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誰が彼女を カイル王子Side

 はぁ、幸せだ……。

 この世にこんな幸せがあったとは……。


 信じられないほど満たされた思いだ。



 俺は世界が生まれ変わったのかと思うほど、周りが輝いて見えた。帰りの馬車の中でエミリーの手を握っていた。


 エミリーは頬を上気させて俺を見つめてくれる。



 いやぁ、なんでそんなに可愛いいんだろう……?


 可愛すぎるよ。

 エミリー、君ともう離れたくない。



 俺の心の中は、エミリーでいっぱいだった。従者のルーニーは、エイドリアンにすぐさま告げ口するだろう。俺を分かったようは顔で見つめて、ニヤニヤと笑みを噛み殺そうとしていた。



 だから、その顔やめろって……。



 今、馬車の中には俺とエミリーの2人きりだ。ルーニーには御者と一緒に御者台に座ってもらったのだ。その代わり、ハット子爵令嬢ジーンの仕立て屋のジュディスに会いたいらしいルーニーのために、この後仕立て屋まで訪問することにしている。




 しかし、唐突に馬車の中でエミリーに聞かれた質問で、エミリーと離れ難い気持ちでいっぱいだった俺は、不意打ちを食らったようになった。



「カイル。あなたの叔父上のザッカーモンド公は本当に辺境の地ノークにいますか?」



 突然、エミリーにそんな質問をされて、ハッとした。俺はなぜそんな質問をするのかとエミリーの顔を見つめた。



 なんだ?

 ロジャー叔父上……?



「王位継承権順であれば、あなたがいなければ王座につけると明確に知られているお方は、唯一ザッカーモンド公のみですわ。あなたがいなくなれば得するお方としては、ロジャー・ザッカーモンド公は筆頭ですよね?」



 俺も処刑された時から巻き戻った時、オークスドン子爵に手紙を書いてもらったほどに叔父のことは気になっている。



「それからイザベルに助けてもらったと伺いましたが、どなたに会おうとして、魔物に襲われたのでしょうか。イザベルは誰と繋がっているのでしょうか」



 俺はエミリーの顔を見つめた。彼女は鋭い。グリーンの瞳が心配そうに俺を見つめている。



 あの処刑されたあの雪の日の記憶を遡る。俺が分かったのは、イザベルがそこに立ち会っていたことだ。彼女は裏社会の人物とも今も関わっている。その件を叔父が後ろで糸を引いているとするとどうなるのか。



 仮に叔父のロジャーが俺の命を狙っていたとする。


 その場合、パース子爵が叔父に協力するメリットは、叔父が王座についた時の見返りだろう。イザベルも然り。



 ロジャー叔父には子供がいる。アメリアとキャサリンという二人の姉妹だ。


 ロジャー叔父が王座に着けば、アメリアが未来の女王になる。



 王座を巡る歴史を紐解けば、あり得ない話ではない。


 だが、そのためには俺を誰にも分からない方法で罠にはめるか、俺を自然死に見せかけて殺すか、自分には無関係であると証明できる方法で俺を殺すか。その3つのいずれかを達成する必要がある。




 叔父が俺から王権を奪おうとしている?

 いや……まさか?


 でも本当にその可能性はないだろうか?



「念の為に、ジーンの鳩郵便屋でザッカーモンド公宛のやりとりがなかったかも調べてもらいますね」



 エミリーがそう言ったのを、俺は呆然とした心地で聞いていた。



 最後に叔父に会ったのはいつだろう?

 確か、アメリアとキャサリンを連れてきた叔父と、昨年のクリスマスに会ったはずだ。



 叔父は、最近はいい恋人候補がいないのか、と心配そうに聞いてきたっけ……。




「ありがとう。確かに叔父には動機がある」



 俺はエミリーにつぶやいた。


 10年前のブレックファースト・ウェディングにロジャー叔父も招待されていた。彼もその場にいたことを思い出した。



 叔父は俺とクラリッサの関係を知っていたはずだ。クラリッサが俺のグラスを奪っても、俺たちの仲を疑うことはしないだろう。昔のよしみだと思うはずだ。



 俺が考え事に没頭している間に馬車はいつの間にかハット子爵邸の前についた。



 あぁ、残念……。

 もう着いてしまった。

 もう少し、2人だけでいたかった……。




「エミリー、愛しているよ。今度はいつ会えるだろう?」

「ジーンと、縫製工場の視察に行く予定なのよ。南のピットチェスターの街に鉄道を使って視察に行くのよ。そこから帰ってきたら、また会えるわ。4日後よ」



 なんだって!?

 4日も会えないのかっ!



「俺も行く」



 思わず口走ってしまっていた。



「えっ!?」



 エミリーが驚いて私の顔を見返した。俺はエミリーを抱きしめて軽く口づけをした。



「そんなに離れていられないよ。ピットチェスターで落ち合おう。その近くの村に小さな城を持っているから」



 俺は思わずそう口走っていた。



 38歳の王子が、そんなに恋に盲目的でどうするっ!?


 だが、この気持ちはもう止められない……。


 いや、俺が積極的過ぎて18歳のエミリーに引かれてしまうのでは?




 エミリーは驚いた顔をしていたが、俺に手を差し伸べられて馬車から降りると、人目を気にして、俺の顔を見つめて微笑むだけでうなずくと、そのままハット子爵邸の店の中に入って行った。


 

 俺はルーニーを連れて、仕立て屋の中に入った。ルーニーは綺麗に撫で付けた髪をまた撫で付けて、緊張した面持ちで付いてきた。


 彼は今日、ジュディスに注文をするのだ。仕立ててもらって取りに行く時にまた会えるようなモノを見繕ってもらうんだと張り切っている。



 俺は素早くピットチェスターに行けるよう、予定を考え始めた。


 公務の隙間に何とかねじ込めないだろうか……?





***


 それが3日前だ。


 冷たい雨に濡れたピットチェスターの街で、俺は血眼になってエミリーを探していた。ジーンよると、エミリーは何者かに連れ去られたと言う。



 ジーンも心配のあまりに半狂乱になって探していた。


 ガーダイアも探してくれているが、エミリーの居場所が分からない。



 イザベルか?


 俺は嫌な予感がして、寒気を覚えた。



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