独白‐6
三題噺もどき―ななひゃくにじゅう。
低い、換気扇の回る音が響いている。
あまり好きな音ではないが、台所に匂いがこもるよりはマシだ。
音というのは、静かであれば静かな方がいいに決まっている。
元の姿の体質のせいで、耳が異様に敏感だから、うるさい音は好まない。
「……」
そうは思いながらも、換気扇を回しているのは、料理をしているからだ。
揚げ物をしているせいで、その匂いが台所にこもって仕方がない。2人分の量とは言え、出来る限りてんぷらの種類多くしようと思えば結果は分かりきっているのだが……あの人は食べられるときに食べさせておかないと、またいつ体調を崩すかわかったものではないから。今年の夏は特に暑い日々が続いているから、油断ならない。
「……」
しかしまぁ、夏場の台所は、体が溶けるのではないかと思う程に暑い。
今は特に、揚げ物をしているからなおの事。
これが終わったら今度はメインのそうめんもゆでないといけない。
二つあるコンロの内、一つは揚げ物、もう一つはもうすぐで湯が沸ける。
「……」
ぱちぱちと跳ねる油を眺めながら、昨夜の祭りを思い出す。
昨日はお互い、その祭りの影響で疲れ切っていたな。
……自分はそんなことないつもりだったが、やはり人混みはそこにいるだけでも疲れる。ただでさえあの大人の姿に成るのも疲れるのに。まぁ、あの人も楽しそうだったし、珍しいものが食べられたので何も言ったりはしないが。
「……」
あの祭りは、最後に花火が上がっていたのだけど。
さすがにあの音は看過できないので、花火が上がり始める前に家に帰っていた。
しかしまぁ、花火というのはそれなりに上の方で開くだろう?あれのおかげで、家のベランダからも見ることができたのだ。
多少音が響いてはいたが、先週の祭りに比べたら遠くで上がっていたので、少しだけ覗いた。
すこし遠くの夜空で、轟音と共に火花が散っていた。
「……」
まぁ、確かに。
綺麗なものだとは思った。
それを見るあの人も、楽しそうで、よかったと。
こうして、我がままに付き合うのも、いいものだと。
「……あつ」
そんな、こっぱずかしいことは言わないし、これ以上考えるのもあれなので。
さっさと調理に集中するとしよう。揚げ物をしているのだから、目を離してはいけないし、ぼうっとしてもいけない。
「……」
眩暈がしかねないほどに暑さの増した台所で、衣のついたエビを、油の中にくぐらせる。
あまり大きなものではないが、昼食に食べるには丁度いいだろう。
野菜のかき揚げは先程作ってすでに上げている。作るのは少々手間だが、あの人は野菜のてんぷらが好きなのだ。健康志向ってわけでもないだろうけど。
あとは、ピーマンと、茄子と、大葉のてんぷらを揚げてある。
「……ふぅ」
まぁ、これだけあれば十分だろう。
最近そうめんばかり食べているから、こういう添え物でどうにか紛らわせないと食べなくなりかねないからな。色々と、麺つゆをかえたり、パスタ風にアレンジしたりもしているが……そうめんは便利だが味が単調で飽きが来てしまうといけない。
「……」
揚げ物の方の火を止め、ぐつぐつと言い出した湯の中に、そうめんの束を入れる。
とりあえず、三束くらいで良いだろう。あまり量があってもな、てんぷらが食べられなくなる。食べ物を残すことは、まぁ、ないからな。
「……」
一度、落ち着いた鍋が、更に沸騰するまで少し待つ。
その間に、シンクにボウルとその中にザル入れて、用意しておく。
鍋が噴きこぼれないように火を調整して。
「……、」
ゆであがったそうめんを、用意しておいたザルにあげ、水にさらす。
軽くもみ洗いしながら、一本だけ口に運ぶ。
うん。我ながらいい感じだ。
「……」
ザルに入れたまま、軽く水けを切って、ボウルに移す。
その中に水を入れ、いくつか氷を浮かべておく。
「……さて」
昼食の準備も整った。
今日も部屋で仕事をしているご主人を呼びに行こう。
「ん、このかき揚げ美味しいな」
「それは良かったです」
お題:溶ける・眩暈・台所