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星蘭と、麗華と、そして僕

 黎昇が目を覚ますと、そこは星蘭の膝の上だった。


「もう、起きたの……」

「星蘭……と言う事は、俺は……」

「残念でした。貴方は、まだ眠っているの……」

「そうなんだ……じゃあ、今は夢の中?」

「そうね……」

「星蘭……若いな……まだ二十代じゃないか……俺なんか……」

「当たり前よ……亡くなった人は歳を取らないのよ……だから昔のまま……」


 もし読者がいて、その星蘭の顔を見たら、きっと驚くに違いない。なぜなら、星蘭は麗華にソックリさんなのだ。いや、麗華が星蘭にソックリなのか? そんな事は、どうでもいい。膝枕で寝ている黎昇は、じっと星蘭を見つめた。


「それより、黎翔はどうしているの?」

「黎翔……元気にしてるよ……」


 さも、何を聞いているんだとばかりに膨れっ面になった黎昇に星蘭は、二人が喧嘩をしているのだなと察した。


「何かあった?」

「アイツが俺の事を『老害』って言いやがったんだよ……」

「『老害』……そうね。もう六十三歳だし、貴方って頑固だから……仕方がないわね……」

「……もう、宮殿でゆっくりしてろって……来ても『足でまとい』だからって……」


 さて、星蘭は拗ねる黎昇を見て、相変わらずだなと思う。

 星蘭は思う……初めて会った時もそうだ。彼は『炎陽』の将軍で、私は学生だった。顔を真っ赤にして私に告白したのだ。その純情で真面目な態度に、私も彼に好意を寄せたのだった。そう、相変わらず純情なんだ。


「玄穆も言われたそうだ。同い年で『辰雲』の国を一緒に作った仲間だけどな……『老いぼれ』って」

「まぁ、確かにあの人は『黒魔術師』と言うには優しすぎるわよね……」


 玄穆……彼は、炎陽一と言われた黒魔術師だ。軍事政権が支配する『炎陽』では彼の黒魔術は重宝されていたと言う。

 しかし、彼も黎昇も戦う事しか頭にない軍事政権に嫌気がさしていたのだ。そして、二人は力を合わせて反乱を起こす……玄穆の黒魔術と黎昇の人望が合わさった時……そこに『辰雲』と言う新たな国が生まれたのだった。

 炎陽の皇帝『烈火』は、まさか裏切るとは思っていなかった。華熙との戦いは、優位に物事が進む予定だったのに番狂わせである。そのうえ、辰雲は華熙と『政略結婚』を行い、和平を築いてしまったのである。

 そして、辰雲は長い間、炎陽と戦争状態なのだ。


「実は星蘭……玄穆がな……」

「どうしたの?」

「急に、おかしくなったんだよ……華熙に攻め込むとか言い出して……」

「でも、そんな兵力なんてないでしょう……炎陽と戦争中なのに……」

「そうなんだ……もう手一杯なんだよね……どうしてかと聞いたら、実はもう二十年以上前なんだけど炎陽と激しい戦争になった時に、華熙と和平を結ぶ為に『戦略結婚』をしたんだよ……」

「そうなんだ……『政略結婚』って貴方らしくもない……」

「華熙は和平を結ぶ代わりに人質を要求した。その時、一人の女の子が『私がなります』って声を上げたんだ。彼女は『孤児』でね……玄穆がお金を出していた孤児院にいた女の子なんだよ……実は最近、その子が事故で亡くなったみたいなんだよ」

「それで……華熙を攻めようって……」

「そうなんだ。アイツの割に短絡すぎるだろう……でも、問い詰めて話さないんだ……そのうえ……」


 黎昇は二人で話し合った時の事を思い出した。


「お前には呆れたよ……和平って言ったって、こっちは『人質』を出しただけだろう……政略結婚とか言ったって……」

「雪玲は、華熙の宰相『蘇敬』と結婚したと聞いている。決して奴隷とかになった訳じゃあない……ほら、見てみろ……」


 宮殿の高い所から見下ろす首都『白陵』には桜が咲き乱れていた。二十年前に、政略結婚として嫁ぐ事になった『雪玲』が植えた桜が増え、白陵の都を花で埋めたのだった。


「こうやって我々が花を愛でる(めでる)事が出来るのも、この『雪玲桜』のおかげだよ……それは分かっている。そして、事故で亡くなったと聞いた時も……」

「だから、だから……もう和平なんて……もういい……俺だけでもいく……」

「行くな……って言ったよな……」

「俺を止めれるのか……うっ!」


 いきなり腰を押さえる玄穆……思わず黎昇は駆け寄る。腰を擦りながら言う。


「馬鹿、もういい歳なんだから、力んだら腰が痛むだろう……」

「そうだな……あの小坊主の黎翔に『老いぼれ』と言われても仕方ないな……」

「まぁ、アイツは生意気だけどな……」

「だが、俺は行くぞっ……」


 玄穆は黎昇を突き飛ばす。いきなりの攻撃に面を食らった黎昇は倒れた。玄穆は構える……黒魔術の登場だ……


「食らえっ……『生命の黄昏』……」

「なんだと……」


 慌てて黎昇は、傍にあった剣を抜く……そして玄穆の指先から放出された『黄昏の光』を受止めた。それが反射して、鏡に当たり、黎昇の身体を貫いた。黎昇は倒れる……


「これで動けなくなっただろう……」


 玄穆は呟く。『生命の黄昏』は老化を早める黒魔術だ。これを受ければ身体は老化して動けなくなるのだ。

 玄穆は腰を擦りながら、ゆっくりと階段を降りていく。黎昇は倒れたままだった。


 黎昇は目を覚ます。慌てて宮殿を駆け下りた。身体が軽い……庭には黎翔の息子であり、黎昇の孫でもある『黎明』が歩いている。


「玄穆爺さんを見なかったか?」

「あっちに行ったよ……って、お前は誰だよ」

「何を言ってる。爺ちゃんだよ……忘れたのか?」

「……?」


 首を傾げ、唖然とする黎明を後に残し、黎昇は走った。そして、馬小屋まで行くと白馬に跨り、宮殿を出て……


「どうせ、アイツは『飛行術』で飛ぶに違いない……なら、目標は祭り騒ぎで賑わう『華熙』の首都『長燦』に間違いないだろう……」


 黎昇は白馬を走らせた。

 周りの皆は、その若い男が誰なのか分からなかった。だから、唖然として眺めるだけだ。止める者などいない。

 そんな不思議な状況にも関わらず、黎昇の頭の中は玄穆の事で一杯だった。もし、華熙で捕まったら……殺されるのは目に見えていた。それまでに連れ戻さないと……


「漸く見つけたと思ったら、どうして……あんな女の子を襲う? 意味分からんし……」

「そうね……私も分からないわ……」

「それに、玄穆ときたら……術を手加減しやがって……」

「本当は殺したくないのよ……あの人って、そうじゃない?」

「そうだよな……笑顔の似合う『黒魔術師』って言うのはアイツだけだ……」


 星蘭はニッコリと笑った。


「あら、もう時間みたいよ……貴方を起こしに来たわ……」

「まだ、俺を連れて行ってくれないのか?」

「そうね。貴方には、まだやらなきゃいけない事があるみたいよ……」

「やらなきゃいけない事?」

「そうよ……やらなきゃいけない事……」


 星蘭は笑う……その顔が霞んでいく……


「星蘭……」

「だから……何回、言わせるのよ……星蘭じゃないって……」

「誰だ……お前は?」

「だから、何回も言ってるわよね……麗華だって……」

「なんだ……」

「なんだ……とは何よ……そう言う、貴方の名前は? 私は名乗ったよね……」

黎昇(れいしょう)……」


 不貞腐れた顔をしながら黎昇は本名を名乗った。そして気づく……まずい……まずいぞ……本名を名乗ったら……辰雲の元王尊の『黎昇』だと……そうなれば……殺されるかも?

 顔が見る間に青くなる……


「いや……間違い……実は……」

「黎昇ね……そういや、あの老人も同じ名前を口走っていたわ……」

「……」


 あの玄穆のやつ……なんて馬鹿なんだ……バレるやんけ!


「ところで……まだ痛む?」

「うん……君が助けてくれたのか?」

「……そうよ……だから感謝しなさい……」

「ありがとう……ごめん……生意気に……」


 ……可愛い……麗華は、こんなにイケメンなのに素直な黎昇に思わず思ってしまった。キュンと心臓が鳴る。


「どうだ……意識は戻ったか?」


 顔を覗かせたのは天帝の華震だ……黎昇は前の天帝である『華悦』しか知らないが、似ている事から、その男が王族と気づいた。だから身構える。


「私の名前は、天帝『華震(かしん)』……君の名前は、やっぱり『黎』の文字がつくようだ……」

「……どういう意味?」


 麗華が食らいつくように聞く。しかし、黎昇は自らを『天帝』と名乗る馬鹿な男に釘付けとなった。


「まぁいい……その話は後だ……今日は娘の『麗華』を助けてくれてありがとう……何でも『星辰絶刀(せいしんぜっとう)』を使うようだな……」

「……誰から聞いた?」

「麗華が刀が落ちる所を見ていた……『怨嗟千刃(えんさせんじん)』を一気に破れるのは……と予想したまでだ。そして、お前は、それを認めた……そして、それを扱えれるのは……」


 それを扱えれるのは『辰雲』の王族しかいない。なぜなら、それは秘伝の剣法……一子相伝だからだ……

 

「じゃあ、お父様……黎昇って何なの?」

「……何なの……って物みたいに言うなよ……」

「ふふっ、麗華……何だと思う……言っておくが、怪物ではないぞ……」

「だから、何で俺が物のように言われるわけ?」


 その大声に驚いた父娘(おやこ)は黎昇を同時に見た。

 何なんだ! この父娘は?


「すまん、すまん……これは私の予想だが……君は若いし……多分……辰雲の王尊、黎翔の息子だろう……どうだね……」

「……若い……?」

 

 思わず黎昇は、二人の後ろの壁に飾られた、身だしなみを整えるための大きな鏡に目を向けた。

 そこに映っていたのは、自分ではない。

 いや、確かに見覚えのある顔だ。だが、その輪郭はシャープで、頬には皺一つない。白髪だったはずの髪は真っ黒で、そこには見事な艶がある。何より、まるで時間が二十年巻き戻ったかのような、血気盛んな若者の姿がそこにあった。

 

「……は? こ、これは……」

 

 彼は慌てて自分の顔を両手で触った。肌は滑らかで、手には確かな筋肉の感触がある。これが自分の身体だ。だが、この若者は、自分が見慣れている孫の黎明にそっくりではないか。

 隣の麗華は、彼が鏡に見とれているのを不思議に思っている。

 

「は、はい……そうです……」

 

 黎昇は混乱しながらも、反射的にそう答えた。この状況を早く終わらせるため、そして、この信じられない光景が夢ではないか確かめるため、彼はその場しのぎの嘘をつく。

 

「やっぱり……麗華、彼は辰雲の王子……黎昇だよ……」

「王子さま……」

 

 麗華の顔がぱっと明るくなる。隣国の王子なんだ……なら、身分とか考えなくても良さそうじゃん……


「とにかく、先ずは治療が終わるまでは……ここにいなさい……国には連絡しておくから……」


 そう言うと華震は笑いながら、部屋を後にする。

 麗華は名残り惜しそうだったが、医者が『今は安静が必要』と言われ渋々、部屋を後にした。

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