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機操戦伎グレニアヴァール  作者: そのえもん


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10/15

二 環太平洋連合③

顔人気でも今はいい。

開き直った日菜、それを支えると心に決めた隼人。

しかし世界は、戦況は、それを見守るほど甘くない。


 夜公演は滞りなく行われた。隼人の調節はばっちりで、動きは上々であった。

 しかし、その夜もっとも観客の精神を揺るがしたのは、八幡颯天でもなければ、ましてや稲若丸でもなかった。

 映画ニュースである。

 テレビ放送など影も形もないこの時代、国民が情報を得る方法は大きく三つ。雑誌や新聞などの印刷物、ラジオ、そしてもう一つがこれである。

 映画館などで本編前に報道や時事を纏めた映像が公開されるもので、長くても二十分程のもので、この時代に一般人が唯一触れることができる動画メディアである。軍の支援で作られたこの劇場には、最初からその設備が用意されていた。

 もちろん国の検閲……というかこれ自体が国営の事業であるため、内容はプロパガンダに大きく傾いている。もっとも、傾き度合いは他のメディアと大差はない。

 問題はその内容だ。劇場だけではない、ラジオやら号外やら、全国で同時に解禁されたニュースは、日本国民に衝撃を与えた。

 一座の人間はそれでも何とか芝居の完遂に全力を注いだが、観客はどうだろうか、それこそ頭が真っ白になったものもいるのではないだろうか。

 いつもなら胸を打つ舞台も、万雷の拍手も、今日だけはどこかよそよそしかった。


 公演の後、手早く片付けを済ませると、既に深夜の入口になっていた。

 いつもなら皆明日に備えてとっとと寝てしまうのだが、今日はそうもいかなかった。仮宿舎の一部、居間の代わりにしている一角に、多くが身を寄せていた。


「……よく、暴動が起きませんでしたね」


 呟いたのは一座の事務を切り盛りする細身の女、小松であった。面倒見が良く朗らかなので、皆からは小松っちゃんと親しまれている。

 そんな彼女でも、あのニュースは少々堪えた。


「そりゃ、ここは鎮守府の真横だからな。暴動なんか起こしたら、憲兵どころか軍そのものが飛んでくる」


 軽口を叩いたのは目元の涼しい色男、若手役者の剣之丞である。


「それどころじゃ……ないですよ」

「ま、そうだなァ」


 ニュースの内容は大きく二つ。

 まず一つは日米が『環太平洋連合艦隊』を結成し、協力体制に入ったということだ。


「意味わかりませんよ……秋口まで戦争して、殺し合ってた相手と一緒に『今日から友軍だから協力しろ』って言ってるんですよ?」


 今思えば、それを見越して急激な西洋文化の緩和が行われたのだろう。少しでも国民感情を軟着陸させるために。

 だが、そんなもので相殺しきれるものではない。


「私の父は……アッツ島で……。

 こんなことになるなら……何のために、何のために……ッ!」


 小松の慟哭、その沈黙を埋めるように、柱時計がぽーんと鳴った。

 そこから先は言葉にならず、小松は小さな拳を震わせて涙を流した。

 その隣に日菜が腰を下ろし、肩を寄せ、涙を拭いてやった。あまりに残酷で重い事実に、流石の日菜もかける言葉が見つからない。ただ、こうして寄り添ってやることしかできなかった。

 一九四三年五月のことだった。当時日本軍が占領していたアラスカのアッツ島は、米軍の大規模奪還作戦により奪い返された。当時そこに駐留していた多くの日本兵は、ほんのわずかな捕虜を除き玉砕している。もちろん、そこには徴兵された一般兵も多数いた。

 これは何も特別なことではない。この戦争では既にミッドウェー、ガダルカナル、アッツ島含むアリューシャン、ソロモンと複数の戦場で、多くの日本兵が壮絶な死を遂げている。

 共同戦線を張るという発表は、彼らの遺族に、その死に泥を塗り、掻き毟る行為に等しい。


「それくらい……とんでもないんだろうな。あのバケモノ」


 小松の嗚咽に耐えきれず、呆然と呟いたのは剣之丞であった。あのニュースを見ても舞台をやり切った精神力は驚嘆に値するが……やはり内心穏やかではなかったようだ。

 それがもう一つの発表。幻鏡竜バクダ=グラン=スルヴァーンと名付けられたバケモノである。

 新聞の航空写真に写っていた、あの円盤だ。写真ではよく判らなかったが、今回の映像では白黒でこそあるがその姿ははっきり見えた。

ここまでお読みいただきありがとうございます、感謝感激でございます。

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