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三題噺もどき4

新しい朝

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくはちじゅうに。

 




 橙色が視界を染める。

 街はその一色で染め上げられ、これからくる星の光る夜を待つ。

 きっと、空の端には透明な月が浮かび、静かに見守っているのだろう。

「……」

 窓の端には、二本のグローブが干されている。

 この間、引っ張り出したのはいいものの、少し消臭剤の匂いがしていたので、一度洗濯をしたのだ。正しい洗濯の仕方は知らないがまぁ、縮んでもいないようだしいいだろう。

「……」

 そのグローブが干してある、少し開いた窓の隙間から、子供たちの笑い声が聞こえてくる。

 子供は風の子とは聞くが、彼らはまさにその象徴のように思える。

 毎日毎日、飽きもせずにはしゃぎながら帰路につく。

「……」

 その背中にはきっと、今年の初めは少し大きかったくらいなのに今では丁度良くなったランドセルが背負われているのだろう。子供というのは恐ろしいほどに成長が早いらしいから。―それでも心は変わらずにいられるのだから、純粋な者というのは羨ましい。

「……、」

 ふる―と、ほんの少しだけ体が震える。

 子供たちの声と共に、冷たい風が入り込んできたようだ。

 気付かぬうちに12月を迎えていた今日この頃……このひと月もあっという間に終わるのだろう。そしてまた、新しい年を迎えるのだ。

「……」

 12月は、かつてこの国では師走と呼ばれていたらしい。

 僧侶があちこちに呼ばれ走るから、師走。何とも面白いネーミングだ。

 今の時代は、僧侶でなくてもあれやこれやとドタバタするが。まぁ、いつの時代も忙しない時期だと言うことだろう。

 ――きゅ。

「……」

 まぁ、キッチンの方は毎日かわらず忙しないのだけど。

 甲高い蛇口をひねる音が聞こえたと思えば、皿がぶつかるような音が聞こえてくる。

 とんとんとリズムのいい音がしたと思えば、じゅわりと油の焼ける音がする。

「……」

 そこでは、小柄な青年がエプロンを付けて、朝食を作っていた。

 少し前までこの時間、私はベランダに居たから、なんだかんだあまり見たことがなかった。ここ数日で見慣れてしまったが、いつみても手際がいいなぁと感心してしまう。

「……」

 ちなみに今日のエプロンは、後ろ手に紐で結ばれているタイプのやつだ。

 朝からご機嫌が良いようで……猫の尻尾のようにゆらゆらとその紐を揺らしながら、調理を進めている。

 アイツはまぁ顔には少々出づらいが、それでも分かりやすいと私は思う。本人はそんなはずはないと言うが、自分では分からないモノなんだろう。

「……」

 今朝はご機嫌がよかったので、起きてリビングに来ると、朝食のリクエストを聞かれた。

 私はいつでも和食が好きだから、そうリクエストしてみたのだ。

 味噌汁と少しの漬物と焼き鮭と白ご飯。

 あいにく、焼き鮭はないのでそこは目玉焼きになったのだが。

「……」

 調理が進むにつれ、ふわふわといいにおいが漂ってくる。

 ご飯は昨日のうちにセットしてあったらしいので、もう既に炊きあがっている頃だろう。

 味噌汁の具材は、豆腐とわかめと油揚げ。私はこの三点セットが好きだ。

 これに、たまにねぎが入っていたり大根葉が入っていたりすると、お得感がある。

「……どうかしましたか」

 手元で調理を進めながら、声が飛んできた。

 じっと見ていたのがばれたらしい。アイツもいい加減慣れたらいいのに。

 私は、ああして動いているのを見ているのは好きなのだが、見ているといつもこうして声がかけられる。暗に見るなと言いながら。

「……なんでもないよ」

 そう返事を返し、視線は外さない。

 手元は見えず、見えるのはアイツの頭だけなのだが。音と漂ってくる匂いで、大抵の想像はつく。リクエストしたのは四品だが、それ以外にも少し作っているのだろう。お浸しとかなら嬉しい。

「……お暇なら冷蔵庫から漬物をとってください」

 こちらが見るのをやめないと分かったのか、呆れ交じりにそんなことを言われた。

 珍しいこともあるものだ。基本的には調理中はキッチンに入れないのに。

 今日はほんとに機嫌がいいらしい。

「……何かいいことでもあったのか?」

「……納豆食べますか」

「漬物これでいいか?」

 今日は一日、いい日になりそうだ。





「ん、このお浸し美味いな」

「ものがあれば白和えでも作ったんですけどね」

「買いに行くか」

「そうですね」
















 お題:星・猫・グローブ

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