覚悟 クラリッサSide
「確か手紙が来たんだったよね。ライ、覚えているかい?」
「あぁ、招待状じゃなかったか?」
「いえ、違うかも知れないわ……。何かをクラリッサは聞いたんだ。そうだ、ミソサザイから聞いたんだだわ!あの鳥があの日、クラリッサに何かを教えたのよ」
「あぁ。そうだったな。でも、確かにミソサザイは死の象徴だったな。クラリッサが亡くなってしまったのだから」
私は2匹がヒソヒソと話す言葉を黙って聞いていた。
頭に整理して想像してみた。
10年前、私は舞踏会に出席する予定だった。だが、ミソサザイが何かを喋ったのを聞いて、出かけた。
そして戻ってきた時には既に毒物を服していてしまっていて、芝の上に倒れた。すぐそばに鳩のピーブス達がいて、私の伝言を聞いてくれた。
「ミソサザイは何を話したのかしら?」
私は心臓が締め付けられるようだった。私が思わず出かけなければならないと思ったぐらいの内容だったはずだ。
「それは分からないが、行ったのは昼食会だったかな?」
「あぁ、そうだ、昼食会だ!」
「そうだね。ほら、あの時アルにクラリッサが話していたじゃない?」
「そうだ、そうだ。あの日、急にクラリッサは昼食会に出かけると言っていた」
「ピクニックだ!」
「そうだね。ピクニックだ。どっかの写真家を招いて、カイル王子もいて……」
いよいよだ。クラリッサはカイル王子も参加するピクニックに行った。
「ウェディング・ブレックファーストが、テントを立てたガーデン・パーティ形式で行われるって行っていて……」
「あぁ、そうだ、だからクラリッサがピクニックみたいなものよって話していたんだ」
ウィディング・ブレックファーストは昼食会のようなものだ。朝早くに始まった結婚式の後に皆で花嫁の家に戻って、結婚披露宴を昼食の時間に行うのだ。
誰の結婚式だろうか。
10年前にカイル王子も参列した華やかなウェディング・ブレックファーストで、誰かがカイル王子を暗殺しようとした。それをクラリッサは食い止めた。
招待状が届いたということは、元からクラリッサは参加するはずだったのかも知れない。
暗殺事件が企てられていることをミソサザイから聞いた私は、人知れず、暗殺事件が起きるのをくいを止めた、ということになる。
自分は死んでしまったけれど……。
確かにテントを立てたガーデン・パーティ形式なら、開放的で、悪巧みをする者からしたらチャンスが多いのだろう。
「誰の結婚式か、もしくはどこに行くかを聞いているかしら。思い出したらまた教えてくれるかしら?」
2匹はうなずいてくれた。
私はメロディとライに小声でお願いして、ギュッと抱きしめた。生まれたての子犬をもらってきてお世話をしていたはずなのに、2匹は子犬から老犬になっていた。
「生きていてくれてありがとう」
私は2匹に感謝を伝えると、屋敷に戻って行った。明後日、10年前に参加したウェディング・ブレックファーストのことをカイル王子に会った時に聞いてみよう。もしかしたら、その日、カイル王子はクラリッサである私に会ったのかもしれないから。
その日の夜は、私はなかなか寝付けなかった。カイル王子に付き合って欲しいと言われたことと、ピーブスの話、メロディとライの話と、立て続けに起きたのだ。
私は寝る前、カイル王子に口付けをされたことを思い出して赤面した。うっとりするような心地になった。彼を守って、人知れず自分が身代わりになって死んだことが分かった今となっては、より切ない気持ちになった。
付き合ってもらえないか。
えぇ、喜んで。
その言葉をどれほどクラリッサである私は求めていたのだろうと、17歳の自分と、27歳で死んだ自分を思って私は泣いた。
今度こそ、思いを遂げよう。そして、2人で幸せになろうと思った。
***
私たちは熱い口づけをしていた。互いの体に手を回している。
暖炉の火が燃えていて、山の中の別荘にはロマンチックな雰囲気が漂っていた。
起爆剤となったのは、イザベル・トスチャーナの話題だ。彼女にひょんな所でカイル王子が助けてもらったという話を聞いたのだ。
クラリッサである私は人知れずカイル王子の命を救って死んでしまったのに、イザベルに助けてもらったとカイル王子に聞いたら、私は自分を止められなかった。
今日、カイル王子と一線を越えよう。
今日、カイル王子に別荘に案内されたのだ。昨日も忙しく働いていたら、あっという間に約束の日になった。
別荘に入った瞬間、私はドキドキが止まらなくなった。
心臓の音が高鳴る。
体が何だかふわふわする。
私は別荘の湯に先程入らせてもらった。流れでカイル王子も入った。
ブロンドで青い瞳のカイル王子は、私の頬を撫でて、もう一度口づけをした。
湯上がりの私は、カイル王子のガウンを借りてそれだけ羽織っているだけだ。
「いいね?」
カイル王子は私を見つめて確認した。
いいわ……。
私は頬が熱いのを感じながら、うなずいた。
そのままベッドに押し倒された。私はカイル王子の覚悟を感じていた。
彼の瞳に映る私がどうぞ綺麗に見えますように。
私はガウンをはらりと取った。
息を飲むカイル王子のシャツのボタンに私は手をかけた。
私たちの20年ぶりの逢瀬は、かなり熱くて、取り返しがつかない所まで進んだ。
カイル王子は初めてとは思えないほど上手くて、私を抱きしめてくれた。




