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それはタブーと呼ばれたラストダンス  作者: 桂虫夜穴


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2、妹のお泊まりと俺の苦悩


早すぎる。まだ、まだ、何も達成できてない。

椿は、本当にそれで良いのか?

これからって、時に…

ケガも治って、調子は上がっていたはずだ。

何故、この時期に…


男…? 

出来たのか?  

彼氏が…


いや、そんなはずはないだろう。

それが、コンビ解消の、理由になるとは思えない。

仮に身体の触れ合うダンスに

嫉妬するような者ならば

そもそも椿と付き合おうとは、思わないだろう。

これ程、ダンスに情熱を傾けてきたのだ。

彼氏なら、なおさら愛する人の

生き甲斐を奪うようなまねをするとは思えない。

ならば、やはり椿自身が

悩み抜き導だした答えなのだろう。


15年間コツコツ積み上げて来た物が

一気に崩壊して行く。音を立てて崩れて行く。

頭の上からバラバラと何かが降り落ちてくる。

そんなイメージに押し潰されそうになった。

ベッドに一人座り頭を抱えこんだ。


こんな日は、いつもなら目の前に椿がいてくれた。

悩みを打ち明けたり愚痴をこぼしたり…

そうやって気分を上げてくれた。


落ち込んだ俺の話を椿はいつも笑顔で聞いてくれた。

温かい微笑みで頷いて俺の肯定感を満たしてくれた。


それが、今、俺の前に椿は居ない。


「今夜は、友達のウチに泊まるから…

お兄ちゃん…ゆっくり考えて…」


妹が気を利かせて家を開けた。

気まずさもあっただろうが

目の前に難問を投げかけた本人がいては

落ち着かないだろうと…配慮してくれたのだ。


しかし、一泊できるような

気心の知れた友人が居たのか?

そう言えば、初めてだった

俺の知らない所で妹が外泊するのは…

妹は行き先を告げなかった。

俺も、敢えて…いや、それどころでは、なかった。

そこまで気が回らなかった。それだけの事だ。


旅行にダンスの遠征。いつも一緒だった。

俺達は学校の部活には所属していなかった。

両親の経営するダンス教室でレッスンに打ち込み

日常の殆どの時間を兄妹で過ごしていた。

それは、生活の一部であり、あるいは全てで

ごく当たり前の事だった。

それを不自然だと思わなかったし

不自由だとも思わなかった。

それが全てであり尊い時間だった。

妹と分かち合う時間が生活の全て

拙い人生であっても、その全てだったのだ。


その全てを否定されたような気がした。

しかし、椿が、そんな事を思っているはずはない。

何か、得体の知れないモノに覆われ

そんな思いに侵食されたのだ。

そう、思いたかった。


お前のして来た事は全て無意味だったと

蔑まれ罵られているような気がした。

自身を肯定出来ない自分しか、そこにはいなかった。

全てを肯定してくれる妹は今、ここに、居ないのだ。


情けない兄貴に、手を焼いて距離を置いたのだろう。


どこが頼り甲斐があるお兄ちゃんだ。

実は妹に頼ってばかりいたのは俺自身じゃないか!

妹の足を引っ張っていたのは、俺なんだ。

俺が椿の足枷になっていたのだ。

そんな事も気づかず、偉そうに

生活も進路もダンスも

全て自分がリードしてきたと思い込んでいたのだ。

ただ、先に歩かせて貰っていただけなのだ。

先に生まれた歩幅だけ

ほんの少し先に居ただけなのだ。


妹は、それが窮屈だったのかも知れない。

本当は、もっと早く走れたのに俺がいるから

躊躇して…遠慮して前に行けなかったのだ。


もう、妹の足が私の踵にぶつかりそうなくらい

その距離は、肉薄していたのだ。

だから、あんな事故が起きてしまったのだ。

私のリードが遅れたのだ。

今までのレベルなら、それでも良かった。

しかし、世界を視野に入れるなら

そのレベルでは駄目だったのだ。

コンマ何秒か先を行くリード…それが鍵となる。

それが、わかっていながら体がついて行かない。

結果、妹は、あんなケガをしてしまったのだ。

他愛もないケガだ。

私のリードが的確に行われていれば

何も起きなかった。

たとへ何か起きても防ぐ事ができまはずなのだ。


私の反射神経と瞬発力

そして判断不足が露見しただけだった。

椿は、その犠牲になったのだ。

被害者なのだ。


もう答えは出ていた。

妹を解放してやろう。自由…

そう自由にしてやらなければならないんだ。

自分で自分の進路を決め、生き方を選択し

自分らしく、自分の人生を生きる。

それが椿の為になるんだ。


何故、その事が、即決できなかったんだ。

妹の、目の前で笑顔で応えてやれなかったんだ。

ご丁寧に自宅に持ち帰りクヨクヨ思い悩んで

恥の上塗りをしているだけだ。

自分自身に見られて逃げ場もなくて

恥を晒しているだけなのだ。



妹よ… 椿よ…


お前を自由にしてあげよう


いや、そんな事はおこがましい。

元々、妹は自由なのだ。

俺に、そんな権限などない。

例え、兄妹であろうと他の者と何も変わらない。

交渉しなければならないのだ。

いついつまで一緒にやる。

期限を決め、約束事を作らねばならなかったのだ。

親から与えられた環境に甘んじて

その延長線上で全てやってきた。

枠に、はまっていたのだ。俺は…

それで安心していたんだ。

しかし妹は、それでは治らなかった。

その壁を突破したかったんだ。


実家を出て二人で暮らす事を提案したのは妹だった。

私は食事面や、経済的な事を考え躊躇したが

妹に説得され実家を出たのだ。

その時も妹だ。何か動く時は妹が口火を切る。

私は、その最終選択権を与えられるが

いつも答えは既にでているのだ。

そちらしか方向性も選択肢もないのに

眉間にシワを寄せて難しそうな顔をして

究極の選択をしたようなフリをしていた。

本当は妹に誘導されていただけなのだ。


今回もそうだ。


それだけの結末なのだ。


俺は妹にすがりついて泣きじゃくって

行かないでくれ!

俺を捨てないでくれ!

…と、醜態を晒したのと同等だ。

心の中では、そうなっていたのだ。

今にも、それをやらかそうとしていたのだ。

寸でのところで踏み止まった。

兄としての威厳を保った気でいた。

しかし、そんなものは、以前からなかったのだ。

妹には、ずっと前から見破られていたのだ。

頼りなくて情けなくて足手纏いの兄貴…

それこそが俺なのだ。


花咲 薫。


それ以上でも、それ以下でもない。


ただの男なのだ。


妹を人として女性として愛してしまった。


馬鹿な男なのだ。




続く





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