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逆さまの蝶  作者: 徳次郎
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プロローグ・1

久しぶりの投稿になります。

恋愛ファンタジー?なのですが…ジャンルは恋愛にしました。

少しゆっくり投稿する予定ですので、なんとなく読んでいただけたら幸いです。

 梅雨が明けると極暑の夏空が広がって、陽炎で霞む高層ビルの向こうに入道雲が見えた。

 海風は熱を含んで、高速湾岸線と国道357の間を吹き抜けてくる。

「ちょーかったるいよ。海が間近なのに、何が哀しくて山に行くの?」

「しょうがないじゃん。林間学校って言うのは、たいてい山のほうに行くんだから」

「めんどうくさーい」

 由木ゆうき陽菜ひなは、やたらとぼやきの多い親友、朋平ともひら美智みちの愚痴を聞きながら朝の夏風に吹かれていた。

 美智はスクールバッグを意味も無く振り回す。

「ヒナは優等生だからね」

「そんな事ないよ」

 陽菜もつられてバックを揺らした。

 国道357は高速湾岸線と並走して、お台場から習志野まで続いている。

 幕張駅の近くの県立朝日が丘西中の二年生は、決まって毎年夏休み初日を含む三日間、林間学校を予定している。

 当然のように夏休みを三日間失うわけだから、ぼやく生徒がいても仕方ない。

「そりゃヒナはさ、慶太も一緒だからいいだろうけど」

 美智が少し意地悪な笑顔で言う。

「そ、そんなの……慶太なんて関係ないよ」

「またまた強がり言っちゃって」

 校舎の向こうに高速湾岸線が見えるその向こうに細長く聳えるビル。

 マリンスタジアムの歓声までは聞こえはしないが、海風は夏の喧騒を運んでくる。

 正門をくぐって、ヒナはグラウンドに目を向けた。

 慶太が走っている。

 サッカーコートの中を、ボールが足にへばりついているかのように走る。

 何人かが駆け寄ってボールを奪おうとしているが、慶太の足にくっついたボールは彼の意のままに、前後左右に不思議な動きをして、それでも彼の足から離れようとはしない。

「ほらっ、また見た」

「な、何が」

「朝はいっつも慶太チェック」美智が笑う。

「そんな事無いってば」

 ヒナは美智に身体をぶつけると、その勢いで昇降口へ駆け出した。


  * * *



 高速を使ってバスで三時間。茨城県の山中に山荘が並ぶこの場所は、大学の体育部がよく合宿を行う場所でも在る。

 朝日が丘西中学校がここへ着いたのは、夏休み初日にあたる七月十九日だった。

 辺りは森林に囲まれて、近くを川が流れる。

 山荘の裏にはテニスコートもあって、小さな林を挟んだ向こう側には有名体育大学の合宿用コテージが見える。

 西中の二年生は五クラス。陽菜のいる四組と慶太のいる五組はこの山荘へ、他の一組から三組までは川向こうの別の山荘へ向った。

 それほど大きくは無い山荘だから、全学年が一箇所で合宿する事はできない。

 全盛期は八クラス在ったから、それぞれ四箇所に分かれたらしいが、いまはひとクラスの人数も少なく、二箇所に分かれるだけになる。


 山荘と言っても、それなりに大きな建物だった。

 洋館を思わせるコの字型の二階建ての建物は、バブル期にホテルロッジとして経営されていたが、十年以上前に市に買い取られてこういった学校行事やイベント事などに格安で使われているらしい。

 誰もいないフロントのカウンターは今でも健在だが、管理会社との連絡用電話機が在るだけで他には何も入っていない棚が並んでいるだけ。

 フロント奥のスタッフ休憩室だったであろう小部屋は、引率教員のミーティングルームとなる。

 部屋は全部で二十室あり、生徒に割り当てられるのは全部で十六室。

 二人部屋だったはずの場所に四人ずつ入れられ、大部屋は教員が分かれて使う。


 初日の日中は野外炊飯のみ。

 河原へ出て、鍋釜で料理をしてみんなで食べる。

 その後、夕方までは自由行動だった。

「こんな場所で自由行動とか言われてもねぇ」

 美智が木陰に入って顔を手のひらでひらひらと扇ぐ。

「いいじゃん。のんびりできてさ」

 陽菜は木陰から蒼い空を見上げた。

 緑の山の向こうに白い雲が大きくせり出している。

 蝉の声が、空に向かって鳴り響く。

「何おばちゃんみたいな事言ってんのよ、ヒナ。あたしらにのんびりなんていいの」

 辺りには、同じく暇を持て余した生徒たちがウロウロして行き場を探している。

「ヒナっ」

 白樺の木陰から声がした。

 美智の方が先に振り返る「ほらヒナ、麻野が呼んでるよ」

 麻野慶太がふらりと歩いてくる。

「麻野、タケとかと一緒じゃないの?」

 美智が話しかける。

「いや、さっきまで一緒だったけど、なんだかあいつらテニスコートの方に行ったよ」

「あはは……なんか、目的は想像がつく……」

「テニスコート、だれか使ってんの?」

 陽菜は木陰から出て、陽の光に目を細める。

「どっかの大学サークルが来てるんだって」

 美智はそう言ってから慶太の腕をつついて

「あんたは行かないの?」

「行くかっ」

「本当は、行きたいくせに」

 陽菜が拾った小枝を彼にぶつけて笑った。





お読み頂き有難う御座います。

このお話はSwallowtail Butterflyスワロウテイル・バタフライを書く前から執筆している由木陽菜のお話です。

最後までお付き合いいただければ幸いです。


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