために作られたはずの兵器が、アメリカ国土を守る為に使われるというのは、日本国民にしては複雑な思いもあっただろう。

 しかし、バクダとそれの率いる飛竜騎士は既に太平洋の向こう岸に来ているのだ。あれの目標がなんなのか判らない限り、日本にとっても他人事ではない。

 今こそ一丸となり、異世界からの侵略者を叩くべし。

 つい先日まで「鬼畜米英」と声高に叫んでいたはずの街角の演説は、このニュース以降すっかり手のひらを返して「昨日の敵は今日の友」だの「共に戦い太平洋を取り戻せ」という論調にすり替わっていた。

 軍や政府のお偉方の首から上を、誰かがすり替えたのかと思うほどの鮮やかな変わりようである。誰もが戸惑い、とても納得はできないと顔に書いてある。

 しかし、あの飛竜騎士に撃ち落とされる戦闘機や、焼き払われる街並みの映像を目にしては、とてもそんなことは言えない。明日は我が身と震え、否応なしに協力するしかなかった。

 軍部のプロパガンダは、とっくになりふり構わぬものになっていたのだが、それはここへ来てむしろ加速していくのであった。


ここまでお読みいただきありがとうございます、感謝感激でございます。

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