何処でもない世界 【月夜譚No.341】
花に雪が積もっていく。色とりどりだった地面が、白一色に染まっていく。
それはとても綺麗で、けれど切なくもあった。穢れのない白は美しいが、暖かだった色彩を冷たい色で塗り潰しているようにも見える。
彼は窓の内側で静かに佇んで、只管にそれを見つめていた。
ここは世界の狭間。何処にも属さないこの場所には、四季など存在しない。常に春で、夏で、秋で、冬。だから春と冬が混在したようなこんな景色も、日常茶飯事だった。
それでも、この切なさは慣れることがない。人間でない彼はいつからここに存在しているのか、これがいつまで続くのか、見当もつかない。
慣れてしまえば楽なのだろう。だが、どうすれば慣れるのか、それも分からない。
雪が溶けたら、下から何が出てくるのだろう。
願わくば、彼の心が晴れるようなものであって欲しい。
肩に垂れた長髪を払った手を、何かを求めてきゅっと握った。