幸せ クラリッサSide
私の恋はこうして叶ったのだ。
強力な恋の成就のおまじないは何か。
少なくとも、強力な縁結びをしてくれたのは死の象徴とも言われたミソサザイだった。
ミソサザイは高音でとても良く響く声でさえずり、私の恋を応援してくれた。
退学になった寄宿学校で私は最強の味方を獲得していたようだ。
ミソサザイはことあるごとに、私を導いてくれた。
ハット子爵夫人となったエミリーは、ハット子爵をとても愛してくれていた。娘のジーンのことも、よく助けてくれていた。
私は縫製工場の運営に、ジーンと一緒に乗り出した。適切な労働環境の提供と、手ごろな価格で品質の高い製品を提供するために、試行錯誤を繰り返している。
各地のトレンドに合わせた市場調査の重要さも教えている。製造コストの最適化が、結果的に、メイドのエミリーのような貧しく若い人にも無理なく買える商品を売れるようになるのだから。
カイル王子はこのところ、ネメシアとの境にある魔物の森の制圧にも成功し始めていた。陰ながら、私の力を役立ててもらっている。
もうすぐ結婚式の日がやってくる。
娘のジーン・ハット子爵令嬢は、オークスドン子爵夫人となった。店の名前はジーン・オークスドン子爵夫人の仕立て屋に変わったが、引き続き、カイル王子の服の縫製をやってもらっている。
さらに、私のウェディングドレスも仕立ててもらっている。
ジュディスとルーニーの結婚も、ようやく来月に決まった。ジュディスも孤児なので、嫁入り支度を私とハット子爵夫人で協力して一緒に進めている。
イザベルは、最近、カーダイアと良い感じだ。
パース子爵はイザベルに免じて赦したが、カイルはパース子爵邸からの外出をパース子爵に認めていない。
警戒は引き続き必要だ。
だが、今、私とカイル王子は幸せだった。
ハネムーンは、残りのマイデンの縫製工場がある街に作られた隠れ家を全て回る旅に決まった。
「マイデンのお父上のシガレットケースを一ついただけないだろうか」
カイルは最近よくそう言っている。
驚いたことに隠れ家に置いてあるシガレットケースにも紋章がついていた。
私は父に守られていたことを感謝しても感謝しきれない。
父はこうなることを見越していたかのように、隠れ家にはカイル王子のサイズに合った衣類が完備されていた。王族用の宮廷衣装もあった。
「愛しているよ、クラリッサ」
「私もよ、カイル」
17歳で失恋して、27歳で愛する人の身代わりになって密かに命を失った私は、こうして幸せになった。
私の隣で私の手を握ったカイル王子は、ローデクシャーの森で私が見つめたように、私を見つめている。
あの時は日の輝きが彼のブロンドの髪をてらして王冠のように見えたが、今はシャンデリアの灯りで王冠を被っているかのように、カイル王子のブロンドの髪が輝いている。
挙式のリハーサルをしている私の頭には、宝石が埋め込まれたティアラが輝いている。
「いかなる時も愛すことも誓いますか?」
「誓います」
「誓いますわ」
あらゆる貴族、著名人、王国の民が見守る前で私たちは挙式を上げるのだ。
人生において、17歳は一瞬だ。
だが、その心は永遠だ。
何かを間違えたと思っても、何かを失敗したと思っても、回り道をして自分の心が求める道に戻れれば、それでいいのかもしれない。
雪が間もなく降るだろう。
だが、私たちは寒さが緩和された頃にひだまりで咲くクロッカスのように、人生に辛い寒さが訪れた後の幸せを享受していた。
クロッカスの花言葉は「青春の喜び」「切望」だ。
星が輝く夜に、空を見上げれば、何光年もはるか遠くから光を届けてくれる星がある。思いは届かないようで、どんなに遠く離れていても、目的のところまで届くのかもしれない。
「愛しているよ」
そっと囁いて、カイル王子が私のウェディングドレスのベールをあげて口付けをした。
私たちの幸せは始まったばかりだ。
この幸せが生涯続く事を願う。
大聖堂のステンドグラス越しに陽の灯りがふわりと降りてきた。20年前のあの日の恋は、今、まさに成就しようとしている。
完
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