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島流し上等だった令嬢は、なぜか王子に求婚されました

作者: ろいちこ

今回が初めての投稿になります。拙い部分もあるかと思いますが、楽しんで読んでいただければ嬉しいです。


 婚約破棄の日が、ついに来てしまった。


 今日は、王立学園の卒業パーティー。

 わたし――エルノア・グランディエ侯爵令嬢は、この日をもって、王子との婚約を破棄され、島流しになる予定だった。


 だって、そう決まっていたのだ。ゲームのシナリオでは。


 わたしは十歳のころ、ここが乙女ゲームの世界だと気づいた。そのゲームでは、攻略対象の王子に対して邪魔者ポジションで登場し、最後に断罪される悪役モブ令嬢がいた――それがわたし。


 ヒロインをいじめるわたしの性格の悪さと、将来王妃になる予定なのに学園での成績も悪いことが知れ渡り、王子に「君との婚約は破棄する!」と宣言され、島流しにされるというイベントが待っている。


 ……なので。


「着替えは五日分、非常食、医療ハーブ、サバイバルナイフ……あとは全部覚えたつもりだけど、この『毒草大全』と『応急処置図解』と……」


 わたしは旅立ちの準備をしていた。

 この日が来るのを、十歳のときから分かっていたから。


 人里のある島に流された場合に備えて、庶民の暮らしを観察するためにこっそり城下町に通ったり、修道院には多額の寄付をして一時だけ修道女として清貧な生活を送らせてもらったり、護衛の騎士に護身術を教えてもらって少々の困難があっても切り抜けられるようにした。

 また、万が一無人島に流された場合でも生き延びるために、野草の見分け方、地形の把握、害虫や毒動物の対処法、火おこしの方法、農作物の育て方、天候の予測法……そんなことばかりを勉強してきた。


 王妃教育? えっと……うん……その……


 島に流される予定だったから仕方ない。生き延びるほうが断然大事だし。

 ゲーム内では無能令嬢と罵られていたので、勉強はそこそこ頑張るようにしたし、それで学園では成績中の上をキープしていたし。王妃教育を受けないくらいは全然大丈夫でしょう。両親とメイドは泣いていたけれど、なんだかんだ言ってわたしの奇行には付き合ってくれた。ごめんなさい、皆さん、もう少しの我慢ですので。


 いつ島に流されてもおかしくないように準備していたので、もう卒業パーティーには行きたくはなかったが、出席しなければいけない。式の最後に、王子が健気で勉強熱心な男爵令嬢を選び、わたしに冷たい言葉を投げかける流れがあるのだ。大勢の前で、盛大に婚約破棄されるのが予定通りのエンディング。


 だから、玄関で彼を見たとき――心臓が止まりそうになった。


「……ユリウス、殿下?」


「迎えに来たよ、エルノア」


 彼はそう言って、手を差し出してきた。


 ユリウス=グランステイン第一王子。

 冷静沈着で整った顔立ち、さらりとした銀髪と涼やかな青い瞳が印象的な、王国の未来を担う美貌の青年。

 そして、わたしの婚約者。


 一方のわたしはというと、焦げ茶の髪を巻いた地味なボブスタイルに、灰緑色の目。

 服装も控えめで、装飾品は少なめ。

 気が強いタイプではないから、地味で真面目そう――が、よく言われる評価だった。真面目そうなだけで大して真面目ではないのだけれど。


「でも、えっと、あの……? わたし……」


 王子は迎えに来られないから、確か王子の側近とかに迎えに来るはずじゃなかったっけ? そんなあたふたしているわたしを見ながら王子は、


「婚約者の僕がエスコートするのは当然じゃないか」


 そのままエスコートされ馬車に乗せられ、学園の大ホールへ。

 煌びやかなパーティー会場では、男爵令嬢が隅のほうで友人と談笑していたけれど、殿下と絡む様子は一切なかった。


 絶対になにかおかしい。とはいえ、そんなこと誰に言って分かってくれるはずもなく、とりあえず流れに身を任せるしかなかった。


 そして、パーティーの終盤。

 庭園の奥、誰もいない静かなベンチで――わたしは、人生でいちばんの驚きを迎えた。


「エルノア。婚約してはいるけれど、改めて言わせてくれ。君と、これからも一緒にいたい……僕の妃になってくれないか?」


「…………? ……!?」


 一瞬、耳を疑った。


「え……と、それは……?」


 どういうことだろうか? わたしと王子は婚約者同士ではあるが、学園でもそんなに話したことないのに、わざわざこんなことを言われるなんて。思わず問い返したわたしに、ユリウス殿下はまっすぐな瞳で言った。


「君は僕に興味を示すわけでもなく、地位に執着するわけでもない。特に何の目的もなく過ごしている令嬢だと思っていた。けど……君は違った」


 え、それはそうですね……結婚できない人と交流もつのもねぇ……? 生き延びるのが第一ですし。


「君は本を読んでいた。植物図鑑、動物誌、地形や天候の研究書。また、君は修道院に通い、庶民の中に身を置き、誰にも気づかれないように支援をしていた」


 ………………まさか見られてたのか。


「偶然、見かけたんだ。あまりに妙で、最初は驚いた。けど、調べていくうちに分かった。君は自分の立場を、未来を、本気で考えて動いていたんだって」


 王子は何かとてつもない勘違いをしていらっしゃるような……?


「正直、学園の中庭で草をかじってた時はちょっと怖かったけど……それ以上に、民を導くために大切な何かを持ってると思った。だから――君しかいないと思った」


 草食べてるの見られてた?! でもしょうがないじゃない!? 学園の庭で食べられる野草を見てしまったのだから――。

 というか、草食べてる令嬢を見て、なんで君しかいないと思うのよ!? やばいやつだよその女は! 王子、感性大丈夫かな? 王子、激ヤバ物件では?


 でも今さら島流しされるかもしれないから頑張ってました! なんて、意味わからないこと言ってるとしか思えないだろうし……


「あ……いや、どうでしょうねぇ? そんなので婚約継続を決めてしまっていいのでしょうか?」


「もちろんだ。君にふさわしく、また民を導く立派な王となるために僕も君以上に努力しないと」


 ……崇高な理念を持っていらっしゃる。これは逃げ場ないな。一度決まった婚約をわたしから理由もなく破棄できるわけもなく。


 ……じゃあ、もう、このまま結婚してしまっても……いいのかな? いいかもしれない。なにせ顔がいい。あと、民を思っているであろう人のことが好きなら、いい君主になるのでは。さっきは激ヤバ物件なんて言ってごめんなさい。


「そうですか。ではわたしでよければ……よろこんで……」


「ありがとう」


 殿下は、いつになく嬉しそうに微笑んだ。くぅ、めちゃめちゃかわいい。ありがとうございます。眼福です。

 そして、少しだけいたずらっぽく言った。


「でも、エルノア。王妃教育、ちゃんと受けてなかったよね?」


「ひっ!?」


 ば、ばれてる。これはまずいのでは……?


「大丈夫、明日からびしびし鍛えるから。覚悟して」


「……うう……」


***


 そして始まった王妃教育。


 調香術の授業では――

「……あ、これ、沼地に生える睡眠作用のある花とそっくりな香りですね。過剰摂取すると呼吸が……」

と言ってしまい、講師を凍りつかせ、


 宮廷マナーの講義では――

 ワインの毒の有無を念入りに確認してしまい、講師に怒られ、


 装飾品・服飾知識の授業では――

 『このブローチは刺突武器としても優秀だな』と思いながら素振りをしてしまい、講師に止められてしまった。


 ――島流し対策は、王妃教育で活かすには強すぎた。王子が時々見学に来てくれたが、ちょっと笑ってた気がする……このままだと婚約破棄されかねない。こうなったからにはそれだけは避けないと。


 この知識が本当に役立つ日がくるといいなと思いつつ。いや、きたら国の危機なのか? じゃあ来なくていいです!  一生安泰に暮らす予定です!

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。

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