1、妹の決心
「お兄ちゃん…話しがあるの…」
「えっ!どうしたんだ?改まって…」
「あのぉ……あのね…………………」
「どうしたんだ?言いにくい事なのか?」
「うん……でも、ちゃんと言わないとダメだよね。
自分で自分の言葉で言わないと…
いつも、お兄ちゃんに頼ってばかりで…
それが、ダメなんだよ!
あのね…私、お兄ちゃんと……
ペアを解消しようと思うの…」
「えっ⁉︎ 」
「突然、こんな事、言い出してごめんなさい!
でも、私の中では、ずっと前から思ってた事なの…
中々、言い出せなかったの…
それが、今夜に、なってしまった。
それだけ……」
「それだけ⁉︎ こんな重大な事をそれだけって
言い放つのか?」
「違うは!ちゃんと話しを聞いて!
それだけは、今夜、絶対言いたかったって
言おうとしたのよ!」
「同じ事だ…
この15年間、二人で積み重ねてきた事の
全ての重みをたった一行の言葉で
消去してしまうのか⁉︎」
「消去には、ならないわ!
二人で築きあげた、踊りや技は
私たちの歴史として確実に残るわ。
それは、映像などだけでは、なくて…
この胸の中に深く強く刻まれて
決して消える事はないわ!」
「しかし、もう、その歴史は閉ざされてしまうんだ。
そして、時と共に積み重ねた記憶さへ
色褪せていくんだ。
もう、終わるんだ。全てが…」
「お兄ちゃん…そんな言い方…しないで…
だから…だから…言えなかったのよ…
今日言おう…明日言おうと、思い詰めながら
今夜、この時間まで言い出せなかった」
「何で……何でなんだ…
俺達は、まだ、何も成し遂げて、無いじゃないか!
国内の大会で優賞したからって
それは、通過点に過ぎない。
これからじゃないか!
なのに……なぜ?」
「だから、なのよ!
もう、頭打ちになってるわ…
私達は今、伸び悩んでいる。
わかってるの…それは、私が原因だって…
私がお兄ちゃんの足を引っ張ってるのよ!
それが、私には耐えられないの…
お兄ちゃんの才能を私が、潰してしまっている。
それが苦しいのよ。申し訳ないのよ…うううっ…」
「椿…それは、故障したからであって…
完治すれば…また元の様に踊れるようになるさ!」
「そんな気休めは要らないわ!
もう、治っているのよ。この足首はっ!
それなのに、お兄ちゃんのスピードに
全然ついて行けない!」
「そんな事ないよ…
勘が戻ればまた
以前のようにやれるさ。
だから、焦らずやっていこう」
「ああーっ!それなのよ!
お兄ちゃんが、そうやって私を甘やかすのよ!
何か、あったら私を庇って
頼り甲斐のあるお兄ちゃんが、そこにいて…
私はまた、情けない何もできない妹…
お兄ちゃんの後ろに付いて行くだけの女の子…
もう…そんなの耐えられない!
お兄ちゃんの邪魔をしてまで
続けられない…」
「そんな…そんな事…一度も思った事ない。
椿は俺にとって大切な妹だ。
俺が一緒にやりたくてやってたんだ。
足手纏いとか邪魔だとか…
そんな事、ある訳ないだろう。
ずっと、やってきたじゃないか!
小さな頃からずっと…」
「だから、一度…リセットした方が良いと思うの…
近すぎるのよ…。
この距離感も関係性も……
私も、来年、二十歳だわ。もう、大人よ!
お兄ちゃんに頼ってばかりいられないわ。
自分で何でも決めなくてはならないわ。
それが、これなの…
これが私にとっての第一歩なの!
まず、お兄ちゃんと言う壁を越えなくては
私は大人として…女として…人として
一人前になれないわ!」
えっ!俺が、椿の壁なのか?
それじゃあ、邪魔してるのは、俺の方じゃないか!
足を引っ張ってるのは俺の方だ。
俺の我がままで椿を俺の鳥籠に閉じ込めてたのか?
椿が何も言い出せないような
圧をかけ続けていたのか!
俺って奴は…なんて…
ちっぽけで、みみっちい奴なんだ。
そんな妹の気持ちに全然、気がつきもせず
知らぬまとは言え、ここまで追い込んでいたのだ。
「お兄ちゃん…ごめんね!
お兄ちゃんを傷つけるような事ばかり言って…
でも、やっと胸に使えていたものが取れたわ…
私は、前向きにやって、行くつもりよ。
お兄ちゃんにも、そうあって欲しい!」
「そうだな。わかった。
椿の思いは伝わったよ。
もう、決意も固まってるみたいだし
椿の気持ちを尊重するよ。
今すぐ全面的に肯定する事はできないけど
少しずつ受け入れていく努力はするよ。
ただ、一つだけ
俺の、お願いも聞いてくれないか?」
「え、何? 」
「今度の世界選手権までは
ペアを組んでエントリーして欲しいんだ。
それが俺達のラストダンスにして欲しいんだ」
「わかった。それまで私も全力で取り組む。
お兄ちゃんとペアを解消した後の事は
まだ未定だけど…
これで、最後と思えるくらい打ち込むわ!」
「椿……」
「お兄ちゃん!」
続く




