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運命に委ねる クラリッサSide

ほっぺがひどくヒリヒリする。ぶたれたようだ。



「言うこときけ!さもなければお前など、殺してやるぞ」



 エミリーの父の声がすぐ隣でして、私はみすぼらしい男を見上げた。エミリーは当時8歳のはずだ。8歳の自分からすると、隣の男は大男に見えた。



 足が痛くて、靴を見下ろした。上等だが、完全に私の足には合わないようだ。



「あそこのテントにいるハンサムな男が花嫁と花婿と話しているだろう?あいつの手元にこのグラスを置いてこい!」



 私はこづかれて、グラスを持つ手に力を込めた。グラスの中の液体はこぼれていない。



 私はうなずくと、そろそろと歩き始めた。



 戻れたわ!

 今度こそ、このチャンスをモノにするわ!


 絶対に運命を変えてみせるわ。



 着飾った紳士淑女の群れの中に入り込んだ。ザッカーモンド公を探すのだ。



 イザベルは、ザッカーモンド公とパース子爵の繋がりを否定しなかった。やはり、裏社会のリーダーと言うのは、ザッカーモンド公のようだ。



 私の目の前にダークブロンドの髪をして青い瞳の女の子がサッと現れた。



 隣に褐色の髪をかきあげてブランの瞳をキラキラさせている、元気そうな男の子が立っている。2人とも貴族社会の令嬢と子息に相応しい着飾った格好をしていた。



 男の子の手にはお酒の入っていそうなグラスがあった。私の手の中のグラスをダークブロンドの髪の女の子が取った。すかさず、代わりのグラスとして、男の子が私の手の中に自分のグラスを押しつけた。


 私はそっと聞いた。



「イザベルとルーシャス?」


「もちろんよ、エミリー」



 にやっとイザベルは笑った。そして、ルーシャス・オークスドンと顔を見合わせて笑った。



「戻れたわ。私にとっても生涯のトラウマにとなる現場なのよ。今、運命を変えてやるわ」


 イザベルは笑って言った。



「エミリーはカイル王子の手元にそのグラスを指示通りに運んで。中身は強いお酒らしいわ。だけどただのお酒よ」



 9歳のイザベルはささやいた。



「あなたは、そのグラスをどうするの?」



 私はイザベルに聞き返した。



「さあ、カイル王子の結婚を阻むのはけしからんと言う思いよ。何より暗殺計画自体が気に入らないのよ。ザッカーモンド公は愛人と享楽的な生活を送っていて、私の理想とする国家の(あるじ)には相応しくない。私が命をかけて国家に捧げられると思えるのは。カイル王子だけよ」



 およそ9歳らしからないキッパリとした口調でイザベルは言った。



「ルーシャス、どう思う?」

 

 聞かれたルーシャスは唇を噛み締めた。



「俺の妹にザッカーモンド公はちょっかいを出したんだ。今からおよそ8年後のことだけど。俺自身は決して許していない」



 ルーシャスは13歳ぐらいだろうか。こちらもおよそ子供らしからぬ口調で言った。


私はイザベルとルーシャスを見た。



「じゃあ、運命に委ねるということでいいかしら?」


「ザッカーモンド公が飲むか飲まないかは、運次第ね」

 


 イザベルの言葉にルーシャスも私もうなずいた。



 私たちは顔を見合わせてその場を離れた。大人は私たち子供に全く気を取られていない。子供はナースに預けたり、ナニーに預けたりして、大人は身勝手に振る舞える時代なのだ。



 無関心な大人たちをよそに、私はイザベルとルーシャスと別れて歩き続けた。



 カイル王子が笑いながら、エロルーラ伯爵とその花嫁と話し込んでいた。私はカイル王子の指の先数センチのところに、グラスを置いた。遠くで見ている監視の者がいるとしたら、私はちゃんと仕事をしたように見えるはずだ。



 そのまま私はそっとその場を離れた。



 


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