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それはタブーと呼ばれたラストダンス  作者: 桂虫夜穴


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7/13

7、ペア解消の日 それぞれの想い


 今日は両親にペア解消を話す日だ。前日に妹と話し合いをしていた。

 初めから反対されるとわかっていたので、事前に話しをすり合わせて矛盾点を追求されないようにしておいた。


 練習前に事務所で話す事にした。母はすぐに感情的になるので、父を中心に話そうと妹と決めていた。

 しかし、すぐに母が爆発した。父が、冷静になれと宥めてくれたが、これは、厄介だなと、妹と顔を見合わせた。


「何で!何でなのよ!意味わかんない!

これからじゃないの!

やっと、日本一になったのよ!

血の滲むような努力をしてきたんじゃない!

これから世界を目指そうって時に…」


「だからぁ、これが限界なんだよ!

頭打ちなんだよ!

どうにも越えられない壁が

立ち塞がっているんだよ!」


「どこよ!どこにそんな壁があるのよ!

ぶつかってもいないで、そんな事言わないでよ!

椿だってずっと頑張ってきたのよ!

アンタとやりたいって

お兄ちゃんとじゃなきゃいやだって

あんな小ちゃな頃から

一緒にやってきたのに!

どうして…どうして、今なのよ!

せめて、もっと先でも、……いいじゃない…

うううっ……」


母は最後は涙声になった。無念さが滲み出ていた。


「だから…長過ぎたんだよ…

パパやママからすれば俺達の生きてきた年月は

拙い人生かもしれないけど…

俺達には長くて果てしない時間だったんだ。

その時間をずっと一緒に過ごしてきた。

寝ても覚めても一緒だった。

気がつけば、そこに椿の笑顔があった。

俺は、その生活で充分満たされていた。

安心して、安住していた。

でも、攻めの気持ちが薄らいでもいたんだ。

もっと、もっと…って言うギラギラしたものが

俺の中で薄れていった。

椿と一緒に踊れるだけで満足してしまう自分が

常にいるんだ。

このままじゃ、ダメなんだよ!

高み、なんか目指せない。

こんなリーダーじゃだめなんだよ!

椿まで巻き添えにしてしまう。

一度リセットして

俺がもっと上を目指せるようになったら

椿を迎えにくる。

それまで、パパもママも心配だろうけど

見守っていて欲しいんだ。」


「どう思う?パパァ…」


母が父の意見を求めた。


「二人の中では、決まっていた事なんだろう。

これは、相談じゃない。報告だな。

椿も、それでいいのか?」


「う、うん…私も同じ事を思っていたから…

だから…こんな、結論に…

パパ、ママ、ごめんなさい。

ずっと、応援してくれてたのに…」


「いや、応援はずっとしていくさ。

二人がどんな選択をして

どんな方向に進んで

例え別々の道を選んだとしても

それは変わらない。

なぁ、ママ!」


「そうね!そうよ!

ずっと応援し続ける。

私達が花咲兄妹の一番のファンだもの!

あっ!ペア解消しちゃうのか!

ソロでも、相手が変わっても応援する!

だって家族だもの…ねっ!」


「ありがとう!」

「ありがとう!パパ、ママ!」




 二人は練習を始めた。何か吹っ切れたのだろう。キレッキレッのダンスに周りのレッスン生から「ホーッ!」と言う驚きと感嘆の声があがった。

 紙一重で戦ってきたのだ。どのチームとも技術面は肉薄している。結局、最後はメンタル勝負だ。

 心が少しでも折れた者の負けだ。1秒、1ミリの差なのだ。それが勝負の分かれ目なのだ。

 やれる気がしていた。辞める事になって、やれる気がするとはどう言う事なのか?

 色んな制約や呪縛から解放されたと言う事なんだろうな。足枷がなくなったんだ。

 相手に対する気遣い。親やスタッフ、関係者、ファンの期待。それらが一度リセットされるのだ。

 伸び伸びやれる。そう言う事なのだろう。





 その後、両親からダンス協会に二人のペア解消が報告された。

 ダンススタジオでも。その話題で持ちきりだった。白川啓示と冬本千晴もベンチで、その話について語っていた。


「そう言う事だったのか…

最近、おかしかったよな。あの二人!」


「そうね!でも、白川君には

好都合なんじゃないの?」


「えっ!何の事だ?」


「ペア……組みたかったんでしょ!

椿ちゃんと……

ずーーっと、前から…

私は、いいのよ。いつでも解消してあげる。

ペ…ア…」


「そっ、そんな事…

思った事ねーよ!一度も、ねーよ!」


「そっ!

まぁ、いいけど…」






 練習を終え妹はシャワーを浴びに行った。俺はフロアのベンチに座り、スマホで今踊ったばかりの演技の映像を確認していた。


「薫君!ちょっといい?」


「ああ、千晴…座りなよ!どうした?」


「ビックリしちゃた…ペア解消…

いきなりだもん…みんな動揺してるよ!」


「申し訳なかったな。

でも、俺たちの間では、以前から

話し合ってた事なんだ。

やっと、言えたくらいの感じだよ!」


「そうだよね。言い出しにくかっただろうね!

おじさんもおばさんも期待してたもんね。

協会の事もあるしね。

大変だったね!

でも、何だか、清々しい顔してるね!」


「ああ…そうかな…

確かにスッキリしたよな。

つかえてたものが取れた感じだ。

迷いがなくなったよ!」


「そう…で、どうするの?」


「えっ?どうするって…」


「ペア解消するんでしょ?

シングルでやるつもり?」


「まさか…それは、ないけど…

まだ、それは、決めてない。

目の前の世界選手権に

全力を傾けてるんだ。その後だよ。

次のステップは…」


「未定なんだ。向こう水ね!二人とも…

次の相手も決めずにペア解消なんて…

でも花咲兄妹らしいか…フフフッ」


「それ褒めてるのか?」


「褒めて…ないかな?

呆れてる!ハハハッ」


「叶わんなぁ!

千晴には、いつも、やり込められてばかりだな!」


「薫くん……もっと、やり込められたくない?」


「えっ?どう言う事?」


「だ、か、らぁ……ペア!

私と組まない?」


「ええっ⁉︎

だって、千晴には白川がいるじゃないか!」


「彼は椿ちゃんを狙ってるわ!

私も行き先決めとかないとね!バツイチだもの…

気の知れた人に貰って欲しいじゃない。」


「別に離婚する訳じゃないだろ!」


「私達だって10年以上ペアを組んできたわ。

中年夫婦の年月とそう変わらないでしょ。

それがペアを解消しようって言うのよ。

それ相応の覚悟がいるし、保険も欲しいわよ。」


「俺が保険なのか?」


「ううん…それは、もしもの時の例え話よ。

そう言う準備も必要って事。

でも、薫くんは私の特別な人だから…話しが違うわ。

薫くんは私の…初恋の人…

だから…ペア…組んで欲しいの…

考えといて…じゃあね!」


 冬本千晴は言い終えると小走りでシャワー室に向かった。途中で肩にタオルを掛けた椿とすれ違ったが、視線を合わさずに通り過ぎた。


「千晴ちゃん!どうしたの?

泣いてたよ!

お兄ちゃん!また、何か言ったの?

いつも、一言多いって言うか…

デリカシーが、無かったりするから…」


「ああ、何か目に入ったって…

今、目薬さしたから大丈夫じゃないかな…ああ」


千晴…泣いてたのか…

いつもみたいに、からかわれたのかと思ったけど…

本当なのか…本気なのか?

俺の事を……



それに、白川…アイツも本気なのか?

椿の事…


色んな事が、一気に動き出し始めた。

そんな気がした。




続く


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