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逆さまの蝶  作者: 徳次郎
2/23

プロローグ・2

 遠くに浮かんだ三日月よりも、落ちてきそうな頭上の星屑たちが森を明るく照らしていた。

 慶太は親友の杉原と夜中に部屋を抜け出すと、外壁の雨樋を伝って庭に出る。

 彼はそのまま河原まで駆け抜けるつもりだったが、ふと振り返ると杉原が一階の壁に沿って忍び足で歩いていた。

「おい、スギ、どうした?」

 慶太は小声で言う。

「ちょっと待ってくれ、由木にも声かけてみるよ」

「陽菜は行かねぇだろ」

「美智も誘えば行くって」

 杉原は小さな小石を拾って、一階の角部屋窓に向って投げる。

 コツンッと一回。

 もう一回投げると、ゆっくりと窓が開いた。警戒しているのか人影は見えなかった。

 杉原は窓越しに顔を出して

「ヤッホっ」

「ぎゃっ……」美智が一瞬声をだして自分の手で口を塞ぐと小声に戻り

「びっくりしたなぁ、もう。なによ、スギ」

「花火やるけど、行かない?」

 窓から部屋の奥を覗くと、トランプを片手に由木陽菜の姿があった。しかし、四人いるはずの部屋には、他にひと気がない。

「他の二人は?」

「知らない、どっか行ってる」

「じゃぁ、お前らも行こうぜ」

「あと誰いるの?」

「俺がいるって事は、慶太に決まってるだろ」

 美智の気持ちは決まっていた。

 振り返って陽菜を誘う。

「もう 消灯の時間だよ」陽菜は小さく首を振った。

「大丈夫だよ、どうせ消灯時間になんて、みんな寝ないから」

 美智は二人分の靴を手に、無理やり陽菜の手を引くと、一緒に窓から出た。


 夜の河原はひんやりと冷たい風が吹いていた。川のせせらぎに虫の声が聞こえる。

 星の瞬きが、川の流れと大氣を照らしていた。

「ねえ、あれ蛍じゃない?」

 陽菜が声を出す。

「どれ? どこ?」

 美智が目を凝らす。

「ほら、向こう岸」陽菜が指差すと、杉原も慶太も一緒に目を凝らした。

 確かに川の向こう岸の長い水草付近を光る物体が浮遊してる。微かに点滅して、まるでクリスマスの飾り電球のようだ。

「すげー、俺初めて蛍みた」

 杉原は高揚した声を上げると、慶太の背中を意味も無く叩く。

「あたしもっ、なま蛍初めて」

 美智はピョンピョン跳ねて、杉原の腕を叩く。

 慶太は一歩前に出て、陽菜と肩を並べた。背の小さな陽菜は、慶太の肩のあたりに頭が来る。

 既に入浴を済ませているせいか、女性用の甘いシャンプーの香気かおりが夜風にほんのりと鼻孔をくすぐった。

 陽菜は慶太の肩を頬に感じながら、点滅して浮遊する物体を見つめていた。


「あたしたち、先に行ってるから」

 花火を楽しんだ後、美智が杉原の腕を掴んで歩き出す。

「なんだよ、お前ら……ゴミ拾っていけよ」

 慶太が小声で叫んだ。しかし、二人は林の間をどんどん歩いてゆく。

 陽菜と慶太は仕方なく、二人で花火の残骸を拾ってコンビ二袋に入れた。

 慶太がコンビ二袋の取っ手を結んで肩をすくめる「しょうがねぇな、アイツら」

「気を使ってくれてるんじゃない?」

 陽菜は星空を見上げる。そんな彼女の横顔を覗き込んで慶太は

「何に?」

「な……何にだろうね」

 陽菜は急に膨れっ面で歩き出す。

「おい、待てよ。どうしたんだよ」

 足早になる陽菜の後を追って、慶太は直ぐに彼女の横に並んだ。

「アイツらって、微妙にできてんの?」

 陽菜は慶太の腕に、小さな拳でパンチした。

「そんなわけないでしょ」

「なんだよ、何急にヒネクレてんの?」

「別に、ヒネクレてないもん」

 陽菜はさらに足早になる。

「なんだよ」

 慶太は彼女の小さな背中を見失わないように、一定の距離を置いて歩いた。





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