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異世界転生したコンビニが世界を救う  作者: もしものべりすと


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第五章 コンビニの掟

農業プロジェクトが始まって、一週間が経った。


ゴルドのチームが開墾した畑に、種が蒔かれた。小麦、トウモロコシ、ジャガイモ、ニンジン。そして、この世界には存在しなかった——トマト。


「赤い果実……? こんなものは見たことがない」


難民たちが不思議そうに苗を眺めた。


「トマトだ。俺の世界では、ありふれた野菜だ」


創太が説明した。


「生でも食えるし、煮ても焼いても美味い。栄養価も高い」


「本当か?」


「ああ。育てば、食糧事情がかなり改善される」


難民たちは半信半疑だったが、創太の指示に従って作業を続けた。


農業マニュアルは、マネージャーが用意したものだった。土壌の準備、種の蒔き方、水やりの頻度、害虫対策。全てが詳細に記載されている。創太はそれを翻訳し——マネージャーの翻訳機能を使って——難民たちに教えた。


「種を蒔く深さは、種の大きさの三倍。深すぎると発芽しない、浅すぎると乾燥で枯れる」


「間隔は、作物によって違う。小麦は密植できるが、トウモロコシは広めに取る」


「水やりは、朝か夕方。日中の暑い時間に水をやると、根が蒸れて腐る」


難民たちは、懸命にメモを取った。この世界には紙が貴重らしく、木の板に炭で書いている者もいた。


「店長、一つ聞いていいか」


年配の農夫が手を挙げた。


「なんだ」


「なぜ、そこまで詳しく知っている? あんたは商人だろう。農業は専門外じゃないのか」


「……ああ、確かに専門外だ」


創太は頷いた。


「でも、俺が持っている知識は、専門家たちが長い年月をかけて蓄積したものだ。それを共有しているだけだ」


農夫は不思議そうな顔をした。


「専門家たちが……?」


「ああ。俺の世界には、農業を研究する人間がたくさんいた。どうすれば収穫量が増えるか、どうすれば病気を防げるか。何百年もかけて、知識を積み上げてきた」


創太は空を見上げた。


「その知識の一部が、俺の頭の中にある。そして——」


マネージャーの存在を示すように、店舗を振り返った。


「あの店の中にも、たくさんの知識がある。それを、みんなに伝えるのが俺の仕事だ」


農夫は黙って聞いていた。


やがて、深々と頭を下げた。


「……ありがとう、店長。あんたのおかげで、俺たちは生き延びられている」


「礼はいらない」


創太は手を振った。


「ルールを守って、真面目に働いてくれれば、それでいい」


ルール。


それは、この集落を支える重要な柱だった。


創太が定めたルールは、シンプルだった。


一、商品を勝手に取らない。欲しいものがあれば、配給システムを通す。


二、衛生管理を徹底する。手洗い、ゴミの分別、食品の取り扱いに気をつける。


三、他人を尊重する。暴力、窃盗、差別は許さない。


四、仕事に参加する。農業、建設、調理、警備——体調に応じて、何かしらの役割を担う。


五、ルールを破った場合は、ペナルティがある。重大な違反者は、集落から追放される。


厳しいルールだった。しかし、創太は妥協しなかった。


「甘くすると、秩序が崩れる。秩序が崩れれば、全員が危険にさらされる」


カイルは最初、難色を示した。


「追放は、死刑に等しい。外の世界には、魔物も魔王軍もいる。追放された者は、生き延びられない」


「わかっている」


創太は答えた。


「だからこそ、ルールを守らせる必要がある。追放が嫌なら、ルールを守れ。シンプルな話だ」


「……」


カイルは沈黙した。


やがて、小さく頷いた。


「……わかった。お前の言う通りだ。秩序がなければ、コミュニティは維持できない」


「そういうことだ」


ルールは、難民たちに周知された。最初は反発もあったが、創太の真剣な態度と、これまでの実績を見て、大多数が従った。


そして、ルールを破る者は——実際に現れた。


「店長、問題だ」


リーナが険しい表情でやってきた。


「何があった」


「暴力事件だ。人間の男が、獣人の子供を殴った」


創太の表情が変わった。


「……詳しく聞かせてくれ」


事件の経緯はこうだった。


人間の男——中年で、元は商人だったらしい——が、獣人の子供を「汚い」と罵り、殴りつけた。子供は鼻血を出して泣いていた。


「理由は?」


「特にない。ただ、『獣人が嫌いだ』と言っていた」


創太は溜息をついた。


差別。人種差別、種族差別。この世界にも、それは存在するらしい。


「その男を連れてこい」


「わかった」


数分後、中年の男が連れてこられた。


男は反省の色を見せず、むしろ不満そうな顔をしていた。


「何だ、文句あるのか? あの汚らしい獣どもを、躾けてやっただけだ」


「躾け?」


創太の声は静かだったが、底冷えするような冷たさがあった。


「子供を殴ることが、躾けか」


「子供じゃない。獣人だ。人間とは違う」


「……」


創太は男を見つめた。


「この店では、種族による差別は許さない」


「は? 何を言っている。獣人は人間の下だ。それが世の中の常識だろう」


「お前の常識は知らない」


創太は一歩、男に近づいた。


「この店のルールでは、全員が平等だ。人間も、獣人も、エルフも、ドワーフも。来た者は全員、『客』だ」


男は鼻で笑った。


「馬鹿げている。お前は何様だ? よそ者のくせに——」


「店長だ」


創太は遮った。


「この店の店長。そして、この集落のルールを決める者だ」


男の顔が強張った。


「お前に、選択肢を与える」


創太は言った。


「一つ、今すぐ被害者の子供に謝罪し、今後このような行為を二度としないと誓う。そうすれば、ここに留まることを許す」


「もう一つ」


創太の目が、鋭く光った。


「ルールを守れないなら——出ていけ」


周囲の難民たちが、息を呑んだ。


男の顔が青ざめた。


「出ていけって……。外には魔物が——」


「知っている」


創太は冷たく言った。


「だから、選べと言っている」


沈黙が流れた。


男は創太を睨みつけていた。しかし、その目には恐怖が浮かんでいた。


やがて、男は膝をついた。


「……わかった」


「わかったじゃない。謝れ」


「……」


男は歯を食いしばり、獣人の子供の前に頭を下げた。


「……すまなかった」


子供は怯えた表情で、男を見つめていた。


「二度としない」


創太は宣言した。


「次に同じことがあれば、即追放だ。覚えておけ」


男は何も言わず、その場を去った。


その夜、リーナが創太に声をかけた。


「……ありがとう」


「何が?」


「獣人のために、あそこまでしてくれて」


創太は肩をすくめた。


「獣人のためじゃない。ルールを守るためだ」


「でも——」


「でもも何もない」


創太はリーナを見つめた。


「この店では、全員が客だ。客を差別する人間は、店にいらない。シンプルな話だ」


リーナは何か言いたげだったが、結局、小さく「変な人」と呟いただけだった。


創太は苦笑した。


「いい加減、新しい言葉を覚えろ」


「他に言いようがないんだ」


二人は、同時に笑った。


コンビニの「掟」は、こうして少しずつ浸透していった。


人種も、種族も、身分も関係ない。ルールを守れば、誰でも受け入れる。守れなければ、出ていく。


シンプルで、厳格で、そして——平等。


それが、「フレンドリーマート」の流儀だった。



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